〜第33話〜  ワープホール

俺たちは初心者パーティを森の外へ送った後、再び森を探索していた。


ちょっとした生態系の変化かと思っていたがAランクモンスターが出るとなると話は別だ。

Aランクモンスターはそうポンポンと出るものじゃない。

間違いなく誰かしらの手が入っている。

だが手が入ってるとはいえどうやったのだろうか。

普通に考えれば魔物を送り込むか、あるいは召喚か。

そもそもこの世界に召喚という概念があるのだろうか。

気になる。

…なんだが俄然やる気が出てきたぞ。


俺らは2:2に分かれて森の探索をすることにした。

このメンツなら2人いればAランクモンスターと接敵したとしても対処できるだろう。


俺の強い希望により俺とミクシアさん、けっつんとイルダという分け方になった。

ん?なんで強く希望したか?

そんなもん森で男女が2人きりとなればもう…な?

いや、下心は無いんだよ。

シンジテー。


それぞれの持ち場を決め、探索開始。

何かあった時や身の危険を感じた時は空に向かって魔法を放つことを合図とした。

火魔法は目立つが、飛び火するの可能性があるので禁止。 

まあ魔法を空に向かって放っている時店で目立つだろう。


ミクシアさんと雑談をしながら森を回る。

が、今のところおかしな所はない。

出てくるモンスターも特に変わりはなく、さっきまでが嘘のようだ。

1つ気になるのは俺とミクシアさんが探索している範囲は初心者パーティがいた場所とは真逆ということだ。

つまりけっつんとイルダが探索している方が初心者パーティがいたところ。

Aランクモンスターが出たところだ。


「異常が出るとしたらけっつん達の方かもしれないな…」


「ん?どうしたの?」


「いや、なんでもありません。行きましょう」


「うん!それにしても何も起きないね」


「平和なのは良いことですが…もうすぐで1周するはずです。こちらに異常がなければ2人の方に行きましょう」


「そうしよっか」


3分後、大きく綺麗な水の玉が真っ直ぐに上がり、空中で弾けた。


「あれは…行きましょう!」


「うん!」


ミクシアさんのスピードを確認しつつ、目的地へ真っ直ぐに走る。

やはり異常があるのはあっちか。

あの2人なら大丈夫だと思うがやはり心配になる。

少し急ごう。


魔法が放たれた大体の場所まで来た。

この辺りだとは思うのだが…。

詳しい場所までは分からない。

大声を出すのは良くないな。

それなら…。

合図として弱めの水魔法を1度空に放つ。

すると右斜前からもう1度綺麗な水の球が空に撃ち上がる。

すぐにそこに向かう。


すると、そこにはイルダと謎の黒い円状の何かが浮いていた。


「けっつんは!?」


「落ち着くのじゃ。けっつんはおそらく無事、これに入っていきおったわ」


「入る…?この中にいるってことか?」


「違う。なんて言えばいいのかの…。

これは生態系崩壊の原因だったんじゃ。これからモンスターは出てきておった」


「…もしかして、ワープホールってことか?」


「それじゃ!あやつもそう言っておった」


「ワープホール…?それってなに…?」


「簡単に言うと遠い2つの地点を一瞬で移動できる便利アイテムって感じです」


「なるほど…。それならけっつんさんが危ないかもしれません。ここと繋がっている場所からモンスターが出てきたのならあちらはさらにモンスターが多い可能性が高いです」


「行こう!」


聴視あきみ、あっちについたら魔法を上に打ち上げるんじゃ。あやつがそう言っておった」


「…わかった」


俺は躊躇もなくワープホールに体を入れる。

最初は手から。

手を真っ直ぐ伸ばし、ワープホールに近づける。

俺の手は平衡感覚を失ったかのように円状に曲がりくねる。

だが何も感じない。

手がそのまま真っ直ぐ前に向かっているような感覚があり、そこにあるように感じた。

だが俺の手はそこにはなく、ありえない長さとありえない角度で円を描くように曲がっている。

不思議な感覚だ。


それを見て一瞬戸惑ったが、俺はすぐに体全体をワープホールに入れた。


一瞬にして視界が真っ暗になり、すぐに視界が開ける。


そこは立派に育った木が乱立し、緑の綺麗な色の下は、日光が遮られ暗くなっている。

景色がほとんど変わっていない。

だが周りを見渡しても誰もいない。

間違いなく俺はワープしたのだ。


「こんなもんまであるとはな…。俺が想像できるものは大体あるって考えても良いかも、それどころか知らないものもたくさんあるって考えた方がいいな…」


とりあえず水魔法を上に打ち上げる。

すると少し遠くから弱々しい水魔法が打ち上げられた。

相変わらずけっつんは魔法を使うのが苦手なようだ。


ワープホールからはミクシアさん、イルダの順番で出てきた。

ミクシアさんはほんとに別の場所に来ちゃった〜、と言ってはしゃいでいた。

かわいい。

イルダもあまり感情は出さなかったが興味深そうだった。


そう言えばここは何処なんだろう。

近くの街を探して聞き込みでもしてみるか。

だがワープホールもわからない事が多い。

回数制限があるかもしれないし、何か体への影響もあるかもしれない。

不用意に使うべきじゃないな。


ああ、しまったな…。

ワープホールに入るのは俺とけっつんだけで2人は留守番にしておけばよかった。

こんな正体不明なものに全員で入るのはあまりにリスクが高い。

知っているものだからと油断してしまった。

もっと気をつけねば。


それから少し待つとけっつんはすぐに現れた。


「あれ、結局全員来たのか」


「ああ、不注意だった。これからは気をつける」


「そうだな。そんでこの辺少し歩いてみたんだけどよ、Bランクモンスターが多く生息してる。原因はここで間違いなさそうだ」


なるほど。

ここら辺の探索もしたいがギルドへの報告もしなければならないし…

何から始めたものか…。

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