〜第32話〜 森の冒険
初心者パーティは森に入った後闇雲に歩き回った。
目印も何もつけずに。
森に入った時のセオリーはまず無闇に進む方向を変えない事。
変える時は何か目印を探す、もしくは目印をつける事。
だが大抵の場合他の冒険者がつけた目印があるのでそれを使わせていただく。
だがこの初心者パーティはこのセオリーも知らないようだ。
おそらく森に入ったのは今回が初めてなのだろう。
自分たちも迷わないよう初心者パーティを監視しているとどうやら揉め始めたようだ。
初心者パーティの構成は男2人女1人。
先頭を歩いている男は怖いもの知らずそうな茶髪で爽やかな少年、真ん中を歩いているのは面倒見の良さそうな黒髪ショートカットの女の子、最後を歩くのは気の弱そうな黒髪で目が隠れそうなほど長めな髪の男。
先頭を歩いている男とショートカットの女が怒鳴り合っていて、後ろの男が落ち着かせようと声をかけているようだ。
「迷った!?こんな方向感覚が分かんない場所で闇雲に歩き回るからよ!」
「うるせえな!先頭歩けって言ったのお前だろ!」
「そもそもこの森に入ろうって言ったのあなたじゃない!それに、迷わない?って聞いたら俺に任せろ!って言ってたじゃない!」
「ま、まあまあ。2人とも落ち着いて…」
『この状況で落ち着いてられっか!』
『この状況で落ち着いてられないわよ!』
とまあこんな感じの声が聞こえてくる。
先頭の男が冒険者を夢見ていて、2人はそれに付き合わされたと言ったところだろう。
だがこのパーティは優秀なことに食糧を十分に持ってきていてるようだ。
この森は小さい方だし、このまま闇雲に歩いていてもそのうち出れるだろう。
だが問題がある。
それは俺たちがこの森に来た原因。
突然の生態系の変化だ。
先頭の男の装備はもれなく安物だが、剣だけは上等な物を持っている。
親から譲り受けたか、勝手に持ち出してきたかだな。
そして家に上等な剣があるということは親が冒険者を経験しているだろう。
そして冒険者を夢見ていて、森に入っていく自信があるならそれなりに剣の腕もあるはず。
少なくとも普段この森に出るモンスターには負けないだろう。
だが今は生態系が謎の変化を遂げている。
この森はDランク以下のモンスターしか出ないはずが、今はCランク以上のモンスターが何回も目撃されている。
Cランク以上のモンスターと戦うには少し経験不足だろう。
よって俺たちは彼らが危険なモンスターに襲われないように警戒しつつ、後ろからついていく。
Cランク以上のモンスター、もしくは群れているモンスターは数を減らし、彼らの所には弱いモンスターしか行かないよう俺たち4人で注意を払う。
だがやはり変だ。
まだ数分しか経っていないというのに既にCランクのモンスターが3体もいた。
この森に何が起こってるんだ…?
生態系というのはそう簡単に崩れるものじゃないはず。
考えられる原因は異常な量のモンスター狩りによる変化、外来種、環境そのものの変化といった所か。
いくらモンスターが減ったとしても強いモンスターが生まれるわけではないからこれは違う。
森で環境そのものの変化ってあるのかな…?
見た目でおかしい所はないし…。
あれかな?
魔力が満ちている的な?
俺は全く何も感じないけど。
最も有力なのは外来種だな。
それこそ魔王によって強いモンスターが生み出されているみたいな。
あるあるな展開だ。
そんな事を考えながらパーティの護衛をしていた。
「…は?」
そう口に出したのはけっつんだった。
「どうした?」
「後ろからAランクモンスターがすげえスピードで走ってきてる」
Aランクモンスター?
さっきまでCランクしか出てなかったのに…?
そんなやつがこの森に出たら普通のパーティだと全滅だぞ…?
あっ…。
なるほど。
そういうことか。
Aランクモンスターの目撃証言が無かったのは見たものは帰ってこれなかったからだ。
「ぼさっとするでない!倒しにいくぞい」
「待ってください!ミクシアさんとイルダはここに残ってあのパーティの護衛を!
まだ他にもAランクのモンスターがいるかもしれません。けっつん!行くぞ!」
「ああ!モンスターの位置は俺が教える!」
「任せた!」
俺はけっつんの指示を頼りに森を駆け抜けた。
そしてモンスターは姿を表した。
恐ろしく鋭い牙に見たものを震え上がらせるような瞳。たてがみの奥には大きな翼。
地面に着く4本の足には鋭く尖った爪。
尻尾は奇妙に動き、先には舌を長く伸ばしたもう1つの顔があった。
そこいたのはキメラだった。
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「見ろ!光だ!」
「ほんとだ!走るわよ!」
「まっ、まってよ2人とも!」
視界が開けるとそこには永遠に広がっているとまで思わせるほど綺麗な草原。
空は雲ひとつない快晴だった。
「神様が俺たちの帰還を待ってたみたいだな」
「何よ、しょーもない。泣きそうになってたくせに」
「う、うるせえ!」
「まあまあ2人とも。こうやって無事外に出れたんだからさ」
そんな事を話しながら3人で寝転がった。
緊張の糸が切れ、安心や疲労感などを感じながら余韻に浸っていた。
「ここまで来たら戻れるだろ」
「ほっほっほ。なかなか緊張したぞい」
「Aランクモンスターが1体だけで助かりましたね」
「なあ、本当に正体バラさなくてよかったのか?いつもなら恩がましくしてナンパするのに。お前らしくもない」
「毎回じゃねえよ。それに何も分からないあの時が冒険者で1番楽しい時期だ。茶々は入れねえよ」
「まあそれもけっつんらしいな…」
「ん…?」
「どうしたの?」
「いやなんか人影が見えたような気がして…」
「気のせいだろ」
「かなぁ」
そんななんて事ない事を話しながら3人で寝転んでいると地平線まで続く草原に心地よい風が吹く。
太陽の光も心地よく一日中いたくなるほどだった。
「それにしてもすごかったね…」
「特にあの途中のあのモンスター!私初めて見たよ。あんなの」
「キメラって言うんだぜあれ。父ちゃんが昔言ってた」
「ものすごく強いんだよね。しかもそのキメラを倒しちゃったあの人たち。お礼を言いたいけど誰なんだろう…」
「名前を聞く暇もなかったよね」
「ああ、かっこよかった。特にあの剣士の方!俺もあんな風になりてえ!」
「私はあの魔法使いの方だなー」
「僕はどっちも…」
「お前が1番欲張りじゃねーか!」
俺たちはそうやって日が暮れるまで話していた。
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