第2話 松葉杖の見習い魔法剣士、イキり少年たちに剣術の恐ろしさを教える! 【ざまぁ回】

 今日も雨が降っている。


 僕はダナン、十六歳。ダナン・アンデルドだ。


 昨日、魔物討伐とうばつ隊、「ウルスの盾」から追放された、見習い魔法剣士だ……。


 右足に、魔力の攻撃を受け大怪我し、魔力が侵食しんしょくし、マヒしてしまった。左脇に、一本の木製の松葉杖を抱えて歩いている。


 松葉杖を片腕で一本、持つときは、痛めた足の逆の腕で支えるのが正しいやり方だ。僕の場合は、右足を怪我しているので、左脇で抱えて支える。


(松葉杖をついている僕がお金をかせぐには、十歳くらいの子どもに魔法剣術でも教えるしかないか)


 僕はため息をつきつつ、小都市ランゼルフのランゼルフ・ギルドに行ってみた。


 ギルドとは、魔物討伐とうばつの依頼、職業の紹介――斡旋あっせんをしてくれる場所だ。


 ◇ ◇ ◇


「あら、かわいい男の子だこと。何かご用?」


 ギルドに行くと、美しい女性が応接室に案内してくれた。年齢は三十代前半くらいか。


 彼女の名前は、マリー・エステラン。このギルドのギルド長らしい。


 まるで、占い師のようなフード付きローブを羽織っている。


「僕は右足が不自由で、仲間から追放されました。お金がないので、仕事探そうかと思いまして。でも僕は魔法剣術がクソ弱」

「あなた!」

 

 いや、まだ僕の話終わってないよ?


 マリーさんは、僕を鋭い目で見て言った。


「……とんでもない魔法剣術の能力を秘めているわね。す、すごい潜在せんざい能力よ。こんな人、初めて」


 マリーさんは驚いたような表情で、僕を見ている。

 

 アイリーンと同じようなことを言ってるぞ?


 でも、僕は即座に否定した。


「あのー、僕は単なる激弱げきよわ見習い魔法剣士ですけど」


 僕が言うと、マリーさんは首を横に振った。


「今の状態ではそうかもね。だけど私は、『門を開く』ことができるの」

「も、門って何ですか?」

「人間は普段、秘めている力、能力がある。それが体内の『七つの門』によって閉じられているの。能力をもっている人は、『門が開いて』いるのよ。普通の人にはやらないけど、あなたはお役目があるから、すぐに『門を開け』ないと」


 高いツボを買わされるパターンかな?


「動かないで」


 マリーさんは指を動かして、何か空中に図形を描き出し、奇妙な文言を言った。


「『主よ命令せよ』『光よ照らせ』」


 すると……。


(【スキル・獅子王ししおう剛力ごうりき】を解凍中……【スキル・鳳凰ほうおうの神速】を解凍中……【スキル・獅子王ししおう剛力ごうりき】を解凍し終わりました。【スキル・鳳凰ほうおうの神速】を解凍中……。【スキル・英雄王の戦術眼】を解凍中……。【スキル・大魔法剣士の秘剣術ひけんじゅつ】を解凍中……)


 ん? 僕の頭の中に、何か声がひびいてるぞ?


「さて……仕事を探しているって言ってたけど」


 マリーさんは何食わぬ顔で、書類を見始めた。


「あ、あのー、一連の謎の儀式は一体なん」

「ちょうど、このランゼルフ・ギルドの魔法剣術道場のBクラス師範しはんが指導をあきらめて、やめてしまってね」


 いや、聞いて?


「あなたを師範代しはんだいとして、任命します!」


 マリーさんは、鋭い目で僕を見た。すんげえあつ


 い、いや、とにかく仕事にありついたんだ。チャンス!


 Bクラスとは、十歳から十五歳の、まだ魔物討伐とうばつ家になっていない少年少女魔法剣士のことだ。


 ん? 師範しはんが指導をあきらめた? どういうことだ?


「フフッ」


 マリーさんは美しく笑った。


「あなたの能力……『彼ら』に見せてやって」

「は?」


 ◇ ◇ ◇


 僕はマリーさんとともに、ギルド横に併設へいせつされている、魔法剣術道場に行った。


 ……何だ、これは。


「ギャハハハ!」

「あいつら、おかしいったらねーんだよ」

「だから、俺は言ってやったんだよ!『さっさとナンパしとけ』ってよ」

 

 道場生と思われる少年たちが、道場の床に寝転んで、くっちゃべっている。


 年齢は多分、十四歳か十五歳くらいか? 僕より少し下くらい? だが……。


 ぼ、僕の苦手な不良君たちじゃないかああっ! 怖ぇえええ!


 そ、それにしても……。


 普通、魔法剣術道場で、寝転んでしゃべっていたら、師範しはん木剣ぼっけんでバキバキになぐられるはずだ。


 士官学校中等部時代、それだけ道場は神聖なものだと習った。


「皆! 新しい先生が来ましたよ!」


 マリーさんが声を上げた。


 先生って……やっぱり、それ……ボクノコト?


 不良たちは、僕のほうを一斉に見る。


「金髪の子がデリック・ワット。太った男子がマーカス・ロイ。背の高い子はジョニー・ライパルト。全員十五歳よ」


 マリーさんは、僕に言った。


「新しい先生……師範代しはんだいってわけか? いらねーな」


 金髪の、イキッた少年が立ち上がった。


 ひいいっ! やっぱ怖い! カツアゲ必至じゃん?

 

 僕はその場を逃げ出したかった。


「デリック、よく聞いて。ダナンは一歳年上。あなたたちに魔法剣術を教えてくれるのよ」


 マリーさんはそう言ったが……。


「何だ、こいつ。松葉杖ついてんじゃん。しかも、俺らと1歳しか歳が違わないって? 俺らの先生として、使い物になんのぉ?」

「ギャハハハ! こいつ、いじめちゃおうぜー!」


 太ったマーカスも、背の高いジョニーも、ナメきったことを言って僕を笑っている。


「じゃあさ、俺の剣を受けてみてくれよ」


 デリックが、道場に常備されている木剣ぼっけんを取り出しながら言った。


木剣ぼっけんだから、属性ぞくせい魔法剣は使えねえけどよ」


 属性ぞくせい魔法剣とは、剣に火や氷の魔法をかけて、魔法攻撃をする技だ。木剣ぼっけんだと、魔法の通りが悪いから、属性ぞくせい魔法剣は使えない。


「剣術でボコボコにすんぜ? この新しいセンセイ様をよぉ」


 なるほど、前任の師範しはんがやめた理由は、こいつらのこの態度か。こりゃあ、やめたくなるわな。


「ちなみに俺、子どもの頃から十年、魔法剣術やってからさー」


 あ、そうなんだ。ボク士官学校と魔物討伐とうばつで四年間しかやってないんで、こりゃ負けるわ。どうやって、ここから逃げようかなー。


(【スキル・鳳凰ほうおうの神速】を解凍し終わりました。【スキル・英雄王の戦術眼】を解凍中……。【スキル・大魔法剣士の秘剣術ひけんじゅつ】を解凍中……)

 

 あーもう! また頭の中の声か! 


 し、しかし僕にはお金がない。とにかくここで働かないと、生活できないじゃないか。


 僕は怖々こわごわ、マリーさんから木剣ぼっけんを受け取る。


 右手に木剣ぼっけん、左脇に松葉杖の状態だ。


「では、練習試合開始!」


 マリーさんが勝手に掛け声をかけた! ひいっ!


 すると!


「でりゃああああっ! 死ねやああ!」


 デリックがいきなり、木剣ぼっけんを振りかざしてきた。


 しかし――。


 ガキイッ


 ガキッ

 

 ガスッ


「はあ、はあっ……な、なんだ?」


 デリックは目を丸くして、つぶやいた。


 デリックの右斜め、左斜め、真上からの上段斬りを、僕は自分の木剣ぼっけんで、すべて受けることができた。


「ぜ、全部、受けられた? 俺の剣が?」


 デリックは舌打ちし――。


「ど、どうせまぐれだ、この野郎っ!」


 デリックは驚きを隠せぬまま、強引に、左斜めに斬り下げてきた。


(ここだっ!)


 ガキイイッ


 僕は、素早く自分の木剣ぼっけんで、デリックの木剣ぼっけんを弾き飛ばしていた。


「え? お、俺の木剣ぼっけんが……」


 デリックは目を丸くする。


 て、手が勝手に動いた? い、いや違う。僕は彼の太刀筋たちすじを、完璧に見切っていたんだ!


 そして僕は動揺どうようしているデリックの首筋に、木剣ぼっけんを突き付けた――。


 勝負あった。僕の勝ちだ!


「な、なんだこいつ……。つ、強ぇ……」


 デリックはおびえた表情で、僕を見ていた。


 だがその時――マーカスとジョニーが、木剣ぼっけんを手にしていた……。


 まだ終わっていない!

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