第42話

 延々と切り続けながら、お前も私のように攻撃を受け付けなくなると囁き続けながら剣を振らせ続けること2日目。目の前の実例という説得力でイメージ洗脳するプランのおかげで、本当に1撃分は無効化出来るようになったことを手応えで感じ取る。


「師匠! 本当に! 師匠! ひぃっ! これ!」


 というわけで本当に効果があったことを理解してもらえるようにわざわざスライム君を集めて戯れさせているわけだが、喜んでいるんだか怖がっているんだか中途半端な表情を浮かべているアリスを眺める。


 まぁ攻撃を受け続けるとか常識的に考えればありえないわけで、この世界の人間で同じ事が出来るのは居るか居ないか怪しいところでは無いだろうか。いや、これから先広めていけば増えるとは思うが。


 いや、まぁ独占という観点でいえば『私が特別な指導をしたから』などと嘯き、アリスには口止めをすれば広まらない説はある。理解せずに下手に真似しても地面の染みが増えるだけだしな。


 実際『地面の染みにしない』ように攻撃するという発想とそれを出来るイメージ力や技量があり、しかもある程度は攻撃回数がある存在を用意しないと効率が悪いので増えない可能性は高いとも言えるのかと思考で手のひらを返していく。


「もう攻撃していいですか! ひゃん! 良いですよね師匠!」


 まぁ切り合いより効率悪いとはいえ、イメージを持つ為には良さそうだからこのまま私の方に攻撃してスライム君の攻撃は受け続けるように言う。安全管理? ダメそうだったら魔法で丸ごと地面の染みにするから問題ない。


 そう、魔法。私は基本的に自分に向かって撃ち続けていたわけであるが、ふと思い立ってこう範囲攻撃のようにぶわっと出来ないか試したわけである。結果としては出来てしまったというわけだ。


 しかも雷というのが良い感じにイメージできるおかげか、枝分かれした雷撃が狙った相手だけに良い感じに直撃する人力敵味方識別も可能な一品だ。これが炎だとかだったら難しかったかもしれないが、まぁ炎でもなんとかなった可能性もある。


「きゅう~」


 昨日より少し長く保ったとはいえ、結局はばたんきゅーとでも言いそうな倒れ方をしたアリスを宿に持ち帰って放り込み、自分はダンジョンに向かう。一日中切り合えればもう少し効率上がりそうなのだが……


 そう思いながらダンジョンを潜ることしばらく。前に見たものと雰囲気としては同じでかい扉を発見した。高難易度になっても深さ99階層とかにはなっていないらしい。


 思い切り開ければどことなく王座っぽいところに座っている人型の生き物。こちらを一瞥するやにやりと笑う顔は悪人フェイスである。うっわ牙みたいなの生えてる。


「ほぅ、我の下まで辿り着いたか。しかしたった一人とは、お仲間は皆死んだのかな? はっはっは!」


 キエェーシャベッタァァァ! いやまぁ前から独自言語でしゃべってる節のある魔物の存在は知っていた、というかゴブリンなどもグギャグギャ言っているのだから知能あるみたいなので喋るだろうなとは思っていたが、理解できる言葉を話すとは思っていなかった。


 しかも初手が煽りである。いや、恐怖を煽る方向のつもりなのかもしれないが、道中の難度を考えると……おそらく予想通りの展開になるだろうと考えれば、現状怖くないのである。


「くはは、精々もがき苦しむがいい!」


 推定ヴァンパイア の 攻撃。 しかし ダメージを与えられなかった!!!


 とでもいうようなテロップの流れそうな光景。一瞬空気が凍るような気配。体感としては今まででも上位の重さだが、ぎりぎりというほどではなさそうな重さ。まぁ関係なく剣を振るうわけだが。


「ぬぉぉ!」


 どうやらばっちり効いているらしい。いや、まあこれから地面の染みになるまで声出し続けられるのはこっちにもダメージがあるのである意味攻撃かもしれない。


「ふっ、どうやら、侮っていたのは、我のほ……おい! しゃべっているときに! 攻撃を! 貴様!!!」


 なんで戦っているのにのんきに会話なんてする必要が? 知能上がってるくせに弱い魔物より無駄な行動するんですね笑。などと煽ってみればどうなるだろうと思いながらも、無駄な行動なのでカット。


「ぐぉぉ! ならばこれでも喰らえぇい!」


 ビシャーン、あるいはドカーン。空気を震わせながら直撃した雷は、おそらくよほどの冒険者でも簡単に消し炭になるだろう威力。それこそ中級とか上級みたいな枕詞にレベルも高めなのだろう。まあ効かないのだが。


「……は?」


 剣で切られながら、手札のすべてが効かなかったような顔で呆ける推定ヴァンパイア。お前の事はきちんと熟練度にしてやるからちゃんと頑張って攻撃してきてほしい。


「ば、化け物めぇぇぇ! うぉぁぁぁ!!!」


 お前が言うなと言わんばかりのセリフを吐きながら半狂乱になってがむしゃらにパンチやキック、嚙みつきをしてくるのを受けながらこちらも剣で切り続ける。思い出したように時折放電するが、もっと本気で頑張っていただきたい。


 最終的に雄たけびというより悲鳴を上げていた気もするが、問題なく地面の染みになってもらい。難攻不落と言われたダンジョンを制覇したわけである。


 ……明日から毎日叫ばれるのは少々嫌だな……

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