〜第5話〜 勇者
え?ドラゴン??いや、え、は?ここってゴブリンとかしか出ないマ◯ラタウン的なとこじゃないの??ドラゴン??は???
戸惑って数秒間硬直した。
ドラゴンはその数秒間の間に尻尾で薙ぎ払い。
避けれるはずもなく直撃。
俺は簡単にふっとび、後ろの石にぶつかってやっと止まった。
ああ…いってえ…無理だなこれ…レベル差がありすぎる。何もできず死ぬのか…
ドラゴンがとどめを刺しにくる。
と思いきやドラゴンは瀕死の姿を見るなり途端に興味を失い、次の獲物をキョロキョロと探していた。
「なんだよ、弱い奴には興味ないってか…?」
最初は助かったと言う安堵。だが徐々に怒りが込み上げてきた。
なんだよこいつ。うぜえ態度、舐め腐りやがって…見返してやりてえ、一太刀でいい。
一太刀だけ浴びせてすぐに逃げてやる。
そう思い横に落ちていた剣を握りしめ、よろよろと立ち上がった。
ドラゴンは俺を舐めていたため一太刀浴びせるのは容易だった。ドラゴンが獲物を探し後ろを向いた所で背後から一撃。尻尾の先っぽにかすり傷しかつけれなかったがそれでいい。今はまだそれでいいんだ。そして全速力で逃げる。死ぬわけにはいかない。
走っていると背後からズシンと地鳴りのような音。実際地面が揺れていた。
地鳴りは徐々に間隔が狭くなり近くなる。
だがある瞬間、地鳴りがおさまった。
その場で恐る恐る振り返る。
ドラゴンの首を切り落とされていた。
おそらくやったのはドラゴンの死体の上に1人の男。
「無事か?そこの兄ちゃん」
「あ、ああ、あなたは…?」
「なんだ俺のこと知らねえのか…」
はっ、まずい。有名人なのか…?とにかく機嫌を損なうわけにはいかない。
「いや、私記憶がなくて…」
「記憶がない?なるほど、これはまた珍しい。面白い事になりそうだ」
後ろのドラゴンは消滅が始まっていた。この世界のモンスターは倒されると消滅する。ドラゴンも例外ではないようだ。
「あの…助けてくれてありがとうございます」
「ああ、礼なんかいらねえよ。それとほら、これやるよ」
気づけば目の前にいた。目を離していないのにまったく見えなかった…すげえ。男が俺に差し出したのは剣だった。
複雑な模様が柄に描かれた立派な剣だった。
「え、いいんですか?」
「ああ、俺様からのプレゼントだ。大切なもんだから失くすなよ?」
「あ、ありがとうございます!!」
お礼を言い頭を下げる。頭を上げた時には男はいなかった。
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「ただいまー」
ドアを開けるとおばさんが料理を作っていた。いつもの光景だ。
「今日は遅かったね、何してたんだい?」
「それがさ!聞いてよおばさん!」
そうして俺は起こった事を喋った。森でドラゴンと遭遇した事。一太刀浴びせて逃げようとした事。謎の男に助けられ剣をもらった事。
「あんたそれって…」
「ん?どうかした?」
「そっか…あんたは知らないんだったね。これをお読み」
そう言って本棚から1冊の本を取り出した。
そういえば本は全然読んでないな。
この世界の文字も読めるんだけど日本語みたいにスラスラは入ってこないんだよなー。
「ここからお読み」
そう言って本を開いた状態で渡された。絵本だった。
助かる、これなら読みやすい。
本の内容はこうだ。昔々1人の男と1人の女がいて、2人はモンスターを狩って生活をしていた。しかしある日突然ドラゴンと遭遇した。女はドラゴンによって怪我をさせられ、男は女を守るために戦った。防戦一方だったが、なんとか一太刀を浴びせることができた。しかし差は歴然だ。そう思い諦めかけた時突然ドラゴンの首が切り落とされた。目にも止まらないスピードだった。そして謎の男が目の前に立っていて、その男から剣を受け取った。
今の俺の状況とまったく一緒だった。俺はおそるおそる本の表紙を見る。
『勇者ブレイバー伝説』
俺は勇者になったのだ。
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「とまあざっとこんな感じだ」
「てことは勇者?けっつんが?え…?」
「俺って結構すごいんだぞ」
「いや勇者なんて似合わないでしょ…」
「んだとこらぁ!」
にしても勇者とは…確かに立派な剣を背負ってるなとか妙に強いなとか思ってたけどまさか勇者とは…
「んでなここからは俺が立てた仮説なんだが、この世界のモンスターは倒したら消滅し、金を落とす。まあたまに素材も落とすんだが、その時おそらく経験値も入っている。」
「経験値ってゲームとかで言うあの?」
「そうだ。実際に感じたり見たりはできないんだけどな。でもモンスターを狩ってるだけで俺は確実に成長した。だからおそらくある」
「なるほど…じゃあ俺もモンスターを倒せば強くなれるのか」
「おそらくな。それともう1つ、おそらくこの世界にはフラグがある」
「というと…?」
「つまりだ、俺は勇者になったがあの時ドラゴンに何もせずに逃げてたりしたらおそらく勇者にはなれなかった。勇者になるにはドラゴンに一太刀浴びせるというフラグを立てないとダメって事だ。」
「なるほど…それは確かにそうかもしれないな」
「ああ、そして俺は今勇者だが、勇者らしいことは1つもしてない。それは俺がフラグを立ててないからだ」
「ふむふむ、なるほど。ちゃんと根拠のある仮説だな」
「だろ?だからおそらく魔王が急に襲ってくるなんて事はない。負けイベントならありえるが…まあほぼないだろう。魔王と戦うのは準備が整ってからだ。逆に言えば準備が整うまでは戦わない。遊んでてもいいってわけだ。俺らは異世界から来たからフラグというメタに気づけるがここの住人はわからない。異端児が勇者になっちまったってわけだ」
「魔王がいるからといって急ぐ必要はない、そして俺らにしかフラグという概念は分からないと…確かに。納得できる」
「話のわかるやつで助かったぜ」
「こっちこそ。ちゃんと考えてるんだな」
「ああ、社会人やってたからな」
「んでその剣をくれた人ってさ、本に残るくらい昔から生きてたのかな?」
「んー、、その可能性もあるし別人の可能性もあるな。もし勇者を誕生させるという専門の職業なら引き継ぐ人はいるだろうし、あいつの趣味なら1人でやってるだろうし」
「なるほどなー」
根拠もあるし納得もできる。信用してよさそうだ。あ、そうだ
「ところで勇者様?ずっと言いたかったんだけどさ、誰かれ構わずナンパするのやめてくれませんかね?」
「ああ?言っとくけど俺はな、ギリギリのラインを攻めるのが得意やねん。ガチギレされるような事はしないから安心しろな〜」
そういう問題じゃねえんだよ。見てて不快なんだよ。
と言いたくなったが何やら言いくるめられる未来が見えたのでぐっと飲み込んだ。
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