〜第35話〜 ライジン
俺たちはその後ひたすら歩いた。
かなりの数のモンスターと出会ったが、威力の調整を覚えた俺に敵はいなかった。
そしてついに森の外へ。
視界が一気に開ける。
綺麗な青空、緑が広がる平原、大きな湖。
だがそれらの何よりも目立つものがあった。
空に浮く巨大な大地。
その上には大きな城が建っていた。
禍々しいオーラを放ち、明らかに普通の城ではない。
ラピ◯タは本当にあったんだ!
「おいおい、なんだよあれ…」
珍しくけっつんが気圧されていた。
それほどにあの城が放つオーラは特異だ。
「待て!後ろだ!」
けっつんのその声と共に後ろを振り向く。
「はっ、やるじゃねえか!俺様に気づくなんてな!」
そう言葉を発すると、森から現れる人影が見えた。
「またかよ…」
思はず言葉が漏れた。
人影の正体は、魔族だった。
だがサリタンではない。
また新しいやつだ。
「またかよってなんだよ。わざわざそっちが来てくれたからもてなそうと思ったのによ」
「…ってことはあそこに見える城は?」
「あん?魔王城に決まってるだろ」
やっぱそうか…。
じゃあ俺らはのこのこ敵の元にやってきたってわけですかい。
「勇者の剣はどこにある?」
「あそこだよ。魔王様はよっぽど嬉しいのか台座に飾ってあるぜ。」
そう言って魔王城の方を指差す。
おお、ダメ元で聞いてみたんだが答えてくれるとは。
じゃあ勇者の剣を取り戻すためには結局魔王城に入らなきゃいけないのか。
胃が痛い。
はぁ…にしてもまさかこんなにも早くまた戦う事になるとは。
勇者の剣は戻ってきてないし、俺が劇的に強くなったわけでもない。
んー、これ、詰みです。
「けっつん。これは負けイベだ。逃げるぞ」
そう耳打ちすると、けっつんは頷いた。
とは言ってもどう逃げたものか。
魔族の強さは痛いほどわかってる。
半端な作戦じゃとても逃げきれないだろう。
多少のリスクは犯さないといけない。
「なんだよコソコソ話しやがって。ほらさっさとやるぞ!2人同時でかかってこい!」
そんな言葉を無視し、手にありったけの魔力を込める。
この魔法が成功するか分からない。
成功してもこいつを倒せるかも分からない。
全てが賭けだ。
だが他に方法はない。
やるしかないのだ。
この魔族は戦闘を楽しみたいタイプとみた。
なのでこっちが何かやるのを分かっていてもわざと打たせるはずだ。
だからいくら時間をかけてもいい、この一発に全てをかける。
全ての魔力を手に集める。
魔力の流れを全身で感じ、手がヒリヒリするほどの魔力が集まる。
「おいおい、なんだよその魔力量…勇者じゃねえだろお前!」
そう叫び腰の剣を抜き、襲ってくる。
「そうはさせねえよ」
けっつんが俺の前に立ち、ヤツの剣を防ぐ。
だが、あっという間にけっつんは吹き飛ばされてしまった。
魔族が再び俺の方に体を向け、襲おうとしてくる。
だが、もう遅い。
俺は呟いた。
誰にも聞こえないほど小声で。
「ライトニング」
すると空から真っ白な雷が落ちる。鼓膜が破れそうになるほどの轟音が鳴り響き、奴だけに正確に落ちる。
けっつんはその時、今にも気絶しそうな、薄れてく意識で確かにそれを見た。
勇者の剣が放ったものとほぼ同じなそれを。
「は、はははっ!なんだよそれ!初めてみたぞ!」
煙が舞い、削れた地面の上に立つ1つの人影。
そしてまた、
「あ?1発しか出せねえのか。まあこんなのバンバン打たれたらたまったもんじゃねーな」
「なんだよ…俺の…ありったけだった…のに…」
「いや、人間にしてはすごかったぜ。俺様じゃなければやばかっただろうな」
「はっ…よく言うぜ…」
「お前気に入ったぜ。あっちのやつはどうしようか…」
なにやらボソボソと独り言を喋っているが聞こえない。
ああ…頭がぼーっとしてきた。
寝る寸前のような状態だ。
かろうじて見えたのは、ヤツがけっつんの方に歩いていく後ろ姿だった。
「…や…めろ!」
振り絞ったが声はほとんど出ず、出たのは喘ぐような息だけ。
「だ…れか。けっつん…たすけて…くれ!」
俺の最後の力を振り絞って出した声は虚しく響くだけだった。
意識が遠のいていく。
くそ…
ああ…もうダメだ。
全身に力が入らなくなりうつ伏せに倒れる。
そして俺はそのまま意識を失った。
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「さて…、お、いたいた。勇者様〜お目覚めだぜ」
そう言って倒れている男の頭をポンポンと叩く。
しかし男が起きる様子はない。
「ん〜。ま、いいか」
「ライジン様。お呼びでしょうか」
男がいつの間にか後ろに立っていた。
角を持ち、肌も紫色の魔族だが、全身白色のスーツを着ている。
「速かったじゃねえか。こいつとあっちにいるガキを連れてこい」
「…分かりました。ライジン様は?」
「俺は寝る。疲れた」
「では2人には手錠をかけておきます」
「ああ、頼んだ。起きたらテキトーに話しといてやってくれ」
「承知いたしました」
そう言うとライジンは魔王城に帰って行った。
残された魔族は倒れている男を担ぎ、もう1人の子供の方へと歩み寄る。
「あなた達も大変ですね。ライジン様に気に入られるなんて…同情します」
そう言い男を右肩、子供を左肩に担ぎなおす。
そして帰ろうと振り返った時、気配がした。
即座に2人を肩からおろし、戦闘体制に入る。
だが肝心な敵はまだ遠い。
それなのにこの威圧感。
明らかにただものではない。
敵が近づくたびに汗がたれ、手が震え、呼吸が浅くなる。
それほどまでに反応する自分を疑った。
そして次第に恐怖心が芽生え始めた。
魔族である自分がなぜ恐怖するのか。
初めての経験に戸惑った。
そんな自分に関係なく、やつはくる。
そして姿を現した。
鎧に身を包んだ1人の男。
鎧の下は銀色の服を着ていて、足先からすね、手、肩、腰などの鎧が赤色と黒色で装飾されている。
顔は見えず、同様に赤と黒で装飾されている。
そして背中には自分の身の丈ほどある太刀を担いでいた。
姿を表すとプレッシャーをまた一段と感じた。
何もしないで立っているように見えるが隙がない。
どれだけ考えても勝てるビジョンが全く浮かばない。
勝てない、そう悟った。
そして同時に理解した。
この男に恐怖を覚えた時、既に負けていたのだ。
「そこの2人を渡せ」
歯向かう気にもなれない。
静かに2人の元から離れる。
もう既に死を受け入れていた。
自分の力ではこの男から逃げることもできない。
これほどの絶望を、この感覚を感じたのは初めてではない。
初めてライジン様と出会った時と同じ、計り知れないほどの強者への畏怖。
何も抵抗しないまま、男の首は空に飛んだ。
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