〜第2話〜 スライム

最低最悪な男けっつんと別れた後、俺は草原に寝転がっていた。考え事をしていたのだ。あの事故で何が起こったか…考えられる可能性は3つ


1つ目は夢を見ている。夢を自覚する夢明晰夢であること。もしくは死後の世界。


2つ目は何かのドッキリ、もしくは攻撃により意識だけがデジタル空間に送られた…ということだ。だがこの可能性は低いだろう。こんな大掛かりなドッキリを一般人にかけるわけがないし攻撃なんてありえるはずがない。


そして3つ目、本当に異世界という事だ。正直に言うとこれが一番可能性が高い、信じたくはないがな。事故を起こす前に着ていた制服であること、そしてけっつんと名乗るおそらく日本人。死後の世界なら日本人が来たことにあれほど驚かないだろう。そして夢にしては感覚がリアルすぎる。腹も減ってきたし…


とにかく飯だ…


そう思い立ち上がる。そのまま道まで下る。その時、右下あたりに何かが映った。水色らしき何かが。思わず2度見。するとそこには水色のゼリー状の塊がいた。


そう、誰もが想像するスライムそのままだ。


「うそだろ…」


後退りしつつ様子を見る。敵意はあるのか?分からない、が、動きは遅い。これなら大丈夫だ。俺は近くの木の下に行き手頃な木の棒を手に取る。そしてスライムの場所に戻る。それほど動いていない。やはり動きは遅いようだ


ゲームなら打撃が効くはずだがどうだろう。

思い切り木の棒を振り下ろす。だがスライムは少し潰れただけでまた元に戻ってしまった。


「ダメじゃねえか…ってうお!」


スライムが突進してきた。ギリギリ体が反応したが腕に当たった。


「いってえ!」


結構痛い。だが痛いだけ。特に体に異変はない。こんな柔らかそうなのに結構痛いな…

ダイラタンシー現象か?ってことはこいつは小麦粉でできるのか?エビをこいつにつけてパン粉をつければおいしいエビフライの完成!ってか


にしてもまじでいるじゃねえかモンスター。今回はたまたまスライムで特に驚異性はないが序盤に出てくる敵といえばもう一体…

っと噂をすれば!ゴブリンだ!


これまた想像通りのゴブリン。緑色の肌に子供程の身長。耳が長くて右手にはナイフ。こいつは序盤の雑魚敵だがスライムと同じと思っちゃいけない。よって俺が取る選択は一つ。逃げる!!逃げるは恥じだが役に立つんだよ!!


俺は全力で走り出す。大体こういうのはモンスターの足が遅い。だから逃げられるだろう。そう思い走りながら後ろを振り向く


「うぇっ!?うそだろ!!」


全速力で走るゴブリン。走り方完全に人間じゃねえか!うそっ、待って、体育でしか運動してなかったから…体力…ない…もう疲れた…しんどい…


徐々に重くなる足。確実にスピードが下がっている。頼む!振り切っててくれ!神に祈る気持ちで後ろを見る。ゴブリンは目の前にいた。


「ちくしょう!!…神なんていねえ…じゃねえか…誰でもいいから…助けてくれ!!」


藁にもすがる思いだった。だが当然誰も助けになんてこない。もういいかな…こんなわけのわからない世界に飛ばされて。なんでこんな辛い思いしてるんだろう。ああ、事故を起こしてもあんまり痛くなかったしな…もういいかな…あれ?でもゴブリンって犯すのが定番だよな。ア◯ル開発はやだなあ…って馬鹿か俺は。


「はぁっ…はあっ…もう…無理…」


そのままその場に倒れ込む。その瞬間微かに人影が映った、ような気がした。気のせいだろう。


空を見上げながらただ息をする。酸素が足りない。苦しい。


だがいつまでたってもゴブリンは来なかった。少し呼吸が安定し、重い体をゆっくり起こす。俺の横には倒れたゴブリンと見たことのある足。そのまま視線を上げる。相変わらずのタオルとマスク。顔がまったく見えない。


「よお、また会ったな。無事か?」

「あ、ありがとう…ごさいます」

「お、なんだ敬語なんか使って?少しはこのイケメンを見直したか?」


やはりうざい…だが俺は救われたんだ。文句を言える立場ではない


「あ、あの、今まですいませんでした…僕が悪かったです」

「うお!まじで敬語やん、きも!タメ口で話せ!」

「この…下手に出てればお前…」

「そうそう、そっちのが似合ってる」


このやろう…っとダメだ。平常心。


「あの、俺を連れてってくれ!ここは異世界だって分かったし…1人で生きていける気もしない…虫のいい事を言ってるとは思うが、どうか頼む!」

「おうこいよ」

「えっ、そんなあっさり…」

「お前は面がいいからな…女が寄ってくるだろう…ヒヒッ」


ほんとにこの人でいいのか…?不安を感じつつ、俺はけっつんについていく事になった。


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