〜第39話〜 エキシビジョンマッチ

「さぁさぁ!チーム戦のトップバッター!今日も俺たちを熱く燃え上がらせてくれぇ!」


アニメや映画でしか見たことのない実況。

そしてアニメや映画でしか見たことのない観客の盛り上がり方。

いつのまにか俺もその1人になっていた。


「登場していただきましょう!チーム名、万年最下位!」


そう言われ出てきたのは3人の男。

真ん中にいるのは1番小柄で後ろの2人の半分ほどの背丈の男。

右後ろにいるのは驚くほどガリガリで今にも倒れそうな男。

左後ろにいるのは反対に身長や体つきどちらもとにかくでかい男。


「戦績は未だ0勝!今日こそは勝ってくれ!!俺は応援してるぞー!」


見た瞬間分かった。

うん、こいつらはネタキャラだ。

ネタキャラ兼愛されキャラだな。


「そんなチーム万年最下位と戦うのはこいつらだぁ!チーム名、実質2人だぜ戦士!」


3人の男がゆっくりとした足取りで出てくる。

前の2人は鎧で顔が見えない。

1番後ろを歩いてるやつは…なんだろ。

なんか…やる気なさそう。

すごいぼーっとしてる。

童顔でかわいい見た目をしている。

髪が黒色で耳にかかるぐらいの長さだ。

なんとなく日本人っぽい。

あの男も転生者かも。


「うわぁ。今日も調子悪い日かぁ」


「ん?」


りゅうとがボソッと呟いた言葉にひっかかり、反応する。


「あの1番後ろの子がいるだろ?あの子は調子の良い日と悪い日の差が激しいんだ。まぁ大体調子悪いんだけどね。そういう時は一切戦わないんだ」


「え、一切?」


「そう、だからチーム名は実質2人だぜ戦士だっただろ?普段の討伐隊での仕事も調子悪い日は一切戦わないんだよ。その分調子が良い日の爆発力は凄いけどね」


「そんなわがまま通じるのかよ…」


「彼は特別さ。それに変わり者でね。でも実際、調子が良い日の彼に何度助けられたことか」


彼はその後本当に戦わなかった。

にもかかわらず万年最下位は負けていた。

かわいいやつらだ。


その後何人かの戦いを見たが俺の興味は童顔の男に向けられ、内容が入ってこなかった。


「そういや、これ怪我とかしたらどうすんだ」


「お、よく気付いたねけっつん君。この会場の控えに医療班がいるんだ。あの治癒魔法を使える特殊部隊だね。その人たちの手にかかれば死にさえしななければすぐに元通りさ。護衛にはスレイヤーさんがついてるから暗殺の心配もないしね」


「ほぇー、よくできてんな」


けっつんが感嘆の声を漏らす。


「やっぱ治癒魔法って珍しいのか?」


気になって思わず聞いた。


「やっぱって事は治癒魔法が珍しいことを知ってたんだね」


「あ、うん。いちよう俺も使えるんだ」


「なんだって!?治癒魔法を使えるのかい!?」


「おお!びっくりするわ」


なぜか俺よりけっつんの方がびっくりしていた。


「…なら聴視あきみくんはけっつん君のサポートということかい?」


「いや、そうでもないな。あんま治癒魔法使う場面もなかったし。やられる時は一瞬だもんな?」


そういってけっつん方を見る。


「悪かったな、一瞬でよ」 


「ちょっと待ってくれ…あの時巨大な雷を放ったのは勇者であるけっつん君だよね?」


「違うぞ。俺だ」


渾身のドヤ顔をする。


「まあ俺も勇者の剣が戻ってこれば似たようなの使えるんだけどな」


「…ってことは2人ともあのレベルの魔法が使えるのか…。はは…なるほどね…。勇者のけっつん君に治癒魔法も使えて戦える聴視あきみ君。これは時代が変わるな…」


そうボソボソと呟いている。

大げさなやつだ。


トーナメントは気づいたら決勝戦まで来ていた。

ここまで見て分かったことがある。

チーム戦はごちゃごちゃし過ぎて何が何だか分からない。

魔法は常に飛び交ってるし前線でも誰かが戦っているし。

1人1人の特徴を知っているならまだ追えるんだろうが、いかんせん誰1人わからない。

印象に残っているのはやはりあの全く戦わなかったやつだ。

もしも討伐隊に入った後話す機会があれば話してみたい。


お、決勝戦が始まるみたいだ。

しかし俺はすでに背もたれに完全にもたれかかり、流し見の体制に入っていた。

だがそこで、俺は思わず体を起こすことになる。


俺が見たのは1人の女性。

彼女はとても美しく、目を奪われた。

討伐隊に入ったら彼女ともお近づきになりたい…。

はっ、いかんいかん。

俺にはミクシアさんという女神がいるのに。


決勝戦にしてはかなり早く終わった。

実力に差があるのだろう。

そしてここからが本題だ。


エキシビジョンマッチ。

優勝チームとスレイヤーによる勝負。

これが今日のお目当てだ。


「さぁさぁ!みなさんお待ちかねとなっていますでしょう!毎度恒例のエキシビジョンマッチ!もう説明も不要でしょう!登場していただきましょう!全戦全勝!生きる伝説!スレイヤー!」


1人の男が姿を表す。

観客席にまで緊張感が伝わってくる。


「この無敗伝説!破ることはできるのでしょうか!チーム打倒スレイヤーズ!その名の通りに優勝しここまで来ました!有言実行はされるのでしょうか!?」


チーム打倒スレイヤーズとスレイヤーが向かい合う。


「観客の皆様も今か今かと待ち侘びていることでしょう!この勝負!見逃し厳禁でお願いいたします!」


うぉー!!と観客席が盛り上がる。


「それではさっそく始めましょう!レディ〜!ファイト!」


その声を合図に一斉に動き出す。

チーム打倒スレイヤーズは2人の男が前線に上がり、1人の女性が後ろから魔法を使ってサポートをするという形を取る。


スレイヤーは前線の2人の相手をしつつ、魔法を避ける。


流石は優勝チーム。

前線の2人は数の利を活用し、お互いに死角を狙うように囲い、女性によるサポートの魔法はスレイヤーの反撃のタイミングでちょうどよく牽制している。


時間にして15秒ほど、この形は続いた。

だが、この均衡はすぐに壊れることになる。

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