〜第19話〜 真実

あの男がいた。アノニマスのマスクをしたあの男が。


「まさか、さっき聞いたやつか?」


けっつんが耳打ちしてきた。


「ああ、それで俺が戦ったやつだ」

「…敵か?」

「分からない。だがギルド内で問題を起こすほど馬鹿じゃないだろ」

「コソコソ話してないでわしも混ぜてくれ」


誰のせいでコソコソ話してる思ってるんだ。


「なんでここにいるんだ?」

「おまえさんとそっちの勇者に用があってな」

「何の用だ?」

「まあそう焦るな。とりあえず一杯。やるじゃろ?」


男は手で酒を飲む仕草をし、悪い顔をしてそう言った。


「どうする?」

「敵意はないみたいだし、アブダクトのボスを倒したのは多分あいつ。少なくとも敵ではない気がする。でも警戒はしとけ」

「りょーかい」


いくら敵意はないとしてもあんな胡散臭いやつ信用するのは気が引ける。世の中は悪い大人でいっぱいなんだ。

目が笑ってない笑顔で物を売りつけてくるんだ。ああ、こわい。


「そこのお嬢ちゃんはちょいと席を外してくれんかの」

「…なぜですか?」

「男同士でしか語れぬ事があるんじゃよ」

「そんなふざけた理由では納得できません」

「ミクシアさん。大丈夫です」

「…わかりました。私は依頼を受けてきます」

「気をつけてください」

「ありがとうございます」


そういうと渋々といった感じで立ち去っていった。あんなに心配してくれてうれしいな。ミクシアさんは本当にいい人だ。

感謝してもしきれない。

どうやって恩を返そう…毎朝祈ろうかな。


3人で空いてるテーブルに座り、酒を注文。

人が多いのに注文してすぐ酒がきた。

相当ブラックなのだろう。お疲れ様です。


「さっそくじゃが本題に入っていいかの?」


けっつんと目を合わせ、頷く。


「ああ、聞かせてくれ」

「お主らこの世界の住人じゃないじゃろ?」

「…何の話だ?」

「しらばっくれても無駄じゃよ」

「この世界とはどういうことだ?」

「分かっておるくせに。今いる世界じゃ、逆にお主らが来たのは別の世界。詳しくは分からんがモンスターはおろか魔法もない世界と思うてるんじゃが、どうじゃ?」


大正解だよクソジジイ。花丸あげちゃうレベルの100点満点正解だよ。


なんなんだこのジジイは、この世界とか言っちゃダメだろ。それになんでバレたんだ。

なんか色々知ってるような口調だし、魔法吸収とか反則な技使うし、何者なんだ?


「そう思った根拠は?」

「根拠?そんなもの勘に決まっておろう」


勘だと?ふざけんな。

勘でこの世界の住人じゃないかも?とかなるわけねえだろ。


「それでどっちなんじゃ?合ってるのか?」

「………」

「沈黙が正解ってやつか、つまらんのう」


…え?待てよ…

そっか、なるほど。そういうことか…


なんで別の世界がある事を知っているのか、そしてこの世界で初めて見るアノニマスのマスク、沈黙が正解…


「お前もこの世界の住人じゃないな…?」

「ふむ…ちゃんと考えておる。そっちのにいちゃんも気づいておったようじゃな」


そう言うとアノニマスのマスクを外し、酒をぐいっと飲んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


〜ミクシア視点〜


「遅いですね…」


既に依頼を達成し、宿屋のフロントで2人を待っていた。きな臭い男と何を話したか聞き出すためだ。


宿に帰ってきたのは昼頃、夕方には帰るだろと思い、本を読んで待っていた。だが2人は日が沈んでも帰ってはこなかった。


2人の所へ行っても意味がない事は分かっていた。だが我慢の限界だった。私は宿のドアをあけ、外に出た。


おそらく2人はまだギルドの中にいる。そう思いギルドへと向かった。


夜は出歩く人が少ない。この街1番の大通りであるこの道でも数人しか見当たらない。そのせいか大通りの脇道からの悲鳴がよく聞こえた。


悲鳴が聞こえた方を見ると、3人の男の子が1人の男の子を囲んでいた。


雰囲気は明らかに穏やかではない。止めに入ろうと思い近づくと、囲んでる3人の中に刃物らしき物を持っているのが見えた。


子供の遊びじゃ留まらない。下手をすれば私が刺される可能性もある。油断はしないほうがいい。


そう思い杖をグッと握る。だがまだいじめではない可能性がある。少し様子を見よう。


物陰に隠れて、聞き耳を立てる。


「調子乗ってるよなお前」

「俺らが誰か分かってるのか?」

「…すいません…許してください」

「そんなんで許すわけないだろ!」


確定だ。油断はしない、が、相手は子供だ。

なるべく優しく止めよう。


背後からこっそり木魔法を使い、木を伸ばす。

そして同時に3人の口を塞ぎ、拘束する。

聴視あきみから学んだ技だ。


「大丈夫ですか?」


1人座り込んでいる男の子に話しかける。

なよなよしていて、見るからに弱そうな男の子だ。


「…お姉ちゃんありがとう。でも、よかったの?」

「はい。いじめを助けるのは当然です」

「お姉ちゃん優しいね…みんな怖がって見て見ぬふりをするのに…」

「怖がる…?何をですか?」

「え?お姉ちゃん知らないの?僕をいじめてたのはこの街で1番偉い人の子供なんだ」

「……」

「お姉ちゃん…真っ青だけど…大丈夫?」

「…ええ。だ、大丈夫ですよ…」


血の気が引くのが分かった。

ここは小さな街だとしても、街を収めるには相当な権力と財力がいる。


つまり私はとんでもないものに手を出してしまった。この事がバレてしまったら間違いなく打首だろう。


いや、なに、バレなければいいのだ。

2人に事情を話してすぐにこの街から立ち去ろう。


「じゃあ、私は急いでいますので。これからはいじめに屈せずに頑張るんですよ」

「うん!ありがとうねお姉ちゃん!」

「はい。それでは」


早足で脇道から大通りへと出る。

すると、そこには鎧をきた男が並んでいた。


「逃しはせぬぞ」

「…えーっと、なんのことでしょうか」

「とぼけるな!通報が入ったんだ。魔術師の格好をした女がぼっちゃんを襲ったとな!」


私は逃げ切れないと悟り、杖を強く握った。

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