1部エピローグ
私は王都で凱旋パレードなるものの主役にされながら、それまでの事を振り返っていた。
まず最初に結論から言えば、夜逃げは失敗した。いや、まぁ食糧なし1人徒歩でOKなのであれば行けたと思うのだが、そこまでするかと言われると、というわけである。
全部アリスって人がやりました作戦は開始以前に頓挫していたが、目撃者といっても街の一部に過ぎないとなんとか広めようとして失敗していた。
いや、街の中の知名度で言えば圧倒的にアリスの方が高かったし私に対する評価はほぼ無し、強いて言えば『あの有名冒険者の従者だか腰巾着だかみたいな小僧』だったはずだったのである。
はずだったのだが、どうやら王都の方から届いていた情報だとか色々、目撃者証言、挙句本人が熱心に否定した上で私の事をそれはもう褒めちぎるものだから私がこっそり広めようとした程度では勝てなかったのである。
おそらく金を握らせても情報操作は厳しかっただろうなというような熱量。物理的な熱量の方は消えたくせに熱意の方は全然落ち着かず。
結局私がドラゴンを討伐したという事実をもみ消すことは出来なかったというわけで。となれば必然的とも言えるほど何をするにしてもわいわいがやがや言われるのである。
何もかも無視して山に向かいストレスを発散すべくヘカトンケイルくん3匹に囲まれて熟練度の溜まる音を幻聴きながら1日過ごした後、帰ってきたら街の領主とギルドマスターが揃って土下座しにきた時は少々胃がきりっとした。
根が小市民である私はなんだかんだで権力者という生き物に弱く。口では『あなた方の民を思う気持ちに心打たれました』とか適当を並べながら街でのんびり……いやのんびりは全然出来なかった。
「おうおう、お前みたいな小僧ぎゃぴぃっ!」
典型的な『聞いたことより自分で見たことしか信じないし自分の都合のいい現実を見るタイプ』が絡んで来たかと思えば一瞬でアリスにかち上げられた挙句冒険者の群れにリンチされて私が助けることになったり。
いやなぜ私がそれで聖人君子みたいな扱いをされるのかは本当に分からないのだが、とりあえずこういうのは別に剣を抜いて攻撃してきたところで何も怖くないので放置するように言えば
「師匠の事を舐める輩の何処に生か……いえ、手加減しておく必要が? まぁ師匠がそうおっしゃるなら……」
と帰ってくる始末。放置したら地面の染みが増えてもおかしくないのは流石に、とも思ったが周囲からしてみればドラゴン以上の戦闘力に少しでも不快な思いをさせたくないという切実な理由もあるのだろう。アリスは知らん。
他にも
「弟子にしてくださたわばっ!」
などと大きな声で叫んで突っ込んできたおっさんが宙を舞う光景を見せられたり。いや、弟子の育成という名の可愛がり……というかぶっちゃけサンドバックとなれるのは同時には1人だからなぁ……
という本音をぶちまける事はもちろん無いが、かといって一子相伝とか適当言うと後で面倒になりそうだしと考えている間も無く宙を舞ったので正直びっくりはした。
「私より強くなって出直してきて下さいね?」
などと言いながら顔は笑っているのに目が笑っていないタイプの弟子であるが、君より強いってそれもう魔物か人外じゃ無いかなぁ……そもそも弱かった頃に弟子入りしたでしょ君。
まぁ『誰でも簡単強くなるよ講座』した所で体力面とか継続可能な精神性があるかどうかが重要な以上、ある意味で『アリスと同等かそれ以上』の胆力的なやつが無いと厳しいのは確かかもしれない。
「それで師匠! 今日は半日修行に付き合ってもらえるんですよね!」
午前中は森に行き魔物を狩って来たアリスと、街の中にある広々とした練兵場で延々と斬り合ったり。いや、ついでに少しでも熟練度の足しになればと手の空いている兵士に延々と攻撃させもしたのだが。
かかしや木偶を延々叩いたりするより圧倒的に成長が早いと評判であり、それこそたったの半日でレベルアップした兵士も居たことから領主に『出来れば準備ができるまで続けてほしい』などと言われ。
一日寝ているようなのんびり具合などは存在せず、基本的に剣を振るわれたり槍で突かれたり叫び声に囲まれたりと忙し……いや忙しいというほど何かをした気はしないのでこう、もにょる。
そんなこんなで1週間ほどした所で、気が付けばドラゴンのお頭と一緒に王都に出荷されることが決定していた、というわけである。
いや、たったの1週間でそんなことが決定されるのは物凄く早いペースというか、確か王都からこの街まで1週間かかった記憶があるのだが……と考えていたのだがまぁ商会の木っ端馬車でのんびりするのと専門の早馬とかでの移動を比べたらいけないのだろう。
またドラゴン来たらどうするんだ問題についてはまぁこれまで100年は来てなかったし大丈夫でしょ理論でスルーされた。いや、まぁ領主辺りは引き留めたい気持ちと王様辺りから送り出せされてる事で板挟みされてそうではあったが。
内心ではすげぇ嫌だなぁと思いながらも、周囲の熱量とかせっかくの準備だとか物凄く興奮している弟子辺りのせいで何も言えなかった。どちらかといえばそこまで同調圧力に弱いわけではないのだが……
大量のポーションを使われながら私が到着するまで熾烈な囮、もとい戦いを繰り広げた『要塞姫』改め『城塞都市の英雄』も一緒に大々的にお披露目となれば、まぁ弟子の夢に付き合う程度なら良いかとも思うわけで。
ドラゴンを倒した直後腕は折れてるし傷だらけだし割と重症だったくせにバグった挙動が収まったと思ったら人に向かって突撃をかましてきたアリスであるが、まぁ他人の夢が叶うのをわざわざ邪魔するほど野暮でもない。
幸いにも聖光魔法の便利さのおかげで傷一つ無く回復したので次の日には元気ピンピンで人に付き纏い、街への拘束が無くなったんだからステータス上げに行けと言ってやっと離れる程度。
まぁ命の危機もあったし怖くて不安な事もあるかぁと、やたら物理的にひっつく事の多くなったアリスを受け入れつつ。
夜逃げするにしても王都行ってからだなぁと、そんなこんなでパレードまでぶち込まれたわけである。
せせこましく『こっちが主役ですよ』感を出そうとするも、大通りを王城まで進む御輿っぽいやつの上には私を中心に右後ろをドラゴンの頭、左斜め後ろをアリスという配置。こういうのは頭が真後ろとかじゃ無いんですかねぇ……
軽く手でも振るのが良いのかとも思うが、別にそんな顔を知っている有名人というわけでもないしワンチャン目立たずに『アレ誰?』程度の印象でいける可能性に賭けるので何もしない。
そんなこんなで結局王城の前、なんかやたら広い系広場のほんのり高くて目立つところで堂々待っていた王様含めたロイヤルな方々や甲冑着込んでいる集団に合流。
「うむ、やはりまた会ったな! いや、こうして会うとは正直余も思っていなかったのだが!」
2度と会わない予定だった人にがっつり肩を組まれながらそんな事を言われる。あれだろ? 本当なら夜逃げされる事なく騎士になってもらう的な魂胆があったんだろ? 叙任式とかで顔合わせるつもりだったのは知ってる知ってる。
しかしまぁ闇の支配者(笑)と比較しても化け物だったドラゴンを倒せる存在、ともなれば臣下扱いにするのか論争があった的な話は王都入り前夜位に聞いた。
本気でストレス抱えていそうな大臣曰く、当初通りの予定で騎士に任じる派とそれを察知してそれでは不足、満足できぬとドラゴンを狩って手柄を示した『英雄』だぞ派は後者が秒で勝ち。
それではどうするのが相応しいか論争はそれはもう盛大に行われ。かといって『じゃあ王様になってもらおう』とか言い出した馬鹿は『しかしあの者最初にそれを言ったが断りおったわい』という爆弾で吹き飛ばされ。
しかし圧倒的に強力な存在を野放しや、まして他国に流れてしまうなど断固阻止せねばならず、じゃあもうどないせぇっちゅうねんというわけで会議が踊りだし。
そんなこんなでもう本人に聞くのが1番でしょとかいう暴論が罷り通った結果、ストレスのあまり全部ぶっちゃけた大臣が誕生したというわけ。いや別に全部素直に話せって言っただけで脅したりは一切無かったんだが。
しかしまぁ私の望みと言われても、右も左も分からない世界に使命も目標もなんだったら将来的な展望も無しで急にほっぽりだされただけなので、特に無く。
強いて言えば今後も平穏無事に過ごしたいしだけではあるが、今回のドラゴン騒動のようにいつどんな化け物が『やぁ』してくるか分からない世界ではどこで何しててもそんなに平穏を享受できないよなぁとなるわけで。
で、それなら『アリスを英雄って事で盛大に受け入れてもらって、私はちょっと武者修行行ってきて良いですかね』と言おうとした矢先。
「お父様! 私この方の伴侶になりたく思いますわ!」
すくっと立ち上がってそんな事を大声で言い出したのは、傍に控えていたアリス……ではなく、普通にロイヤルファミリー側に座っていた女性。
金髪ロングで碧眼という括り方をすればアリスと一緒だなぁと思いつつも、これまでの食生活の関係か少々ささやかなアリスと違ってかなり大きなお山が2つ。美人なのはデフォである。
ふと脳裏に過った『お約束』は身分を隠して本当は王族だけど云々、年齢が18歳で一緒だったのは伏線云々という考え。最悪そんなテンプレートな展開を予想していたのだが全然そんな事はなかったらしい。
瞬間台上の空気が凍る。メタクソに笑顔のアリスから吹き溢れる威圧感と、それを堂々と正面から受け止める推定第3王女。え、ブックとかじゃなくてマジで唐突に言い出してるやつ?
『かくして勇者様はお姫様と結婚し、幸せに暮らしましたとさ、ちゃんちゃん』とはならないだろうなぁとたかを括っていた所に急にそういう事言われてもさぁ! 裏とか陰謀とか利益とか政略とか色々考えるとノーセンキューなんだよなぁ?
しかし告白時点で台上以外は大盛り上がり。英雄と姫様の結婚などめでたい限りだと浮かれて踊る民衆達。
……さて、どうやって逃げ出そうかな!!!!!
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