第47話

「では英雄殿、また会おうぞ」


 なんやかんやでベラベラと話し込んだ王様が入ってきた時同様に出ていく。アレ正面玄関から出入りしてるんです? もうちょっと周囲に気を払っていればなんとなく空気感とかで警戒できていたかもしれない。


 全般として豪快なおじさんだなぁという印象を全部上塗りしてくる王様という肩書きではあるが、この国の法律とか知らない、というか法律みたいにかっちりしたルールがあるかも知らないのでどの程度の権威なのかも知らないのでとりあえず1番えらい程度で認識している。


「確か第3王女は今年で18歳、第4王女が11歳でしたな……」


 娘との結婚とかどうと勧めてきた王様の話の補足が横から飛んでくる。いやいや、ロイヤルファミリーの家族構成だとか年齢を知りたいわけじゃ無いんだ。もっと根本的な、常識というやつが不足しているんだ……


「とりあえず騙し討ちみたいな事言い出したのはギルドマスターの方なので、もしこの辺を更地にする時は私の命だけは助けていただけると……」


 割と凄いクズみたいな事を秘書の方が言っている。いや、そんなパワーは無……いや、魔法使えばワンチャンあるか? 基礎がRPG系のゲームっぽいイメージなので生き物相手にしか使っていなかったが……


 またもわいわいがやがや騒ぎ出した大人2人を放っておきながら、とりあえず考えをまとめる。


 王様の言った事を簡単にまとめれば『家族になろう』辺りが適切だろうか。売っぱらったはずの鎧を『献上』扱いにするので貴族位が下賜される系の話はちょっとよく分かりたくない。


 あれでしょ? 騎士、男爵、子爵、伯爵、侯爵の順とかでえらいんでしょ? あるいは円卓囲んでみんな同じ騎士名乗ってるのかな? なんとはなしの知識はあれどこの世界がどうなのかはさっぱり知らないぞ。


 ともかくそんな話が勝手に進行されかねない現状、権力者に『お前も家族だ』される前に知らないふりをして逃げるのであれば早いに越したことは無いというわけである。


 というわけで未だに取っ組み合いしている大人2人を放置して宿に帰る。正直荷物といっても腰に下げている剣が4本に簡単な袋、というか最初から持っているものに金が増えた程度しか無い。


 ちょっと食料を買い込み、夕方になって久しぶりのお休みを満喫してきたらしい弟子に今晩辺境に旅立つけどついてくるかどうかを確認する。


「へ!? きゅ、急ですね師匠。いえ、まぁ王都に来たのも師匠がいるとのことだったので別の所に行くならついて行きますけど」


 そういえばそんな事を言っていたね君。


「ギルドに呼ばれた日に、という事はまた新しい英雄譚の幕開けですね!」


 あー、まぁそう思うのならそうかもしれない。別に依頼を受けたとか彷徨う魔物ワンダリングモンスターが居たとかそんな事は無いが、わざわざいう必要も無いだろう。


 正直な話週一で悲鳴を上げている闇の帝王(笑)君ではそろそろ効率が悪い気もしているので、人外魔境と名高い辺境に行こうかなという計画はあったのだ。


 ただちょっと予定以上に早まっただけというか、まぁもう一回くらい熟練度上がってから行こうかなと思っていた程度でありアリスの方の熟練度も上がったので丁度良いという事も出来る。


 幸いにもちょっと金を握らせつつ辺境直通に近い馬車を出してもらうことにも成功しているので、善は急げというわけだ。


「レベル7の上位冒険者でも立ち入るのを躊躇う魔山脈近郊……でも師匠は前人未到のダンジョンも踏破してるし怖く無いんだろうなぁ……」


 山奥は難度計測不能の魔物がうじゃうじゃ居ると評判であり、偶に麓の森を超えて出てくる魔物を相手にするだけで数多くの冒険者や兵士が駆り出されると噂の土地である。


 というわけでガッタガッタと揺られながら丸1週間。王都よりも更に壁の分厚い、今までで最大規模の守りに見える辺境防衛城塞都市、ハテーノの街へと辿り着く。


「わぁ〜! 大きいですね師匠!」


 辺境の開拓地という言葉でどちらかというと田舎を想像していたが、雰囲気や高級感こそ王都に負けどそれ以上に機能的、質実剛健という方向性では上かもしれないと思える。


 いやまぁ、聞いていた話が本当ならそれこそ千人超える兵士が居て、名の知れた冒険者パーティーも雇われる形で淹留しているともなればその士気やらを保つための諸々含めた街の規模も大きくなるのは必然。


 というわけで早速冒険者ギルドを探し、道中しれっと討伐していた魔物の魔石の換金などをしようとした所で。


「おいおいおいおい、女子供がそんな形で何の用だぁ?」


 急にチンピラめいた絡み方をされる。いや、女子供というのは何も間違っていない評価なのだが。私も高々16歳の子供……いや、成人年齢がいくつか知らないのでひょっとするとギリ大人分類なのかもしれないがどうだろう。


 ついでに言えばアリスの年齢も知らないので一概に子供というのは間違っているかもしれないなと考えていると、黙っていることに気をよくしたのか更に畳み掛けるチンピラ。


「ここはハーシコ王国でも有数の魔物との戦いの最前線、村から出てきたばかりのペーペーが来るような場所じゃぁねえぞ! さっさと田舎に帰るんだなギャハハ!」

「はぁ? 田舎から出てきたペーペー? こっちは詩にも語られる英ゆもごもご」


 常識的に考えて正論を言っている良い大人な気がするのだが、どうも弟子の方はそうは受け取らなかったらしい。鼻息荒く、と言うとアレだが余計な事を言いそうになるので慌てて止める。


 こっちは夜逃げしてきてるんだぞ! わざわざ名前を広めるなんて追いかけてこいと言わんばかりの愚行、というか何処にいるかバレたくない。


 というわけで一芝居うつ。具体的にはこれから名を挙げようとしている何処ぞの貴族令嬢がこっそり従者1人を引き連れている感を出したい。


 『お嬢様、英雄を目指すならそんな簡単に喧嘩を買ってはいけませんぞ』などとわざと聴こえるように言いつつ、周囲には聞こえないように余計な事を言わないように耳打ち。


 どうもご心配をなどと言いつつざっと10万円位の価値の金貨を周囲にも見えるようにチンピラに握らせ、ささやかですがお騒がせしました詫びですなどと嘯く。


「お、おう。いや、わかってりゃぁ良いんだ、へっへっへ」


 実際心配してくれただけっぽいチンピラは何となく何かあるっぽい雰囲気を勝手に感じ取ってくれたらしく、素直に引き下がってくれる。いやぁ空気の読める人は好きだなぁ。


 ……いや、普通こういうイベントってもっとこう、初めてギルドに登録するときとかに発生するものじゃない? と思ったところでふと思いつく。


 ゲームっぽい世界、アリスなんていかにもな名前、私が知っている限りでは初ギルド来訪。ひょっとして主人公だったりする???

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