〜第30話〜 サリタン

宿屋に帰りみんなを集める。


「ブレイバー伝説がどこにあるか…。大体わかった気がします」


おおっ!と可愛く驚く女神。

さすがじゃとうなづく老人。

そんなのあったなと思い出すハゲかけ。

困惑の顔のおばあちゃん。


4人4色の反応をしていた。

ユフィアさんに事情を簡単に説明をする。


「んで、どこにあるんだ?」


「おそらくだが、魔王の手先の仕業です」


「ふむ、根拠はなんじゃ?」


「奴らはけっつんの勇者の剣を奪おうとしています。そのためにけっつんを誘き出すはず。そしてブレイバー伝説はその餌ってわけです」


「なるほどね。でもどこに誘き出そうって言うんだい?場所の指定なんかされてないよ」


「それは正直分かってません。だけど街の近くだとは思ってます。だからしらみ潰しするしかないです。候補はいくつかあげてあるので」


「さすが聴視あきみだね。それでいつ行くの?今すぐ?」


「いえ、相手は強い。準備が必要です。明日から始めましょう。ユフィアさんは家に帰りますか?」


「そうさね。年寄りにはちょいと大変だね。家でゆっくり休ませてもらうよ」


「じゃあけっつん。俺らで送るぞ」


「おーけー」


ユフィアさんは強いし特に何もないとは思うが念のためだ。

魔王の刺客が相手なら何をしてくるか分からない。


その後俺たちはユフィアさんを無事家まで送り届けた。

用心はしたがやはり何もなかったな。


2人で山を降りる。

夜の森は危険だが、出る魔物はどれも雑魚。

けっつんもいるし問題はない。


歩き始めて3分ほどが経ち、魔物を5匹ほど倒した時、それはおこった。


背筋が凍るような殺気。

足がすくみ、動けなくなる。

この感覚、あの時と同じだ。

あいつが来た。

魔王の刺客だ。

そう認識してからは体が素早く動いた。


森が燃えないよう上空に大きな火の玉を作り、光源にする。


周りが明るくなり、そいつは姿を現した。

紫の肌に、2本の角。

前にみた奴と同じだが顔や体つきが違う。


「ブレイバー伝説を盗んだのはお前だな」


「ブレイバー伝説?ああ、これのことか。

こんなものくれてやる」


そう言いブレイバー伝説を投げる。

俺は本をキャッチ。


と、同時に目の前に魔族が。

反応する暇もなく、剣が俺を目掛けて振り下ろされる。


カキーンと剣がぶつかる音が響く。


「おいおい、そりゃあちょっと卑怯なんじゃねーのか?」


「ふむ、少しはやるようだな」


俺はバックステップで距離を取り、木魔法でブレイバー伝説を腰あたりに固定する。


「俺の名はけっつん。お前は?」


「…サリタン」


「さあサリタン!存分にやろうぜぇ!」


けっつんは斬撃を飛ばす。

サリタンは躱しけっつんへ斬りかかる。

けっつんはこれに合わせてカウンター。

だがこれも躱される。

2人の剣は空を切り、どちらも攻め、どちらも躱す。

一進一退の攻防が繰り広げられていた。


だが次第にけっつんの剣がサリタンを捉え始めた。

かすり傷だが確実に増えていく傷。

けっつんは前とは違う。

あの魔族相手でもひけをとらないどころか圧倒しているようにも見える。

そして俺も前とは違う。


けっつんの邪魔にならないように気をつけつつ木魔法で足を絡め取ったりする。

魔法はすぐに破られ時間稼ぎ程度しかできないがそれでいい。

その少しの隙をけっつんが的確に攻めてくれる。


おそらく俺がいなくても勝てる、が念には念をだ。

このままなら勝てる。

俺は確信した。


「ふむ…。厄介だな」


「どうした?こんなもんかよ」


「認めよう。お前らは強い。俺も少し力を出させてもらう。卑怯とは言うなよ」


「ああ、来いよ」


解放エクシス30%」


瞬間、サリタンの姿が変わった。

手足には黒色の模様が入り、目元には漆黒の仮面がついていた。


「す、すげえ。なんだその姿…」


「行くぞ」


サリタンがけっつんに斬りかかる。

そのスピードは凄まじく、見えるが反応はできなかった。

けっつんはなんとか反応できているが、いっぱいいっぱい。

明らかに押されている。

俺が介入できる余地はない。


「く、くそ!もっと…俺に力を貸せ!!」


次第に勇者の剣の周りに黒い雷が帯び始め、バリバリと音を鳴らす。


「ふっ、まだ強くなるか!」


それから俺はただ眺めるだけだった。

2人の攻防を、剣がぶつかり合う音を。

ただ、何もできずに眺めるしかできなかった。


「やるな…勇者よ。人間がここまで強くなれるとはな。お前に敬意を払おう。見せてやる…俺の全力を」


「まだ全力じゃなかったのかよ…バケモンが…」


解放エクシス100%」


サリタンの背中から真っ黒な翼が生え、漆黒の仮面は目元だけだったのから顔全体になり、黒色の模様は手足から身体中に刻まれていて、手足は真っ黒になっていた。


その姿を見た瞬間、圧迫感に押し付けられ胸が苦しくなる。

はっきりと空気の重さを感じ、見えない矢が身体中に突き刺されているようだ。

自分の体が鉛のように重い。


「く、くそがぁ!勇者の剣よ!」


勇者の剣が光り輝き、空へ飛んでいく。周辺の空に雲が急速に集まり、ゲリラ豪雨になる。


「こい!!」


けっつんが叫ぶと同時に空から真っ黒色の雷が落ちる。鼓膜が破れそうになるほどの轟音が鳴り響く。砂埃がたち、周りは何も見えない。

今回はけっつんは気を失っていない。

これも勇者の剣の力を引き出したおかげだろうか。

少し時間が経ち雲が晴れ、砂埃が晴れる。


そこには奴が立っていた。


「驚いたぞ。まさかここまでとはな。殺すのはおしい」


「はぁ…はぁ…うそ…だろ…。これでも…死なないのかよ…」


「虫の息だな。これが奥の手だったか」


「ああ…。もう…俺には…何もねえよ…」


「久方振りに楽しかった。またやろう」


いつの間にかサリタンの翼も黒色の模様もなくないて漆黒の仮面が割れた。

そう言うとサリタンは勇者の剣を引き抜き去っていく。


止めなければいけない。

だが何をやっても止められる気がしない。

どうすればいい…。

わけもわからず水の矢を発射する。

大きさも速さも全て最高級。

辺りの木を薙ぎ倒しサリタンに目掛け飛んでいく。

が、一振りで水の矢は防がれた。

こちらに興味を示さずサリタンは姿を消した。


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