第48話

 弟子、実は主人公説。まぁ物語の主人公なんてどこか一般人とは違う精神性を持っているものだし、英雄に憧れて行動力ばり高い、拷問じみた所業にも対応可能とくれば本当にありそうな説である。


 ゲームっぽいとは思っていたが、本当に私の知らないゲームの世界という可能性は0ではない。それこそインディーズだの同人だのといったゲームは星の数ほどあっただろうし。


 そういう系の娯楽小説はそれなりに嗜んできたわけであるが、大体そういった本の主人公はそれこそゲームの主人公や重要人物に成り代わっていたように思うのだが。それも原作知識という武器付きで。


 一方で私はと言えば名前は空白だのこの世界のことはかけらも知らないだの、余りにも酷すぎる状況。責任者がいるなら出てきて欲しいレベルだ。


 そもそもとしてそういった展開であれば基本的に原作を遵守すべく頑張るだとか、原作で死ぬ人物を助けるだとか、あるいは原作知識を利用して俺つえーをするのが定番である。


 固定ダンジョンの隠し部屋にあるレアアイテムだとか、実は隠しダンジョンに繋がっていてだとか、バグやグリッチを活用したお手軽レベリングだとか。あるいは黒幕の計画を知っているとか弱点があるとか。


 ……どうしようもなくないか? というのが結論である。よしんばこの世界に原作があると仮定して、更にアリスが主人公だったとしよう。


 名作であればそれこそ手に汗握り血湧き肉躍る夢のような物語が展開されたのだろう。アリスが華々しく活躍する事件やラブロマンスなんかもあったのかもしれない。で? それがどうした?


 そんな事言い出したら私は私の人生の主人公じゃいボケェ、というのが私の意見である。まして知らない出来事に対して何の責任を負っているわけでもない。


 という事をつらつらと考えながら宿を取った所で、今まで黙っていた弟子がぷんすかといった様子で口を開いた。


「師匠! どういう事か説明してください!」


 お前にも分かる時が来る……いずれな……などと返したら更にキレそうなアリスであるが、とりあえず夜逃げしたんで位置バレしたく無くてェなどと素直に言うのもアレなので、適当に話をして誤魔化す。


 具体的には『私は実のところ功名心などは無く単純に強くなりたいだけ(事実)であり、弟子は英雄になりたい(事実)のだから、私の影に隠れてしまわないようあえて私は名を伏し(都合の良い真実)、弟子の育成と自分の修行をしながら(予定)折を見てお前の名を売っていこう(隠れ蓑)』的なストーリーだ。


 ついでにそこはかとなくやんごとなき身分っぽさを騙るのもどうせ将来的には名を挙げれば貴族になるかもしれないから予行練習だの、格下の挑発に安易乗るのは英雄的ではないだのといったそれっぽい話もいくつかしていけば簡単に誤魔化されるアリス。ちょろい。


「やっぱり師匠はすごいなぁ……子供みたいな見た目ですけど、100歳の賢者様って言われても驚かないですもん」


 失敬な、誰がおじいちゃんだ。精神年齢だって30代、肉体年齢で言えば16歳だとシステムさんだって保証してるんだぞ。


「16歳? またまたご冗談を……え、本当に? 歳下なんですか師匠!?」


 精神年齢でいえば歳上だが、まぁ表示されている数値はそうなので本当だろう。万一虚空から発生していれば実質2歳児だが。というか私としては弟子の年齢が上だった方が驚きだよ。


 いやまぁ、3年がかりで3レベルと前呟いていた気もするし、私が14歳でしれっと冒険者始めた事を考えるとそれ+3年で17、開始と2レベルまでの期間で前後こそするだろうが上なのはおかしくはないのか。ちなみに何歳?


「18歳のおねーさんですけど、乙女に年齢尋ねるのはあまり良くないですよ師匠」


 急に年齢マウント取り始めるじゃんね。まあ大人になったら2〜3歳なんて誤差みたいなもんだけど子供の頃は1年違うだけで大差か。いや40過ぎても1日差でマウント取り出す人種もいるな……


 というか年齢18歳以上だと尚更何かの主人公疑惑が出てきて嫌だな……冗談や思考実験のつもりだったのに嫌に信憑性出てくる。でも主人公っぽい魔法覚えれなかったんだよな……ホーリーでライトなんて主人公感高いと思うんだが……


 他のお約束といえば炎や風、水に雷辺りなイメージもあるので何ともいえないが、とりあえず魔法も使えた方が修行も捗るので何かしらは覚えれて欲しいところである。そう考えると王都に居る間に塔とか尋ねれば良かったか……?


 まぁ過ぎた事は仕方ないと、さっさと寝た翌日。とりあえず来て初日という事もありアリスには街を回らせて食事処やら色々を調べさせつつ、自分は山に向かう。


 初日から修行も戦いも無い事に驚いていたアリスに、今の所レベル4に1日、5に1週間、6に1ヶ月。このペースだと7レベルには1年もかかってしまうので効率を上げれないか考えると言うと


「師匠、1年で7レベルは普通正気を疑われるというか、あり得ない冗談ですからね?」


 などと言われ。私としては過去の経験上1〜3ヶ月もあればレベルが上がると予想しており、格上の方が熟練度は上がりやすいがある程度差があり過ぎると計算式が変わる的なやつを想像しているのだが。


 いや、実際私の『格』というか、難度で表すとどうなるかと言うのは微妙な所なのだが。前にも考えたが難度2の魔物を倒して上がるステータスが20辺りで頭打ち説を考えるとステータスを基準にしてそれこそ10の桁が難度という考え方もある。


 熟練度でいえば今の私が……ええと道ゆく魔物を地面の染みにしつつ確認すると12回攻撃、回避回数は計測が難しいがおそらく10以上はあるだろう。その辺りを基準にするなら10〜12となるわけで、ざっと11と言っても良いかもしれない。


 システムがどうなっているか分からないので正確な事は言えないが、スライム君を延々しばいていても効率が悪く強い武器で強い魔物しばく方がある程度効率が良い以上、固定値で経験値が入ってレベルアップというよりは100%になるまでメーターが溜まっていき格上なら0.1%格下なら0.0001%みたいなイメージの方が近いと思う。


 そこで4から5が1週間で5から6が1ヶ月(端数切り上げ)だった事を考えると、どちらかといえば参照値はステータス側なのでは無いかと予想が付くわけだ。となれば必要なのはステータス上げであり。


 熟練度稼ぎなら数より質であったが、ステータスはむしろ数こなす方が上昇値高いというのが過去の体感であり、かつより格上の魔物の方が良い。というわけで。


 山のふもとを駆け回りながら遭遇したワイバーンや5メートルはありそうな猪、ごつい鬼みたいな、オーガ的な奴などを逐次魔法の光の剣で地面の染みに変えていく。


 あまり魔石を拾い過ぎても、というか正直1個でも拾って帰るとまた面倒な事になる可能性を考えて何も拾わずにただただ地面の染みを増やす生態系破壊を行う事1日。


名前:( )

性別:男

年齢:16

LP:100/100

MP:22/100

筋力:64/64

体力:65/65

技量:66/66

俊敏:68/68

魔力:56/56

知力:63/63

教養:150


 おそらく過去最高に短期間で爆上がりしている気がする。何なら途中から一部の魔物は1撃で地面の染みになっていたし、陽が落ちそうになるまでにそれこそ200〜300近くは地面の染みが増えた。


 角だの肉だの色々や魔石を全回収していればそれこそ1000万円が見えそうな狩の成果はなんと0円。流石に勿体無い気もするがそれ以上に成長した数値にテンションが上がる方が上なので問題はない。


 とりあえずこれで1ヶ月様子を見て、アリスが成長するか確認するとしようかな!

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