第44話

「レベル6なんて、20年も30年もかかるって言われてるのに…… というかレベル3になるのも何年も掛けたのに…… それだけ厳しいというか、英雄なんて普通じゃないとは分かってましたけど…… たったの1か月で……」


 ぶつぶつと言いながら、少し豪勢な食事処で肉を切るアリス。もちろん店員として切っているわけではなく私と一緒に客としてきている。ほら、弟子の食事代位は師匠が出しても支障ないだろう?(渾身の激うまギャグ)


 柔らかさで言えばマスターに出してもらったウサギ肉の煮込みの方が上だが、がぶりと噛みつけば脂と肉汁が口いっぱいに広がる系の肉。お値段にして1枚で5万円以上というのは店に入ったときに確認された。


 いや、冒険者といえば散財とでもいうのだろうか。平然と食事でそんなに飛んでいくのであれば確かに簡単に金が無くなるか、とプレートを見せた途端に何も言わずに席まで案内された時に思ったものである。


 まぁ今でははした金とも言えるので問題ないというか、一応世間の括りでは中位冒険者の上澄み、それこそ1%も居ないレベル7以上の上位冒険者の一歩手前まで成長したアリスのお祝い位はしてやるべきだろう。


 たとえ1か月とはいえ、1日中延々と切ったり切られたりを繰り返すだけの苦行、というか世間一般では拷問の類によくもまぁ逃げ出さなかったというか。正直英雄のメンタルはあるのではないだろうか。


「あふぅ……! おいひぃ……! し、師匠、これ本当においしいですよ師匠むぐむぐ」


 自分の貯金では食べれないものを奢られているのにここまでおいしそうに食べられるというのも才能の一種だと思うので、ある意味で天才なのかもしれない。いや、これで割り勘などと言ったらすごい顔をしそうだ。


「わぁ、これもすごくおいしい…… 今まで食べてたものが食べれなくなっちゃう……」


 生活基準は一度上げると落とせないとはよく言われるが、それを言ったら強制的に美食飽食の世界からかったいパン食べるところまで落ちた経験があるので、まぁ全然問題ないのは確かだ。


「飲み物も…… あー、すっごいお高いお酒って感じがしますね師匠!」


 肉よりグラス一杯が高いからね。確かに高いのは分かるが正直一回のダンジョンで稼げる額に比べても安いので毎日3食でも問題ないのだが…… まぁわざわざ散財する必要もあるまい。


 正直装備とかも金で買えるものを探すよりダンジョンで出てくるものを探す方が高性能なものが出てくる可能性が高いしな…… 道中の宝箱も誰に遠慮することも無く開けれるが、わざわざ宝箱だけを探索していないのでそこまで数は無い。


 一番良いのはボス部屋の宝箱だろうというのは明白だし、わざわざ細かいところを探し回るよりは週一ペースでも定点でいいやとなるわけで。いや、わざわざスルーするほどでもないが。


 ともかく軽率に1000万とか稼げるようにはなっている現状、2桁程度であればまぁいいかという思考になっているのはどことなくゲーム通貨だという意識があるからかもしれない。


 MとかB、Tみたいな数値の出てくるゲームなどはMMORPGでは多くあるし、食事でバフのかかるシステムであれば高級料理にトレードで数Mかかることもザラだったという知識があるわけで。


「えへえへ、ほんろおいひぃれふね、もきゅもきゅ」


 まぁ偶になら贅沢をするのもいいだろうと、そう思いながら私も食事を進めるのであった。

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