魔法剣士の片手剣術無双 ~松葉杖をついた魔法剣士ですが、女ギルド長に超スキルを引き出してもらい最強になったので、ライバル剣士たちを片手で無双します

武志

第1話 松葉杖の見習い魔法剣士、魔物討伐隊から追放される

 飲み屋の「獅子王亭ししおうてい」の窓に、強い雨が叩きつけられていた。


 森は雨風に吹かれ、なげくような音が聞こえる。


「てめぇは、もうこの魔物討伐とうばつ隊から出て行け!」


 幼なじみの勇者、ドルガー・マックスは僕に向かって声を荒げた。


 飲み屋には僕たち以外、客は誰もいなかった。この大雨の中、こんなさびれた飲み屋に来る客などいない。


 ただ、店主がグラスを布巾ふきんいていた。


「ま、待ってくれ。僕にはお金がないんだ。今、やめさせられると困る。きっとこれから先、仕事がないだろう」


 僕――ダナン・アンテルドは声を上げた。


 僕は十六歳の見習い魔法剣士、ダナンだ。ついさっきまで――魔物討伐とうばつ隊「ウルスの盾」所属だった。


 僕は士官学校の中等部を卒業し、高等部に進学せず、そのまま魔物討伐とうばつの世界に飛び込んでしまった。もちろん、ドルガーも、他の仲間も高等部に進学していないが。


「金がない? お前の事情なんて知らねーよ!」


 ドルガーは僕をジロリと見て言った。僕の座っている椅子の横には、一本の木の松葉杖と、愛用の魔法剣「グラディウス」が立てかけてある。そして、僕の右足には包帯が痛々しく巻かれていた。


「悪いけどよ、まともに動けねぇヤツなんて、魔物討伐とうばつ隊にいらねーんだよ」


 ドルガーはチッと舌打ちする。


 そう、僕は見習い魔法剣士だが、右足が不自由だ。一ヶ月前、右足を大怪我したのだ。


 左足は大丈夫だが、右足はマヒ状態。右ヒザが曲がらない。医者には一生、完治しないと言われた。


 これからずっと、片松葉かたまつば……つまり、左脇に松葉杖を一本抱えて歩く生活が続くのだ……。


「なにブツブツ言ってんだよ!」


 バキイッ


 ドルガーは僕のほおをなぐりつけた。


「ああ? 俺らは慈善じぜん団体じゃねーんだよ。役に立たないヤツがいたらクビ。社会ってそんなもんだろ」


 ドスッ


 武闘家のバルドン・ロードスが倒れた僕の腹を蹴る。


「う、うげえっ!」

「おらよ!」


 ミシッ


 ドルガーは、僕の顔をみつけた。な、なぜ、ここまでするんだよ? 僕ら、幼なじみじゃなかったの?


「だいたい、俺、お前のこと、ムカついてたんだわ」

「な、なぜだよ」

「弱すぎてイライラしてたんだよ! しかも性格が暗いときてる。しかもなんかキモい。それはある意味才能だがな。マイナスの意味で」


「ウルスの盾」には三年間所属していたけど、皆と仲良くやっていけてるように思えた。でも、皆、僕のこと「クソ弱い」「暗い」「ムカつく」と思ってたの? あ、あと「キモい」か。


 最悪の評価だネ(涙)!


「そもそも、お前! さっきも言ったが、怪我する前だって、お前は弱すぎた! 魔法剣士じゃなくて、ほぼ荷物持ちをやってたろうが」


 ドルガーが続けて怒鳴る。


 そもそも、僕は見習い魔法剣士。言うなればメッチャ弱い。もんのすごく弱い。この大怪我をする前も、雑魚ざこ魔物のスライムとゴブリンに追いかけ回された。


 剣術? 力も弱いし、雑魚ざこ敵のスライムにすら大苦戦する。


 属性ぞくせい魔法剣? 火の属性ぞくせい魔法剣しか使えず、しかも剣がちょっと熱くなるだけだ。


 だから、魔法剣士の仕事をせずに、最近は荷物持ちをしていた。


 僕の身長は百六十センチ、体重は四十八キロ。


 魔法剣士としてボリュームがないと言われれば、「その通りッス!」と返事するだろう。それに加えて、この大怪我……。


 女魔法剣士のアイリーン・フェリクスは、黙って窓の方を向いている。


 アイリーンはすごい美人なんだが……残念ながら、ドルガーの彼女だ。ま、僕のことなんて、どーでも良いんだろうな。


「思い出してくれ。僕が大怪我をした時のことを」


 僕は抗弁こうべんした。


 一ヶ月前、僕たち魔物討伐とうばつ隊は、トードス草原で、ジャイアント・オーガという鬼系の魔物に襲われた。


 魔物とは力の差があり、僕たちは逃げ出した。


 しかし、たまたま草原に物売りに来ていた、道具屋の少女がいたのだ。少女は十歳くらいか。父親も一緒だった。


 ジャイアント・オーガが少女を襲おうとしたとき、僕は身をていして、その子をかばった。……あ、ようするにね、皆に、カッコイイとこ見せたかったんだよ!


 その時、ジャイアント・オーガの振りかざした棍棒こんぼうが、僕の右足に直撃したというわけだ。棍棒こんぼうには魔力がかけられており、その魔力が右足の骨に侵食しんしょくしてしまった。だから、僕の右足のマヒは治らないのだ。


「何を言い出すかと思えば」


 魔法使いのジョルジュが、銀縁メガネをすり上げながら口を開いた。


「ダナンさんが勝手な行動をしたから、怪我したんでしょ?」


 ジョ、ジョルジュ! お前まで! お前は唯一の僕の弟分みたいなものだったじゃないか。


「あとさ、お前、奴隷どれい街の出身だろ。下民だ」


 ドルガーが言った。


「俺らは、平民だ。今後、大貴族から討伐とうばつ依頼が来そうなんだ。お前のような下民がいると、話が流れちまう。大貴族は奴隷どれい民とか下民を嫌うヤツが多いからな」


 ドルガーは立ち上がり、僕を見下ろした。


「おい、バルドン、ジョルジュ、アイリーン。もう行こうぜ。新しい依頼がきているかもしれない」


 ドルガーはそう言って、さっさと獅子王亭ししおうていを出ていった。バルドンとジョルジュも続く。


 僕は床に座り込みながら、泣いた。松葉杖は転がったまま。椅子もひっくり返っている。


 僕が弱いから、こんな悲しい目にあうんだ。うう……。


 でも、立とうにも、右足がマヒして動かない。じ、自分で立たないと……。


 すると――。


 アイリーンが椅子の位置を直し、松葉杖を僕の手に渡してくれた。


「あ、ありがとう」


 僕がお礼を言うと、アイリーンは顔を少し赤らめて言った。


「べ、別にあんたのためを思ってやったわけじゃないから。店に迷惑がかかるからさ。立てる?」

 

 アイリーンは僕の腰に手を回し、立たせてくれた。


「婚約するんだろ? ドルガーと」


 僕は言った。僕は、結構、君のこと、好きだったんだけど。


「……まあね。でもドルガーのヤツ、他の女にモテるから」


 え? 何だ? なんかさみしそうな顔をしてるけど。


「ところで、あんたさー。自分の才能に気づいてないんじゃないの?」

「え?」

「メチャメチャ魔法剣士の才能があるのに。動き見てればわかるよ」

「そ、そんなわけないだろ」


 僕が言うと、アイリーンはため息をついた。まるで分かってない、という風に。


「仕事ないなら、人に魔法剣術を教えてごらんよ」

「……え? 僕が?」

「自分の才能に気づかないの、もったいないよ」


 アイリーンはそういって、さっさと飲み屋を出ていった。


 ……僕はまた一人ぼっちになった。

 

 僕は泣いた。


 しかし、アイリーンのこの言葉の通り、この最悪の人生が大逆転するとは、その時は分からなかった。

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