第38話

 火の玉を放ってくるバフォメット君に、雷っぽいブレスを吐いてくる仮称ガーゴイル君、それから遂に現れた物理ダメージが完全に通らない雰囲気のあるゴースト君。そういったものを相手にしながら体感夕方になったので帰る。


 バフォメット君より更に堅く、延々と殴ってられそうなガーゴイル君は石像みたいなくせに地面の染みになったし、ミスリルソードが無かったらダメージが完全に通らなそうなゴースト君はどうあがいてもそうはならんやろというような地面の染みを残した。


 残念なことに宝箱などは見つからなかったが、魔石の売却だけで軽率に100万円分超にはなったのでやはり金銭的な面では生活に不安は無い事を再認識する。2桁後半近い魔石でやっと数万だった昔の収入を考えると、高々20にも満たない個数で100万円を超えてくるのは感慨深い。


 王都のギルドは酒場併設でもなければ宿屋併設でもなく、ちょっと離れた宿を紹介されて向かう。物理面では少々格下な印象だったが、逆に魔法的な面ではどの程度余裕があるか分からないのでしばらくはあそこに通う予定なので、前払いでさっと今日の収入を丸投げする。


 とりあえずしばらくは部屋を借りっぱなしに出来ることになり、ついでに前の酒場で出されていた食事より豪華な飯がついてくる。食堂でのんびりとやわらかなパンとそこはかとなく野菜や肉がごろごろしたシチューを食べれるのはなんとなく贅沢な気分だ。


 部屋に帰れば藁の敷いてある物置小屋並みの場所ではなく、きちんとベッドのある小綺麗な空間。ここ最近は馬小屋みたいな納屋だの馬車の中だのといった環境に居たので非常に新鮮な気分である。


 という訳でぐっすりたっぷり日が出る頃まで爆睡した後、飯を食べ、ダンジョンに向かい、地面の染みを作りながら少しづつ奥へと向かい体感夕方に切り上げ、帰ったら色々と換金して飯を食い寝る生活を再開する。


 正直自分よりでかい昆虫を相手にしていた頃よりも精神的に楽な気すらする日々である。旅なんて面倒だしふかふかのベッドはこの世界に来て初めての体験なので、元の世界に比べればどうという所はあるだろうが不満などは無く。


 そんなこんなで2か月ほど過ごし、そういえばそろそろこの世界に来て2年か、と思いステータスを確認する。



名前:( )

性別:男

年齢:16

LP:100/100

MP:0/100

筋力:52/52

体力:55/55

技量:57/57

俊敏:62/62

魔力:44/44

知力:58/58

教養:150


 相も変わらず空白の名前に苦笑いしつつも、16歳になった事を確認する。ついでにこれまた爆上がりしているステータスを見て満面の笑み。しかし人間のふりをしてエンジョイしている化け物達のステータスがどのくらいなのか分からない現実に真顔に戻る。


 いや、これでも多少は自分が実は凄いのではないかという慢心を抱きそうになったことはある。具体的にはあんまりにも稼ぎがあることを知った他の冒険者がしれっと襲ってきた時などだ。


 攻撃で出来るのであれば防御でも出来るのでは? という出来心でしばらく試してみたところ本当に出来たノーダメージ化、盾で受け流さなくても避けるぞ防ぐぞの気合いがあればきちんと無効化でき。


 伝説の戦士のごとくなんだぁ今のはぁと言いつつも、やはり魔物も人間も同じシステムで戦っていると言うことをなんとなく理解できた事まで含めて笑っていたら全員逃げていったので特に問題はない。


 ともかく、良い装備の冒険者に囲まれてタコ殴りにされてもレベル差と自動回復で俺つえぇするかの如き無敵っぷり、実にラノベ主人公っぽい事が出来るのは自分が強いという錯覚を抱きそうになる甘い体験というわけだ。


 しかし考えてみれば下を見て気持ち良くなった所でもし上のヤバい奴に襲われれば死ぬのは私。慢心して待っているのは所詮噛ませ犬程度の扱いと地面の染みへの転生だ。


 少なくとも今の自分より強いであろうなと想像できる存在が簡単に3人……人? は見つかる以上、しれっと街中に混ざっている上位者とかそもそも山奥で寝てる系上位者は多いはず。


 その上それらが1番上という保証もなく、なんだったらゲームあるあるで魔王がどうのこうの邪神がどうのこうのといった理由で急にインフレが始まっても不思議ではないと思うのだ。


 高々ステータスが平均50を超えた程度で慢心するというのは流石に甘すぎるだろう。せめて99、100以上があれば999を、1000を超えるなら9999を。いわゆるカンストしてやっと初めて安心できるというものである。先はまだまだ長い。

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