〜第4話〜 けっつん

〜けっつん視点〜


「いてててて…」


トイレで1人踏ん張っていた。カラカラカラと小気味良いリズムを奏でる。トイレを流し、ドアを開ける。手はもちろん洗わない。


「ふう〜すっきりした〜」


大通りを意気揚々と歩く。


「あれ?あいつどこ行ったんだ。…ん?この匂い…。はぁ、まずいな」


そう言うと気だるそうに歩き出した。


そうかもう人攫いの時期か。やつらは半年に1度人を攫いにこの街へ来る。もっとも1年なんて概念はなく、俺が大体でそう数えているだけだが。やつらはこの街に来て間もない新人や子供を狙う。あいつも狙われちまったわけだ。って…あいつの名前まだ聞いてなかったな…後で聞くか。


とりあえず1人誘き出すか。そう思い匂いのする方へと歩き出した。


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「この辺かな…」


周りには人は1人もおらず建物の数も少ない。

するとさっそく背後に人の気配。


「はぁ…素人だなお前」


素早く振り返り棒で殴りかかってきた所を峰打ちで腹部を一発。男は腹部を押さえながら倒れ込む。


「さて…お前のお仲間のこと全部吐かせてあげる…大丈夫だよ?痛くはしないからさ!!」


男の表情が恐怖で染まる。お楽しみはこれからだ。


……そして今に至る


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〜あきみ視点〜


あの後俺たちは一度休むため宿をとった。


「そこの焼き鳥屋から串焼き買ってきて」

「は?なんで俺が?」

「この世界について色々教えてあげよーと思ったのになー?」

「てめえ…わかった買ってくるよ」

「ほんとー?!なんか申し訳ないなー、はいこれお代」

「よくもぬけぬけと…」

 

となんやかんやで串焼きを買い2人で食べていた。日本ほどではないがこっちの肉もなかなかうまい。牛とか鶏もいるのだろうか…


「それで、話を聞かせてもらおうじゃないか」

「おおそうだったな。じゃあまず俺がこっちの世界に来た経緯を話すか」


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〜5ヶ月前〜


「こんちゃ〜」


その日はいつも通り、部屋というには少し狭い空間でボロボロな椅子に座り、マイクへ向け1人で喋っていた。目の前にはモニターがあり名前も顔も知らない人工知能だと時々疑ういつものメンツ。配信を初めて約3年。お世辞にも伸びたとは言えないが俺はやっぱり配信が好きだ。


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配信終了のボタンを押す。


「ふ〜、疲れたあ〜」


ゆっくり立ち上がり防音室の外へ出る。

冷蔵庫を開けると中はほとんど空。


「…コンビニ行くか」


タオルを取ることすらめんどくさくそのままの格好で外へ出る。


「うう…さっびい…」


早足でコンビニへと向かう。

いちゃつくカップルを横目に、暗闇を照らすには頼りない街灯の下を歩く。


コンビニの明かりが見えてきた。なぜか安心する明かりだ。そのまま自動ドアをくぐる。


唐揚げ弁当と水を手に取る。レジに向かう途中、雑誌置き場の横を通る。


「あ、ジャンプ最新号や。最近見るもんなくなって定期購読も切ったんよなー」


懐かしさを感じつつ手に取り開く。知らない作品が多い。前見てた時から時間も経ってるし当然か。

瞬間目の前が急に明るくなる。前を見ると1台のトラックが突っ込んでくる。


「え、あ、…は?」


トラックが衝突。ブレーキの音にガラスが割れる音。辺り一帯を巻き込みトラックが倒れ込む。最後に見たのは自分の血の色だった。


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知らない天井だ…

目が覚めると藁でできた天井が見えた。

すぐに理解した…ここは日本じゃないと。

ゲームや漫画が好きで色々な話を見てきたせいかすぐに飲み込めた。


起き上がると1人の老婆がいた。


「大丈夫かい?」

「ええ、おかげさまで」

「おまえさん道端で倒れていたが何をしてたんだい?」

「それが…分からないんです。何も覚えてなくて…」

「なんと…記憶がないのかい。それは大変だね、しばらくここにいるといい」

「ああ、ありがとうおばさん。あ、名前だけは分かる…俺はけっつん。おばさんは?」

「教えるほどの名もないただのばばあじゃよ。いひひ」


変なおばさんだ。だがいい人だろう、雰囲気で感じ取れる。しばらくこのおばさんの下で色々教えてもらうか。


とっさに記憶がなくなったふりをしたがよく思いついたな俺…自分で言うのもなんだが状況にあった良い言い訳だ。


そこからおばさんにモンスターの存在など色々教えてもらった。その中でも興味をもったのは魔王がいるという事。最近現れたらしく、伝承によれば勇者ももう生まれている頃との事。ゲームっぽくて面白い。


それから1ヶ月ほど修行した。武器はおばさんに剣をもらい、ご飯も食べさせてもらった。そして俺はそこらのモンスターなら簡単に倒せる程度に成長した。


いつも通りモンスター狩りへ森へ入っていく。だが妙だ…モンスターの気配がしない。なんだか嫌な予感がする…へへ、やっと楽しくなってきやがった…!


剣を握りしめ少しずつ前進する。緊張感が走る。見慣れたはずの森なのに森は姿を変えている。

風で木が揺れる音、手は汗ばみ自分が息をする音が聞こえる。


背後にズシンと音が鳴る。

何かが着地したような音。

すばやく振り返る。

そこには巨大な足。

あし…?これってもしかして…


見上げると巨大な翼に鋭い眼光、開いた口からは鼓膜が破れるほどの咆哮。

 

俺はそこでドラゴンと遭遇した…



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