〜第6話〜 修行

俺とけっつんは人影がまったくない平地にいた。


「モンスターを倒してレベル上げって言ってもどうするんだ?スライムだってまともに倒せないんだぞ?」

「お前はモンスターを倒す方法って何があると思う?」

「倒す方法だろ?物理的に倒すしかないんじゃないのか?」

「全く若いのに頭かてえな〜。お前ドラクエとかやってたか?」

「やってたけど…え?まさか…?」

「そのまさかだ。見とけよ」


そう言うとけっつんは手を前に出す。手のひらを大きく広げ突き出す。そして手のひらで水の塊が作られる。綺麗な球体だ。


「おお…すげえ」

「これはただ水を出しただけだけどな。戦闘で使う時はこんな感じかな」


そういうと水は球体から形を変え剣のようになった。そしてそのまま発射、水の剣は遥か遠くへ消えていった。


「剣は途中で形を維持できなくなってただの水に戻ってるはず。詳しくはわからないがとりあえず見える範囲で効果が切れる事はない」

「なるほど…それで魔法はどうやったら使えるんだ?」

「使うだけならすぐにできるぞ。具体的にイメージして力を込めればできるはず、試しに水を出してみろ」


俺は手を前に突き出し手のひらを大きく広げる。さっき見た球状の水のイメージ。力を込めると体から何かが吸い上げられ、手のひらに集まる感覚。…いける、こい…!!


手のひらから球体の水が作られる。だがさっきの半分ほどのサイズだった。


「まあ最初はこんなもんだろ。慣れていけばもっと大きくなる。じゃあ次は剣の形にしてみろ」


具体的に剣をイメージする。さあこい…!


水が形を変える。そして剣に…ならなかった。できたのはお世辞にも剣とはいえない棒のような物、凹凸も何もない。そして発射もされずその場に落下。


「俺ってもしかして才能ない…?」

「これは…ないな…」

「嘘だろ…」


かなりショックだ。俺も男、魔法が使えると聞いてテンションが上がらないわけがなかった。それなのに才能がないなんて…。ああ、使いたかったな魔法…。


ショックを受けているとけっつんも一緒にショックを受けてくれていた。ん?いや笑ってる…?


「笑ってるのか…?おい、こっち向けよ」


まったくこっちを向かない。よく見たら体が小刻みに震えている。うん笑ってるわこいつ。まじで許さねえ、自分だけ勇者に選ばれやがって。


「ご、ごめんて」


そう言いながら顔をこっちへ向ける。そして大爆笑。悪魔のような笑い方だ。イラつく…もはや何も言う気になれない。


「ご、ごめんて、思った以上にショック受けてたから、その、ンフフハハハッ」 


大爆笑である。もう絶対許さない。


「違うんだよ!最初は飛ばす事はもちろん形を変えるのなんてできなくて普通なんだよ!だから才能ないわけではない!」

「は?嘘ついたってこと?」

「だって思ってた以上にショック受けてたから…」


このやろう…


「そうそう!水とか炎を出すだけなら誰でもできるんだよ。実際魔法で料理を作ったり手を洗ったり、トイレを流したりと。生活の一部にもなるほどなんだ。でも戦闘用に変形や発射をしようと思うと練習が必要ってわけ」

「最初からそう言えよ…」

「だから!お前も魔法を戦闘で使えるようになったらレベル上げも簡単にできちゃうって寸法よ!」

「なるほどなぁ…」


ムカつくけど言ってる事は一理あるんだよなぁ…ムカつくけど


それから俺の魔法の修行が始まった。


水をひたすら生み出し、剣の形を作る。ひたすらこれの繰り返し。最初は棒しか作れなかったが徐々に凹凸を作れるようになり、1週間ほど経つと少しガタガタだが剣のような見た目を作れるようになった。


この1週間で分かったことがある。魔力には限度があること、魔力を回復させるには寝るか、街で売ってる魔力薬を飲めばいいこと。1回だけ調子にのって朝から晩までずっと変形の修行をしていたら魔法が使えなくなった事があった。寝たら治ったからよかったもののまじで焦った…


そして俺が使えたのは水以外に、火、雷、土、風。興味本位で水と土を半々で混ぜると紫色の毒のような物が作れた。もっと色々試してみたいが今は水を使いこなす事に集中だ。他の属性の魔法はそれからだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


〜2日後〜

 

けっつんと俺はいつもの平野にいた。けっつんは大きな倒木に腰掛け、腕を組んでいた。


「よし、じゃあやってみろ」


手のひらを前に突き出す。まずは球状の水を出す、それから形を変える。剣のイメージ、よしいける…ボコボコと形を変える水。剣先を尖らせ、柄を作る。よし、完璧だ。


「おお!いい感じやん!まあもっと言えば最初から剣の状態で出せれば完璧だ」


そう言ってけっつんは水の剣をそのまま出す。簡単にやっているがあれはかなり高等技術だ。


「まあ合格だ。次のステップに進もう。次は発射、これは変形とは比べ物にならないくらい難しいぞ。そうだな…とりあえず10m飛ばせるようになれ」


そういうとけっつんは立ち去ろうとする


「ちょっと待って!コツとかないか…?」


実は剣の形が作れるようになってから飛ばそうと試みてみたがまったく飛ばせなかった。けっつんの言う通り変形とは比べ物にならない。


「そんなもんねーよ。習うより慣れろ!だよ」


振り向きもせず答え、そのまま歩いて行った。


「ほんと適当なやつ…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る