第43話

 弟子にしてから3日目。私としては一日中切り合い続けることを最初に想定していたのでまだまだ時間がかかるだろうと予想していたのだが、アリスが4連撃を出来るようになった。


「はえ? し、師匠、今! 今レベルが! ちょっと! 喜んでる時くらい攻撃を止めて下さ! 怖いんですって本当に!!!」


 確かに1週間で4にすると言っていた手前、もし最終日までこのペースのまま攻撃回数が増えなければ最終的にデスマーチ(意味深)を敢行する予定だったし、嬉しいのは分かる。


「え、師匠? それってこれより厳しいって事ですか? というかデスって死ぬ事前提みたいな…… じょ、冗談ですよね師匠? よかった、頑張ってよかった……」


 一旦修行をやめてそういえば言っていなかった計画を話すと、唖然とした顔の後にほろりと泣いて喜んでいた。いや別に喜びの涙だとは本気では思っていないが、『泣いて喜ぶなんてよかった! じゃあ次は今度こそ1週間でレベル5だな!』的な事を言った時の顔はその方が面白い。


 驚くほど面白い顔で数秒固まったかと思えば、ぷるぷると振動を始める。真っ赤になったり真っ青になったりひとしきり変化した後にこちらに恐る恐る訪ねてくる。


「むむむ無理で…… もないんですか? いえ、だってレベル5っていえばもう中位冒険者ですよ? 覚悟していたし夢の為とはいえ常識が…… あれ、もしかして出来ないと本当に殺され……?」


 にっこり。


「う、うわーん! でも英雄になるならこのくらいでへこたれちゃダメなんですよね…… でも怖いよ~!!!」


 まぁ安心してほしい。昨日ダンジョンのボスドロップで出たものが想像通りならもう少し効率が上がるはずなのである。


「今さらっとボスドロップって言いました!? 師匠ってあの前人未踏難攻不落の難度9ダンジョン、悪魔の住処に行ってるんですよね?」


 まったく先人は情けないよね。子供の私でも簡単に攻略できるダンジョンに御大層な触れ込みを…… などと冗談を言った上で話を戻す。取り出したのは一冊の本。表紙には『上級聖光魔法』の文字。いや、初級通り越して上級だし宝箱からドロップするんだな魔導書って。


「なんですその本。ちょっと読めないですけど…… 師匠の日記とかじゃなくて本当にドロップ品ですか?」


 人の事読めない文字で日記を書く変人だと思っていらっしゃる? と睨めば即座に首を横に振るアリス。まぁいい、とりあえず一回読んでみてくれたまえ。


「とりあえずって…… いえ師匠、これ本当に何がかいてあるか分からないというか、うぷっ、あ、あれ、気分が……」


 ほんの2、3ページ捲っただけで急に体調を悪くするアリス。なるほど、どのパラメータかは知らないが不足している、あるいは適正なんだろうか『資格がない』状態だとああなるんだな。で使えれば勝手に消滅するからコピーできないんだろう。


 少々乙女の尊厳を失っている弟子から魔導書を回収し開いてみれば、前の時と同じように光を放ちながら自動でページがぱらぱらとめくれ、最後まで捲れると塵になる。


 ふむふむ、なるほど…… やはりイメージが重要だと認識しながら、初級雷撃魔法とは比べ物にならない『自由さ』を振り回す。


 さっと放った光は地面に零れている乙女の雫を本人付着分まで丸ごとクリーンに。次いで放った光が当たると先ほどまで紫色に近かったアリスの顔に血の気が戻る。


 更に手で握る光の剣を出してみたり、遠くにいたスライムに向けて光を放てば即蒸発した後地面の染みになることを確認する。うーむ便利。回復魔法系統かと思ったが攻撃も出来るんだな。初級雷撃の方は攻撃しか出来ない雰囲気だったのだが。


「し、師匠。さっきのは魔導書だったんですね…… いえ、自分が魔法を覚えれなかったのは残念でしたけど、ひょっとしてものすごい魔法だったりしません?」


 私のイメージでなんとなくホーリーでライトっぽい事は何でも出来そうな事にはしゃいでいると、復活したアリスがジト目でこちらを見てくる。いや、おそらく人類平均でいえばものすごい魔法なのだろうが、なんとなく上に特級とかありそうなイメージがあって大喜びは出来ないんだよな。


「師匠が絶対に普通の価値観ではない事考えてる…… でも、それでどうやって効率が上がるんです?」


 ふむ。時にアリス君、先ほどまで20分は剣を振っていたがまだ疲れているかね? 嘔吐した後の疲労感や気分の悪さは? なんだったら昨日までの疲れの累積なんかは感じているかね?


「……あれ? そういえば身体が軽いというか、全然疲れとかが残ってない……?」


 ふむ。予想通りである。いや、体力回復できるポーションの類をがぶ飲みさせるという最終手段も考えてはいたがおそらく阿保みたいに金が溶けるだろうし、それに比べて魔法一発で全回復リフレッシュできるのは効率がいい。


 MPの消費の方も大したことは無さそうで、溢れないように定期的に自分に流していた電流を数回減らすだけで問題は無いだろう。一日中休まず撃つのは難しいだろうが、アリスを回復させるだけなら支障は無いわけで。


 これで朝から晩まで倒れることなく休むことなく剣を振り続けられるね!


「ひ、ひぇ~!!!」

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