第40話

「スーミコ村出身、アリスです!」


 適当な食事処に入り、飲み物だけ注文して早速話を聞く。聞いたことのない地名なので行ったことは無い場所のはずだが、まぁ王都出身とかではなく上京してきた組という事だろう。


 装備を見れば簡単な革鎧にそれなりに良さそうな剣。盾もアクセサリーも兜も無いタイプではあるが、少なくとも私の初期装備よりは圧倒的に強い。


「元々は村付きの冒険者をしていましたが、吟遊詩人が師匠の詩を譜っているのを聞いて、いてもたってもいられずに出てきてしまいました!」


 何それ全然知らないのだが?


「レベルは未だ3ですが、英雄譚に憧れていて、これはチャンスだって思ったんです!」


 詩? 詩って何? 悪口大会の間違いではなく?


「もちろん簡単な事では無いとわかっています。私にできることでは足りないと思いますが、なんでもさせていただきますので!」


 正直何をどう謳われているのかが非常に気になるが、ここで内容を聞くというのもそれはそれでダメージを受けそうなので一旦気にしない事にする。ついでに『今なんでもするって』というような反応もしない。


 まぁ一旦元の世界風に言えば、株か何かで一山当てた人……というほど運とか関係なさげなので、物凄い便利なアプリを開発してボロ儲けしたとかその辺りか。


 そんな相手に『業界で伝説ですよ! プログラムのこと教えてください! コンパイラーとかの基礎的な事は知ってます!』みたいなノリで押しかけてる感じか。ある意味凄いな。


 しかしまぁ何かしてもらうと言っても正直何も無いんだよな……金を払わせる意味も無いし、住処やらを貸し出せるわけでもない。なんならほぼほぼ無駄でしかない。


 と、いうのが表面的に見た物事であるが、逆に『私のステータスやらの仮説が他の人間にも適用されるかの実験』という方向で考えれば相手の合意を得られている以上またとないチャンスではある。


 加えて言えば私の想像が正しい場合わざわざ強い敵を探し、命をベットする必要が無くなる可能性がある。そうなれば私にとってはとても大きなメリットな事は確か。


 つまり先行投資という観点で言えば将来便利なトレーニング機具……じゃない、スパーリング相手的なものを手に入れる一歩というわけだ。


 という事を馬鹿正直にいうわけもなく、もしかすれば全然成長しないという事も考えられる事を踏まえてとりあえずは軽く1週間で4レベルを目指す事を伝える。


「へ? たった1週間で……? ……いえ、頑張ります!」


 物凄い覚悟を決めた表情ではあるが、おそらく手加減さえミスらなけれは命の危険は無い筈である。……地面の染みになったらごめんね? という事をやんわりと伝えるが、決意は固いらしく。


 店を出てとりあえずは王都の外へ向かい。程よく離れた辺りで剣を抜くように言う。


「はい! ……あれ、でも師匠、この辺りに魔物は居ませんよ?」


 やだなぁ、君より圧倒的に格上で殴り放題で、その上致命的な反撃をしてくなくて命の危険がない相手が目の前に居るじゃないか。


「……へ?」


 とりあえず盾は貸すから、これで頑張ってこっちの攻撃を防げるようになってね。大丈夫、予想が正しければ今日中に1回分は防げるようになるから。


「え、あの」


 じゃあ修行がんばろっか!!!

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