〜第12話〜 勇者の剣
誰だこいつ…明らかに人間ではない。魔族っていうやつか?
「勇者はどちらかと聞いている」
「……俺だよ」
「ふむ、やはりそちらか。ではそれが勇者の剣だな。勇者の剣、貰い受けよう」
「はっ、お前なんかにやるかよ」
「では奪い取るだけだ」
「やれるもんならやってみな」
軽口を叩くけっつんの顔色は良くなかった。こいつが相当強いのだろうか。
けっつんは相手に聞こえないよう小声でこう言った。
「俺が足止めする。お前は逃げろ」
「…強いのか?」
「ああ、ペタルクアンがBランクならこいつはSランク、俺でも足止めが精一杯だ」
嘘だろ…そんなに強いのかよ…なら俺にできる事はない。言われた通りに逃げよう。それにしてもこれほど自信のなさそうなけっつんは初めて見た。相当やばい相手だ。
場は硬直状態。けっつんは背負った勇者の剣、奴は腰に差した剣に手を添えながらも動かなかった。俺だけがじりじりと後ろに下がる。その硬直状態を崩すのはけっつん、その場で剣を振り下ろし斬撃を放った。と同時に勝負がついた。けっつんの右手がなくなっていた。おそらく攻防はあった、が俺には何も見えなかった。それほど俺とこの2人との間に差があるのだ。
「この程度か…」
剣についた血を払いながらそう呟いた。そして勇者の剣を拾う。けっつんは血を大量に流し、その場に倒れた。
「けっつん!!」
俺はそばに近寄り、覚えたばかりの治癒魔法を使う。血が止まり、腕が少しずつ生えていく。なんとか回復できる事を確認し、ほっと一息。だがとてつもない量の魔力が吸い取られる。
「治癒魔法か、珍しい魔法を使うものもいるものだな」
強者の余裕か奴は何もしてこない。その間にけっつんの腕を完治。だが相当血が流れたのか立つ力は残っていないようだ。
「貴様、誠に勇者か?」
「…そうだよ……なんでだ…?」
「ふっ、こんな雑魚が勇者とは…魔王様も興が削がれるだろう」
「くそが!まだ終わってねえぞ!」
「終わりだ。勇者の剣もないお前に何ができると言うんだ」
「クソが…舐めるなよ…!」
「舐めるさ、お前は弱い」
反論できない。実際にこいつは一瞬でけっつんに勝った。言いたい放題言われて悔しいが俺らに為す術はない。
「クソっ!クソクソ!!」
けっつんは倒れたまま握り拳をつくり地面を何度も叩く。
「ふっ、己の弱さに精々後悔するんだな」
そう言うと後ろを向き歩き始める。無防備に、俺達に背を向けて。
「待てっ!」
「…見苦しいぞ」
足を止め振り返り、吐き捨てるようにそう言った。
「俺はよ…急に勇者の剣を渡されてよ…お前は勇者だって言われても全然納得できなかった…」
「何の話だ」
「さっきもよ…お前に勇者かと問われた時、そうだと答えたけどな…正直勇者って自覚はなかったんだ…」
「何が言いたい」
「でもよ…今…やっと実感できた…俺は…!勇者だ!!!」
けっつんの声に呼応するように勇者の剣が光り輝き、空へ飛んでいく。周辺の空に雲が急速に集まり、すぐにゲリラ豪雨になった。俺も、奴も、状況を飲み込めていなかった。
「貴様…何をした!いや、何をしようが先に殺してしまえばこちらの勝ちだ!」
「遅えよ!…こい!!!」
けっつんが叫ぶと同時に空から黒色の雷が落ちる。鼓膜が破れそうになるほどの轟音が鳴り響き、奴だけに正確に落ちる。
「ぐわあああああ!!」
真っ暗に焦げ、膝から崩れ落ちる。そしてそのまま消滅していく。黒い雷が落ちた後、嘘のように雨は止み、雲も無くなった。その場には気絶したけっつんと俺と、地面に刺さった勇者の剣だけが残った。
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〜2日後〜
けっつんはあの後一度も目を覚まさない。息をしているから死んではいないが…やはりあの雷が原因だろう。凄かったなあの雷…一瞬しか見えなかったが黒色で…厨二心をくすぶる。だが代償がデカすぎる。あとどれだけ経ったら起きるかも分からない。発動条件も曖昧だ、窮地に陥ったらなのか、勇者の剣を奪われたらなのか、はたまたただの気合いか。なんにせよここまでリスクが高いのなら安易に使えない。そもそも使えるかも分からない。本当に最後の奥の手として考えておくのがいいだろう。
それにしてもあんな強い奴がいたとは。あのけっつんが赤子のように扱われていた。俺は戦いすら見えなかった…こんなんじゃダメだ…俺も戦えるように、勝てるように強くならなければ。
魔術だけじゃ奴らには勝てない。剣の修行を始めよう。けっつんに稽古をつけてもらうか。
そういえば奴は勇者の剣を狙っていたよな?でも奪えなかった、ということはまた魔王の刺客がくる可能性もあるのか…
ん?待てよ?そういえばなんで奴は突然現れたんだ…?いや、突然じゃなかった…?何だ、何かを見落としている気がする。重大な何かを。くそ、分からない…
外に出て少し走りながら整理しよう。突然の出来事に理解が追いついてない。
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〜
3mほどの巨大な門を開けるとそこは巨大な長方形の大部屋。壁も地面も天井も紫色でつまらない部屋に1枚のレッドカーペットが奥へと続いていて、レッドカーペットの横には謎の人影が複数あり片膝を突いていた。強者感漂う顔ぶれだ。レッドカーペットの先の階段を少し上ると赤と黒で作られた立派な椅子があり、銀色の髪が腰あたりまである男が座っていた。
「やつが勇者にやられた」
「それは誠ですか?」
「ああ、あいつが今の勇者ごときに遅れをとるとは思わなかった」
「へっ、だからあんな雑魚じゃなくて俺に任せたほうがいいって言ったんですよ」
「やめろ、無礼者」
「そうよ、それにあなたが行ったら辺り一帯が更地になっちゃうじゃない」
「お主が行けば勇者を殺しかねぬ。勇者は我の手で葬らなければならん。だが勇者の剣は邪魔だ、あの剣がなければ勇者の勝ち目はなくなる」
「では、私が勇者の剣をして御覧に入れましょう」
そう言って1人の男が立ち上がった。
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