〜第20話〜 2人の差

聴視あきみ視点〜


「そういえば名前はなんて言うんじゃ?」

「俺はけっつん。こっちは聴視あきみだ」

「ふむ、珍しい名前じゃの」

「名前は?」 

「わしの名はイルダじゃ。改めてよろしくの」


その後イルダに色々聞いた。

沈黙が正解という言葉を知っていること。

そして転生というものを知っていること。

これからイルダも日本人なのかと聞くと何の否定もせず頷いた。

この歳になって全く新しい環境になり、意外にも楽しいとのこと。

なんだが悪いヤツじゃなさそうだ。


そんな感じでイルダと酒を飲みながら色々と語り合った。

あ、もちろん僕は飲んでませんよ。ほろ酔いレベルです。断じて飲んでません。


イルダはガブガブ酒を飲んでいたのですぐに潰れてしまった。すやすやと眠るイルダから財布を抜き取り、会計を済ましておいた。


イルダが注文したんだから仕方ない。

俺ら金ないし、うん、経費だこれは。


眠っているイルダをギルドを出てすぐの地面に下ろし、少し離れた所にけっつんを呼ぶ。


「なあけっつん、あのおっさんどうする?」

「んー、そうだな…俺たちと同じ境遇だし、悪いやつでもなさそうではある。でも信用するにはまだ時間が足りん。しばらく近くに置いて様子見だな」

「異議なし」


けっつんと会ってから約2ヶ月。こいつは普段こそアホそうだが、実は頭がいい。

よく周りを見ているし気も遣える。


前に怒らせるギリギリのラインを見極めれると言っていたがその通りだと思う。

実際何人もの女性に声をかけているが怒らせたことはない。

これも観察力の賜物だろう。


今回は俺とけっつん、どっちもの意見があってるならこれでいいだろう。

まあ常に疑わなければならないがな。


「そうと決まれば、イルダはとりあえず宿屋に連れて行こう」


そう言うとけっつんがイルダをおぶり、歩き出した。俺はそれに後ろから付いていった。


少し歩いた所でけっつんが突然足を止めた。


「どうしたんだ?」

「…これ、見てみろ」


けっつんの背中から前を覗き込む。

すると、そこには鎧を着た兵士が集まっていて、地面や周りの建物が破損していたり、鎧を着た兵士が倒れていたりと、何かしらの戦いの跡があった。

そして兵士がその場を片付けていた。


気になる所は多くあった。

だが俺はその中で1人の兵士が持っている物に目が奪われた。

最初からそれしか見えていなかったかのように俺の視線はそれに集まった。


その兵士が持っているのは杖。

毎日見ていた杖。

そう、ミクシアさんの杖だった。


考えるより体が先に動いた。俺は杖を持っている兵士に向け、水の矢を発射。水の矢は兵士に直撃し、そのまま後ろに倒れる。



「敵襲!!」

「貴様らあの女の仲間か!?」

「あの女…?ミクシアさんの事か!?ミクシアさんをどこにやった!」


水の矢を発射。作って発射、作って発射。

目の前の敵がいなくなるまでひたすらに。


「はぁはぁ…これで最後だ…」


最後の1人に向け水の矢を発射。

水の矢は兵士の頭を確実に刺さる。


周りを見渡すと、そこら中に血でまみれた兵士が倒れていた。


「これからどうする気だ?」


後ろからけっつんの声がした。


「ミクシアさんを助ける」

「生きてる保証は?」

「生きてるに決まってる!死ぬわけない!」

「どうして言い切れる?根拠はあるのか?」

「…なぜミクシアさんが襲われたかは分からないが、ミクシアさんが殺されるほどの何かをするとは思えない。捕まって監禁されてるか、杖は落としたが逃げる事に成功したかもしれない」

「そうかもな。だが根拠としては薄い」

「…お前…ミクシアさんを見捨てる気か?」

「見捨てる?それは違うな。ミクシアさんは死んでる可能性がある」

「死んでない可能性の方が高いだろ!?ふざけたこと言ってないで助けにいくぞ!」

「最悪の場合を考えろ。相手はこの街の兵士、言ってしまえばこの街そのものだぞ。

俺たち2人でどうにかなる相手じゃない。

なんとか辿り着いたとしてもミクシアさんが死んでいる可能性もある。リスクに対しメリットがなさすぎる」

「ふざけんな!お前…ミクシアさんには世話になっただろ!?」

「俺はなってない。お前だけだ」

「…この野郎!」

「まあ待て2人とも」


けっつんにおぶられていたイルダが地面に降りながら言う。


「これだけの騒ぎを起こしたんじゃ。とりあえずこの場から離れた方がよかろう」

「…ちっ!分かったよ」

「とりあえずわしの上着を着るんじゃ。そのままじゃ私がやったと言ってるようなものじゃ」


俺の服は返り血で真っ赤になっていた。

それをまた瞬間、人を殺したと実感した。

あれほど抵抗のあった人殺しを簡単にやれてしまった自分が少し怖かった。


「宿屋でいいじゃろう。ほれ行くぞ2人とも」


宿屋へ向けて歩く。だが俺とけっつんの間には隙間があり、会話は1度もなかった。



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