〜第23話〜 脱出

兵士に囲まれた。しかも牢屋という短い空間でミクシアさんを背負って。

かなりまずいな。


敵の数は見える限りでは3人、

だが後ろにまだいるかもしれない。

とにかくこういう時は先手必勝だ。


土魔術で兵士の周りに壁を作る。

おそらくすぐに突破されるだろうがこれは時間稼ぎだ。

この時間の間に牢屋の鉄格子を崩れさせ牢屋から抜け出す。

予想通り兵士はすぐに俺の土魔術を突破し、後ろから追ってくる。 


兵士はパッと見数十人。

戦うのは得策じゃない。


だが俺はミクシアさんを背負ってる、追いかけっこでは確実に負けるな。

かといって戦えばすぐに増援がくるだろうし…。


「イルダ!牽制たのむ!」


「はいよ」


そう言うとイルダは足を止めずに振り向きながら魔法を使う。

しかし相手の兵士の魔法に相殺された。

城の警備をしている兵士ともなればかなりのやり手のようだ。


だが幸いな事にミクシアさんがいた牢屋は端っこなので階段はすぐそば。

俺たちは大急ぎで階段を上る。


この世界にきてかなり力が強くなったが、

人を1人背負いながらの階段はしんどい。


聴視あきみのスピードはがくっと落ちた。


兵士が階段を上がってこれないよう土魔法で足場を盛り上げたりして牽制したが、相手の土魔法によりこれも相殺。

兵士たちが勢いよく駆け上がってくる。


あ待って予想以上に速い。

階段はあとどれくらい…

なっげ…


「もっと早く上れんのか!追いつかれるぞい!」


「わかってる!」


足が重い。

もう無理だ…。

なんとかしてミクシアさんだけ助けれないか…。

なんとか説得すれば…いや聞く耳を持ってくれないか。

…どうせ捕まるなら暴れてやるか。

俺はぴたりと足を止める。


「お主…諦めるのか?」


「諦めてはないさ、ミクシアさんを頼む」


背負っていたミクシアさんをイルダに渡す。


「観念したか!」


「観念?違うな、決意だよ。お前らを倒す」


「倒す?この数を?はっ、ぬかせ!」


俺はその場に立ちながらイルダが階段を上っていくのを見届けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はぁっ…はぁっ…」


「こっちだ!もっと増援をよこせ!」


「こいつら…わらわら湧いてきやがって…」


「やっと大人しくなったか…まさかこんな子供1人にここまでやられるとはな」


「まだ…終わってねえぞ…」


「諦めろ。完全に囲まれているこの状況で何ができる?」


「うるせえ!」


「おっと。魔法に威力もスピードもなくなった。そろそろ魔力も尽きてくる頃だろうな」


全くその通りだよ…。

まあ、俺にしてはなかなか頑張ったかな…。

ミクシアさんは逃げれただろうし、悔いはない。

諦めると案外すんなり受け入れられた。


スイッチが切れてしまい突然体が重く感じ、その場にへたれこむ。


「捕えろ!今のうちに処刑台まで運ぶぞ!」


ああ、死ぬのか…俺。

まあこの世界に来て少しは楽しめたな…


「まあまあお主らそう焦るでない」


「誰だ!!…なんださっきの老人か」


イルダ…?来てくれたのか。

ならミクシアさんは安全な所にいるんだな…

よかった…。


「む、なんだもう1人いたのか…。2人揃って妙なマスクしやがって…。まあ1人だろうが2人だろうが何も変わらん!」


もう1人…?誰だ…?


「あーあ、惨めな格好しやがって。全くお似合いだな。なあ、聴視あきみさんよお」


この声…けっつんか…?

何しに来たんだ…?

なんで今さら…。


「話は後じゃ。とりあえずこいつらをパパッと片付けるぞい」

「言われねーでも分かってるよ」


「やれるものならやってみろ!!」


「おっさんは後ろから援護頼む!」

「りょーかいじゃ」


「かかってこ…ぐわぁ!」

「このやろう!うわああ!!」

「気をつけろ!こいつらやるぞ!ぐふ…!」

「や、やめてく…ぎいやああ!」


あっという間に声は聞こえなくなり、

俺は誰かに抱えられた。


「ほら、増援が来ない間にさっさと帰るぞ」


「ありがとう…」


「…ああ」


けっつんの顔を見るとアノニマスのマスクをしていた。

こう見ると明らかにやばい集団だな…。


あんなにも嫌っていたのにけっつんに抱えられるのはなぜか心地よかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その後俺らは宿屋へと帰った。

なぜけっつんが助けに来たかは聞かなかった。

聞く必要もなかった。

けっつんはばつが悪そうに言った。

「ごめん…」

その1言で十分だった。


結果としてミクシアさんを助けられ、

誰1人欠けてもいない。


ここでもし誰か1人でもいなかったのであればけっつんを許さなかっただろう。

だがそうではない。

全員が無事ならそれでいい。

俺もそこまで心は狭くない。


ドンドンドンっ!!


少し乱暴にドアを叩く音。


けっつんが俺に向け隠れろとジェスチャーをする。

俺は咄嗟にベットの下へと潜り込む。


「なんですか?」


「ここに子供はいませんか?男性で15歳前後の」


「子供ですか?いませんよ?」


「ですがここに担ぎ込まれたとの報告が入っておりますので。中を調べさせていただいても大丈夫ですか?」


「今疲れ切った友達が寝てるんです。遠慮させていただけませんか?」


「そうにもいかないですよ。こちらも仕事なので」


「…これを見ても同じことが言えますか?」


「これは…!勇者様でしたか…。

そうとも気づかず…ご無礼をお許しください」


「いえ、いいんです。実は先ほど過酷な依頼を受けてきましてね。無理させてしまったので起こしたくないのです。すみませんね」


「いえいえ!謝ることではありませんよ!

それでは私たちは失礼します」


「はい。お疲れ様です」


なんとかなったのか…?


「よし。出てきていいぞ」


ベットの下から体を出す。


「この街にはいられないな。ミクシアさんが起き次第別の街に行くぞ。それまで聴視あきみはこの部屋に、イルダは…ついてくるか?」


「もちろんじゃろう」


「じゃあ一仕事してもらうぞ。ギルドに行って資金調達だ」


「このおいぼれを働かすとはいい度胸じゃ」


「おいぼれか…よく言うぜ」


こうして俺たちは街を出ることになった。




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