〜第14話〜 モテ期

ギルドに着いてしまった。けっつんは実際にモテている。でも本人が気づいて調子に乗られるとうざい。何とかして誤魔化したい所だ。


ギルドの扉をいつもより音を立てながら開ける。調子に乗ってる、うざい。


確かにけっつんといると視線を感じる。チラチラと分かりやすく見てくる。勇者と聞いて変な理想押し付けてるんだろうか。実際はそんな事ないってのに。


「あ、待って…トイレ…」

「はいはい、行ってらっしゃい」


もはやこれも日常になったな。だがちょうどいい、今のうちに何とかしよう。


さて、けっつんの自信を失くさなければ、いや変に自信を失くしてやる気がなくなったりしたら面倒くさい。周りが期待しないように仕向けるか。


1番手っ取り早くて効果的なのはやはり噂。けっつんを悪く思ってるか、興味を持ってない人に真実を伝えて広めてもらおう。誰にでもナンパするだらしないやつだってな。


けっつんが来た時、1度もこっちを見なかった人は、えーと確かあの人。お、1人で飲んでる。ちょうどいいな。


「あの…すみません。お隣いいですか」

「…どうぞ」


隣に座る。茶髪の女性でポニーテール。魔術師らしいローブに杖を持っていた。遠くからだと顔がよく見えなかったけど近くで見るとかわいい。


「最近噂の勇者って知ってますか?」

「いえ、興味ありませんね」

「そうなんですか、髪の毛が長かったんですけど最近切ってカッコよくなったらしいですよ〜」

「へえ、そうなんですね」


全く興味なさそうだな。好都合だ。


「ですが僕聞いたんですけどね…」

「おう!何してんだ?」


げっ。もう戻ってきやがったのか。どうしよ…なんとか誤魔化さないと。


「いやあ、さっきこの人とたまたま会ってさ、ちょっと話してたんだ」

「へえ、どうも!初めまして!って…え…」


けっつんの動きが固まる。と思ったら急に引っ張られた。


「おい、あの人と知り合いなのか?」

「いや、名前も知らないけど」

「んだよ使えねーな」


なんか知らんけどムカつく。


「ねえおねーさん、名前何て言うんですか?」

「…ミクシアです」

「ミクシアさん!あ、僕けっつんって言います。普段は1人で依頼受けてるんですか?」


何やら話を盛り上げようと頑張ってる。…もしかしてだけど…こいつミクシアさんに惚れた…?確かにかわいいけど…


「私もう行っていいですか?」

「もう少しだけ話しましょ!実はね、僕勇者なんですよ〜」

「…今話題の勇者様ですか」

「お!知ってるんですか!いや〜勇者も大変でしてね、猫の手も借りたい状況なんです」

「それは大変ですね」

「特に魔術師が足りてなくてですね、よければミクシアさん手伝ってもらえませんか?」

「…私じゃ力不足なので」

「いやいや!そんなことないですよ。ほら1回だけでもいいんで」

「用事があるので」

「待ってくださいよ〜!」

「…蹴りますよ?」

「ぜひお願いします。あっ、これはちゃうんです…その、冗談ですよ」


下手くそすぎないかこいつ。いやでもこの異様なしつこさが周りの注目の的になってるな。このまま続けてくれればけっつんのイメージが悪くなるかも…よし。


「急に話しかけちゃってすみません。実は僕魔術師なんですよ。でもまだ見習いなもので…よければ色々お聞きしたくて…」

「あなたのランクは?」

「Bランクです!」

「けっつんさんには聞いてません」

「えと…Eですけど…」

「話になりませんね」


なんだこいつ。ちょっとかわいいからって…いやけっつんがあんなキモい事言ったから仕方ないか。なんなら話してくれてるだけ優しいな。


「ランクだけで判断するのは良くないと思いますけどね」

「では何の魔法が使えると?」

「そうですね…水、火、雷、風、土、氷くらいですかね」

「でしょうね」

「あ、あと治癒魔法も使えます」

「治癒魔法!?う、嘘をつかないでください」


よし、ビンゴだ。やはり治癒魔法は珍しいんだな。


「いえ、本当ですよ。んーそうだな…」


俺は机に置いてあった割り箸を手に取りパキッと半分に折る。そしてそれを治癒魔法で治す。手先から緑色の光が出て、割り箸がみるみる治っていく。


「これで信じてもらえましたか?」

「い、いや!木属性魔法で、って…使えのか…でも嘘をついてる可能性があるし…けど…どこで折れたか分からないくらい完璧に治ってる…」


割り箸を舐めるように見たり、何度も触って確認しながらそう言った。よっぽど信じてないんだな。


「どうしても信じてくれないのなら僕の体を傷つけて、それを治して見せましょうか?」

「い、いえ…わかりました。信じます。それで、何が目的ですか?」


目的か…けっつんの評判を落とす事なんだけどそれを言うわけにもいかないしその必要もなくなった。けっつんはミクシアさんにほの字だ。故にミクシアさんと一緒にいると自然と気持ち悪い行動をする。なので求める事は決まっている。


「いえ、魔法を教わりたいだけですよ。たまに修行を見てくれたり、一緒に依頼を受けてくれるだけで十分です。代わりと言ってはなんですが、治癒魔法について色々教えますし」


ミクシアさんにとってけっつんと一緒にいる事は不快だろう。でも治癒魔法に興味津々っぽいし、ギブアンドテイクだ。


「分かりました。引き受けましょう」


こうしてむさ苦しかった俺たちのパーティーが少しましになった。

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