〜第29話〜 覚醒
斬撃を防がれたけっつんは即座に距離を詰め、懐に入った。
正しい判断だ。
黒騎士は近距離戦に持ち込もうとしなかった。
ということは遠距離でも勝てる術を持っているということだ。
それに対しけっつんは斬撃を防がれた。
もはや遠距離で勝ち目はない。
よって距離を詰める。
定石だ。
故に読まれやすい。
けっつんの太刀筋は簡単に防がれている。
やけにあっさりと。
そこで俺ははっきりと分かった。
2人の実力は拮抗なんてしていない。
圧倒的に黒騎士の方が強い。
実際に対峙しているけっつんも分かっているだろう。
その視点で見てみたら戦いが全く別のものに見えた。
かすかに隙を見せ打ち込ませる黒騎士。
かすかな隙に対し的確に打込むけっつん。
だがそれでも全ていなされ防がれている。
その様は師匠と弟子による稽古そのものだった。
真剣であるはずなのに竹刀のように感じた。
2人の間にはそれほど差があったのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜けっつん視点〜
なるほど。
こいつは俺なんかよりつええ。
それも稽古をつける余裕があるほど。
だがもう少し…。もう少しで何か掴めそうなんだ。
こいつが…勇者の剣が俺に何かを伝えようと
している。
分かってる。感じてるんだ。
違う…こうじゃない。
こうでもねえ。
なんだ…?
すると黒騎士の素早い薙ぎ払いにより勇者の剣が空を舞い、地面に突き刺さる。
けっつんが自分の感覚の答えを探したその一瞬。
黒騎士は見逃さなかった。
「何を考えているかは分かりませんが集中力が欠けすぎです。考え事をしながら防げるほど私の剣は軽くありませんよ」
そうか…そういうことか。
「わかったぞ…」
「…?」
「もう一度だけ。やらせてください」
「ふむ…。いいでしょう」
何かを感じ取ったのか黒騎士はあっさりと了承してくれた。
地面に突き刺さった勇者の剣を引き抜く。
今まで俺はこいつをただの剣だと思っていた。
違った。
こいつは俺の一部だ。
物なんかじゃねえ。
そう思って握るだけでわかる。
こいつから俺の体へと流れる大量の魔力が、力が。
こいつは俺へ色んなもんを送ってくれていたんだ。
そんなもんも気づけないなんてな。
ごめんな…。
深呼吸をし黒騎士と向き合い剣を構える。
距離は十分。
もうさっきの俺とは違う。
全力で剣を振り下ろし斬撃を飛ばす。
斬撃はいつもより大きく、いつもより速い。
地面を真っ二つに割りながら黒騎士を目掛け飛んでいく。
黒騎士は身を翻し避けた。
防ぐのではなくて避けた。
つまり脅威だと感じたのだ。
足に力を入れ、素早く距離を詰める。
その速さもさきほどとは比べ物にならない。
自分の身体じゃないみたいだ。
俺が思うよりさらに速く、さらに強く。
そして黒騎士の動きが見える。
いや、見えすぎている。
これは未来予知…?
実際には見えていないが分かる。
直感で。
不思議な感覚だ。
ああ、今なら分かる。
黒騎士の強さが。
そしてその余裕のなさが。
今俺は全力の黒騎士と渡り合えている。
いや、渡り合うだけじゃねえ。
勝てる。
わずかに俺が押している。
俺の一突きで、俺の一太刀で、黒騎士の体制が崩れていく。
隙が見える。
さっきまでの作られた隙ではない。
確信した、俺は強い。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜
決着はすぐについた。
黒騎士の首元に剣を添えるけっつん。
黒騎士が肩で呼吸をしているのに対し、平然としているけっつん。
「まいりました…。私の負けです」
訳がわからなかった。
さっきまでは明らかにけっつんの方が弱かった。
なのに今、けっつんが黒騎士を圧倒していた。
「ありがとうごさいます。あなたのおかげで俺はまた強くなれた」
「何が起こったのですか?私がこれほどあっさり負けたのは久しぶりです」
「いえ、俺はただこいつの声を聞いただけです」
「ふっ。そうですか…」
多くは語らず話は終わり、その後俺たちは宿屋に帰った。
宿屋に戻った後、けっつんは座禅を組み、勇者の剣を横に倒して膝の上に置いた状態で目を瞑っていた。
まるで勇者の剣と対話するように。
邪魔をするわけにもいかなかったので俺はすぐに眠りついた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜次の日〜
俺は再び王様の前にいた。
隣には黒騎士もいる。
余談だがこの街の名前はロインと言い、黒騎士は「ロインの黒騎士」と呼ばれ民からは崇め、他の街の人々からは恐れられているらしい。
なんともこの街を襲った魔物の集団を全員蹴散らしたとか。
いわゆる英雄ってやつだな。
そんな2人の前に片膝をつく俺。
要件は1つ。
ブレイバー伝説についてだ。
色々あったせいですっかり忘れていたが俺たちの元々の目的だ。
これがおばさんの家になかった理由。
そして今どこにあるか。
それらを聞くために俺は王様の元へと足を運んでいた。
結果から言うと王様は知らなかった。
うすうす分かってはいた。
おばさんが目的ならばわざわざブレイバー伝説を盗む必要なんてない。
だから正直ダメもとだった。
さて王でないとなると他の誰かだな。
ブレイバー伝説を盗む事で得をする人物。
うーむ。
どうも悪い予感がする。
俺の悪い予感はよく当たるんだよなあ…。
そんな事を思いながら王様に礼をし、城を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。