第45話

「ひょっとしてなのだが、あのダンジョンを踏破してたり……しますかな?」


 ある日の朝。ギルドの方から連絡という事で暇だったら顔出してねと言われたのでその日のうちに乗り込んだところ、椅子に座った偉いであろうおじさんことギルドマスターは開口一番そう言った。


 最近は弟子の育成の方に力を注いでおり、週一ペースでしかダンジョンに潜らないまるで一般冒険者のような生活をしていたのだが。断末魔カーニバルを毎日は嫌だとかそういう理由もなくはない。


 かるく駆け足気味に突っ込んでいき、道中の雑魚は上級聖光魔法で作った光の剣を全力を込めた一撃……は流石にまだ無理だったが、2,3発で地面の染みに。情けない悲鳴を上げる闇の支配者(笑)(ある時の開幕名乗り)だけ多少時間をかけて木の剣で弄る日常ではあるが、まぁ質問の答えはハイというわけだ。


「ですな、まさか攻略出来ているはず……おや、聞き間違えかな」

「しっかりしてくださいギルドマスター、貴方が現実逃避してどうするんですか」


 秘書の方との漫才を眺めながら、はてさて何か問題だったろうかと知恵を絞る。出てきた宝箱からの戦利品はまぁやたら豪華で頑丈そうだけど装備するとパラメータが体力こそ上がれど俊敏技量に魔力までが下がる鎧とか、そういったデメリット付きの物が多かったので大半売っているが。


 強いて残しているのといえばどことなくおどろおどろしい色をした剣、推定闇属性のミスリル……より強いとされる地上最高位の鋼武器より基礎攻撃力が高そうな、推定アダマンタイトの剣くらいのものである。デザインはシンプルなんだけどな。


 これとかこの前売った鎧とかはボスドロップですよとふりふりしてみれば、びっくりするほど大きなため息を吐かれる始末。どうにも根本的なあたりで認識の差、というか私の知識不足が出ているらしい。


「ごほん……あぁ~ジョン殿、そもそもとしてこの国の成り立ち、歴史についてはご存じ……ないんでしょうなぁあったら言って分かるでしょうからなぁ!」

「頭抱えてないで早く本筋言ってくださいよマスター。というか私の退職届の受理だけしてくれませんか?」

「逃がさんぞ……貴様だけは……」


 取っ組み合いを始めそうなギルドマスターと秘書を尻目に、この国の歴史とやらが一体どう関わってくるかを考える。流石にあのダンジョンを攻略したら王様にしまーすなどといった馬鹿な話は無いと思うのだが。


 推定だとあのダンジョンがやばいので見守るための一族だとか、あるいは攻略出来た人が初代の王様だったとか、その辺りだろうか。どう絡んでくるにしても面倒なことがありそうな気配だけは理解できた。


 ごほんと咳払いして胸倉をつかみあっている大人達を落ち着かせる。というか咳払い一つで脅えたように落ち着くのは人の事を何だと思っているのか小一時間ほど問い詰めたいがどうせろくなものではなさそうだ。


「ま、まぁこの国の歴史ですが、初代王はそれはもう伝説的な人物でしてな。詳しくは本や語り部なぞに聞いていただくとして、その王が最期に挑み帰ってこなかったダンジョンこそがあの悪魔の巣窟と言われるダンジョンなんですな」


 ギリ予想の範囲内である。攻略がバレてもかろうじて致命傷で済みそうなレベルの風評で済みそうだ。というか初代の王なのに建国前に死んでないか? ちょっと興味出てきたな国の歴史。


 いやまぁ建国後に生えてきたとか、そういうパターンもあるのかとサイクロプス君の居たダンジョンを思い出して興味を失う。フレーバーテキストとか読み飛ばすし考察とかしない派なのだこっちは。


「ですのでその、もしそういった話が広まれば、いや広まらずとも王族の耳に入れば……」


 入れば、何?


「流石に今代の王とて馬鹿ではありませんが、その、少々……軽いといいますか……」


 頭が?


「いえ、フットワークが……」

「具体的に言うと応接間で何喋ってるか分かるギルドマスターの部屋でこの会話聞いてたでしょうしそろそろ来るんじゃないですかね?」

「おい馬鹿お前ぇ!」

「廊下辺りで会話聞いてない可能性のある一国の王より英雄殿の心象の方が大事でしょ! ほら不祥事で免職でもしてみろ!」

「どうせすぐ分かるからって言っていい事と悪い事があるだろうが!」


 おっと私急用を思い出したのでそろそろお暇させていただきますね今日は面白い話をどうもありがとうそれじゃ!


 という感じで部屋を出ていこうと立ち上がった瞬間、ガチャリとドアが開かれる。入ってきたのは割とマッシブな中年ごろのおじさん。頭の上に載っている冠がチャームポイントかもしれない。


 ……王様居るんだったら至急来いとか連絡しろよなぁ! 暇だったら来てねとか私が忙しいからパスとか言ったらどうするつもりだったんだ! と内心では錯乱しつつもとりあえず落ち着いて礼だけしておく。


 こちとら田舎出身の冒険者風情ですからぁ? 礼節なぞ期待されてもぉ? と思いながらも今までしたことのないよくわからない手の動きや頭の下げ方しているのでおそらくシステムさんが上手い事やってくれたのだろう。


「うむ、我が国に訪れた英雄殿を一目と思ったのだが、よもやそのように礼を尽くされるとは思いもよらなんだ。どうにも聞いた話以上のようだな」


 さて、帰ったら夜逃げの準備かな!

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