第50話
一晩がかりで弟子をなぐさめた翌日、私は朝から山の中腹の辺りまで来ていた。睡眠時間こそ少なく、アリスなどはまだベッドで寝ていたわけであるがそこはそれ。戦う事には何の支障もなく、道中の雑魚……まぁ雑魚と言っても軽く難度指定は7や8の魔物を地面の染みに変えながらのんきに登山というわけだ。
「オォォォォオオ!!!」
やたらでかい叫び声を上げたと思えば、図体の割に軽快に走り寄ってくる巨人。最近1撃が重い魔物ばかりだったので文字の通りに手数の多い魔物というのは久しぶりであると剣を抜いたところで。
乱雑に振るわれた拳の一撃は、しかし1発や2発程度の『重み』ではなく。それこそ吸血鬼の一撃に匹敵、あるいは上回るほどの衝撃。それが2、3、4……いや、止まることなく降り注ぎ続ける。
これまで遭遇したことのあるどの魔物よりも圧倒的に強い、そう思える暴力の嵐の中で剣を振るえば感じる手応えは『柔らかさ』。おそらく全部の攻撃がそのまま通るような感覚は、なるほど攻撃偏重の魔物である事を表しているのだろう。
それこそ木剣で10分も切り続ければ地面の染みになってしまった巨人、おそらくはヘカトンケイルとかそういう感じの魔物であるが今までの戦いの中で一番攻撃を受ける効率が良かったなと思う。それこそ5匹6匹の魔物に囲まれるよりも多い手数は熟練度稼ぎに非常に良いだろう。
効率の良さそうな魔物が居ることに内心ウキウキしながら探索を続けると、次に見つけたのは岩の塊が動く光景。
ゴーレムとかそういう生物かと言われれば違う、太く長いそれはヘビとかそういった生き物の挙動であり。ごりごりに硬い見た目と相違なく切りつけた感触は今の私ですらぎりぎり貫通できているかどうかという程の『硬さ』を誇っていた。
おそらく木剣では日が暮れるまで切り続けても地面の染みになるかどうか。反撃の尻尾やタックル、噛みつきなどは『軽い』ので、こちらは防御偏重の魔物なのだろう。
というわけで早速、岩ヘビ君を引き連れてヘカトンケイルを探す。幸いと言っていいのか別に1匹しか居ないレアな魔物だったわけではないようで、いやこんなのが群れて街に来たら相当やばいだろうなと思いながらも攻撃を浴びる。
巨人なだけあって体力も多いらしく、人間であれば無呼吸で全力を出しても稼げないような回数を1時間も衰えることなく腕を振るい。しかしそれでもじわじわと疲れを見せてきた巨人を地面の染みにして次を探す。
岩ヘビは増えたところで私の腕が一本というか、攻撃対象を増やす意味が無いので探さず。とはいえ出てきてしまったものはしょうがないのでそのまま引き連れ。巨人の攻撃を浴びながら、魔法剣であればどのくらいで地面の染みに出来るかを確かめる。
魔法の通りは良いらしく、そこに攻撃の手数も乗る魔法剣は非常に効きわずか10分足らずで地面の染みになる岩ヘビ君。なんだろう、ロックボアとかロックバイソンみたいな名前なんだろうなぁと考えながら木剣に切り替えて切り続ける。
半日以上はそうして熟練度を稼ぎ、1時間程度は山のふもとで地面の染みを量産してから街へ帰る。いや、中々に大きな山であるがゆえにヘカトンケイルや岩ヘビを狩り切ってしまったとかは無いと思うが、数を消化するならふもとの方が圧倒的に効率が良い。
かといって森の辺りの魔物は少々弱いだろうという事で逆に効率が落ちるだろうと、とりあえずはワイバーンや大猪を相手にしたわけである。流石に先月ほどの数はこなせなかったが、それでも20程度の魔物を地面の染みに変えた成果はあり。
名前:( )
性別:男
年齢:16
LP:100/100
MP:11/100
筋力:66/66
体力:66/66
技量:68/68
俊敏:69/69
魔力:59/59
知力:65/65
教養:150
俊敏などは70までリーチとなったし、その他のステータスもまんべんなく数値が上がっている。流石に1日で攻撃回数の方が増えるとは考えていないのである程度の長期で考えてはいるが、このペースなら1月でステータスの方も100を超えるのかどうかの確認を出来るかもしれない。
いや、その前にふもとの魔物では頭打ちになるかもしれないので皮算用なのだが。つくづく創作でよく見かけた鑑定とかいう技能のチート具合を思い知らされる。いやまぁ自分の能力を数値化して見れている以上贅沢な話ではあるのだが。
攻略本などがあればいいのにと思いながら帰ってみれば、どうも今日は街に魔物の襲撃があったらしい。わいわいと騒ぐ中に『ようさいき』なる単語が頻出しているのを耳に挟む。
なんだろう、溶砕鬼、とかだろうか。イントネーションとしてはそこまで違っていない気もするが、そういった
まぁ無関係だろうと宿に帰る。流石にアリスもこの時間まで寝ているという事は無く外出しているらしい事を確認して、近くの適当な食事処で夕食を済ませてから帰って寝……ようとした所で扉が勢いよく開かれ。
「あ! し、師匠!!! ど、何処にいて、というか大変な事になっちゃいました!」
帰ってきて早々騒がしい弟子であるが、若干酒の匂いがするので夕食は済ませてそうだなと思いつつ話の続きを促す。
「ふ、二つ名がついちゃったんですけど、その、『ようさいき』だなんて大層な……」
ようさいき……あぁ、ひょっとして要塞姫という辺りではないだろうか。要塞都市のお姫様的な……いやでも確か城塞都市って呼ばれていた気もするのだが、それだったら城塞姫とかになるのではないだろうか?
「その、今日街を襲撃してきた魔物との戦いに参加したんですが……他の冒険者や兵士の方が命を落とすような攻撃を受けて平然としていたという事で……あと師匠のせいで良い家のお姫様なんじゃないかって噂まで合わさってそんな事に……」
なるほど。まぁ確かに回避回数的な概念の無い人から見ればよっぽど防御力が高いように思えるわけか。それこそ一人の人間が要塞に例えられてもおかしくは無いという訳だ。
しかしまぁ有名になりたかった訳であるし、そこまで実力が無いわけでもないのだから良かったじゃないかと思うのだが。私なんて最初は関わらない方がいい狂人扱いだったわけで。
「いえ、なんていうかこう、もっとぐわーってなるような困難を乗り越えてやっと! って思ってたのに、大したこと無い事をしただけでもてはやされてるみたいで……いえ、師匠の修行が大したことないとかそういう事を言いたいんじゃないんですけど!」
まぁ言いたいことは分かる。雑魚一匹相手に普通に戦っただけだが? 私何かやっちゃいました? 的な事だろう。ラノベ主人公みたいな事を言い出したというか、順調に常識が壊れているらしい。
という冗談はさておいて、夢見ていた場所が実は大したこと無かったとかそういった感じで燃え尽きる人は多く。実際この世界の常識的なレベルで考えれば人類でも最上位、望んでいた『英雄』には片足は突っ込んでいる事だろう。
夢なんて持ったことも無いので完全に理解できるわけでもないが、叶ったら幸せという単純なものでもないというのは古今東西の物語でも語られているわけで。
とりあえずは適当に話を聞きながら、それっぽい事を言っておく。『お前のなりたかった英雄っていうのは他人からの名声をもってちやほやされるだけの物なのか?』とか、適当に煽っておくだけで勝手に納得してくれるのでちょろい。
さて、さっさと寝て明日からの熟練度稼ぎも頑張るか! 自分の成長が一番大事だよな!
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