〜第8話〜 ゴブリン

「よし、じゃあまずはこいつを倒してみろ」


目の前にはスライムが1匹。俺は初めてのモンスター狩りに少しの不安と、大きな期待を胸に抱いていた。スライムは比較的安全なモンスターだからゆっくり丁寧にやろう。


まずは水を出して、次に矢の形へ、そして回転をかけスライム目掛けて発射する。水の矢はスライムを貫通し地面に突き刺さる。スライムは四方に爆散。そのまま消滅し、金を落とした。


「やった!」

「まあこんくらいは当たり前よ」


スライムといえど倒せて嬉しかった。やっとこの世界にいることを許された気がした。


「じゃあ次はゴブリンだな」

「その前にもう1匹スライムいないか?試したい事があるんだ」

「おういいぞ、あいつでいいか?」


すぐ近くにスライムがいた。俺は水を出し剣へと変形させる。そのまま水の剣を握りスライムを切る。スライムは真っ二つになった。


切れた!魔法を維持するのは少しずつ魔力を消費するが、飛ばす方がかなり魔力を使う。よっぽど長く使わない限りは剣の方がコスパは良さそうだ。


「よし、ゴブリンを探そう」


正直ゴブリンは怖い。なんせあんなに追いかけ回されたからな。魔法を覚えたとはいえ十分に用心しよう。何かあればけっつんが助けてくれると思うが。


「いたぞ…あそこだ」


けっつんが指を差した方向を見る。いた…。大分森の深くまで来ていて周りは一面木が生えている。だから先に見つけれたのはでかい。このまま先手をとろう。


水の矢を作り死角から打つ。矢はゴブリンの頭を確実に捉え、貫通した。そのまま消滅しお金を落とす。よし、以外にあっけなかったな。だが不意打ちだったからであり、正面から戦ったらどうなるかは分からない。あまり自分の力を過信してはいけない。


「やっぱりこの辺のモンスターなら余裕だな。俺がいなくてもいいだろ?」

「いや、念のためもう少しいてくれ。近距離戦もやってみたい」

「おーけー」


次は剣で戦ってみるか…


「いたぞ」


再びけっつんが見つけた。どうやって索敵してるんだろう。気配を探るとか?魔法でどうにかできないかな、聴力をめっちゃ上げるとか、無理か。


俺は水の剣を作る。ふぅ…正直怖い、だがここで逃げていたらこの先この世界で生きていけるわけがない。覚悟を決めろ…行くぞ。


ゴブリンの前に出る。不意打ちはしない、真正面から戦って勝たなきゃ意味がない。ゴブリンがこちらに気付き襲いかかってくる。どうしよう、怖い。足が震える、水の剣でほんとうに防げるのか?くそ、ダメだ…嫌なイメージばっかり浮かんできやがる。


いつの間にかゴブリンは目の前にいた。ゴブリンは剣を振り上げる。俺は完全にテンパっていた。ゴブリンの剣筋は単純で振り下ろしと右から左への薙ぎ払いしかなかった。だが俺はそれには気づけない。ただがむしゃらにゴブリンの剣を防ぎながら後ろに下がるだけ、完全な逃げ腰だった。


やばいやばいやばい…!なんとか…守れてるけど…このままじゃ長くは持たない…!嫌だ、死にたくない!


「た、助けて!けっつん!助けて!!」


呼びかけるが一向に返事はない。けっつんがあくびをしている姿が視界の端に映った。


な、なにしてんだあいつ…!まじで死ぬって、助けてくれよ!!イラつく、少し見直していたのにやっぱりクソだあいつ。まじで殺してやる。


けっつんへの怒りがゴブリンへの恐怖よりまさった瞬間だった。ゴブリンの剣を弾き、切りかかる。これは防がれ、互いの剣が交差し押し合う形になる。俺はそのまま水の剣先を伸ばしムチのようにしならせゴブリンの後ろから頭を貫く。そしてゴブリンが消滅した後すぐにけっつんに切りかかる。俺は完全にキレていた。


俺の剣は簡単に弾かれ、峰打で気絶させられた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


目が覚める。目の前にけっつんがいた。だが俺の怒りはおさまっていた。


「……迷惑かけたな」

「ああほんとだよ、峰打で済ませてやった俺に感謝しろよ」

「誠にすいませんでした」


少し頭に血が上りすぎた。でも本当に死ぬかと思ったもん。それなのにあくびはムカついて当然でしょ…


「なんで助けに入らなかったんだー!か?」

「倒せるとわかってたからだろ?」

「なんか焦ってたみたいだけどな」

「そりゃ怖えよ…」


でも確かに必要以上に怖がる必要はないようだ。だが1度勝てたから少し自信はついた。だが油断は禁物、用心するに越したことはない。


「また森へ行ってみる。一応付いてきてくれないか?」

「まだまだおこちゃまだな〜」

「はいはいおこちゃまですよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


再び森へ入る。今回は索敵から全て俺がやるから手出しはなしだと言っておいた。けっつんはただの付き添いだ。


なるべく音を出さないよう慎重に歩く。頻繁に首を振り索敵。いた…不意打ちはせずにわざと体を出す。さあこい、ゴブリンが踊りかかってくる。やっぱり怖い…だが慌ててはいけない。ゴブリンの剣を丁寧に捌く。


よく見たら攻撃は2パターンしかないな。それもモーションが大きくタイミングがわかりやすい。こんな事も気づかなかったのか。


今回も試したい事がある。剣を捌きつつ左手で水の盾を作る。そして盾でタイミングよくパリィ。ゴブリンが体勢を崩す。そしてそのまま喉を一突き。


「よし、付いてきてくれてありがとう。もうゴブリン相手なら大丈夫そうだ」


そう言いながら振り返ると、そこにもうけっつんはいなかった。なんだかんだで信用してくれてるんだな…

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