第35話

 ハーシコ王国の王都ハーシコは流石王都というだけあり、今まで見てきたどんな街よりも大きく活発な場所であった。聞くところによれば王都のどこからでも見えるほどの立派な城に、少し離れたところに建っている塔がシンボル的なものらしい。


 塔、といえば確か魔導書をくれた人も塔の人だったか。対立してそうな学院とやらもおそらくは王都にあるのだろう。きっと行くことは無いだろが、名前からして在野から才能ある人を集めるのが塔で貴族とかが集まるのが学院だろうか。


 そんなこんなでおのぼりさん丸出しと言わんばかりにあっちをきょろきょろ、こっちをきょろきょろしながらも無事に王都のギルドとやらにやってきたわけである。看板はハーシコ支店、と。本店とかじゃないんだな、あるいは本部とか。


 そう思いながら入ってみれば、まぁ中身はそこまでお上品という訳でもなさそうな

方々もちらほらと居るものの、全体的に見れば身なりの良さそうな方々が多いように見える。


 まぁ装備品は上等なものだし、金もいっぱい持っているだろうから必然的にそういった事にもなるかぁと思いながら、とりあえず受付に手紙を渡しに行く。これについては方々を回っているときにどこかのギルドでもらった呼び出し状だ。


 呼ばれているんだから客のつもりでいるべきなのか、金を貰っている組織に呼び出されたんだから姿勢を低くするべきなのかは判断に苦しむところだが、別に平素から無礼を極めているわけでもないので普通にしていると、別室へ呼び出される。


 応接間のような所で出された茶菓子を、久々に少しお高目な感じの食べ物を食べるなぁと思いながら味わっていれば、それほど待たされずにどことなく貫禄のある、といった表現が似合いそうなおじさんがやってきた。


 わざわざ茶菓子まで出してくれたしきっと客サイドかなぁなどと思いながらも、流石に足組んで茶を飲みながら顎で返事などと言ったテンプレお調子者仕草は披露することなく立ち上がって軽く頭を下げておく。


「あぁうむ、気にせず楽にしてもらいたい。呼び立てたのはこちらだからね」


 そう言いながら向かい側の席に腰を下ろすおじさん……おそらくギルドの中でも偉い人っぽいというか、秘書っぽい人がお茶出ししつつ控えているので偉い人なんだろう。


 とりあえず楽にと言われたので座る。どうにもこちらを上に立てるような雰囲気ではあるが、かといって全面的にリラックスできるかといえばそんなことも無く。普通な感じで一口茶を飲み。


 呼び立て、そのとおり手紙で来いと言われたのでほいほいと来たわけであるが、よくよく考えれば詳しい要件は聞いていなかったのである。まぁ文面的にはお暇な時に顔を出していただければ的な書きっぷりだったが。


 極論を言えば生活費に心配がない今は常に暇とも言えるし、もし職場の上司超えてお偉いさんにそんな文面で呼び出されたら平社員であれば即急行なわけで。なんやかんやあるというのも噂話含めた推測になる。


 と思っていれば、秘書の方が机に箱を置き、私に中身が見えるように開く。中に入っているのは金属製の名刺とでもいうのが良さそうな、どこぞの村の村長の木札の上位互換のようなもの。


「これについては知っての通り、英雄的な働きをしている冒険者に我々ギルドの方から送らせてもらっているものだ。噂程の特権は無いがね」


 全然知っての通りでもないし噂も聞いたことは無いのだが。そう素直に言ってみれば一瞬空気が固まる。おじさんの方はポーカーフェイスだが秘書の方はえっまじでという顔に一瞬なっていた。


 世俗的な常識とやらに疎いのは事実なので、こいつ正気か? とでもいうような顔はスルーする。と、固まっていたおじさんもこほんと咳払いをしたのち、何事もなかったように説明を始める。


「これについては一種の身分証とでもいうもので、ギルドがその能力を保証できる英雄に贈っているものだ。君のように一見子供にも見えると何かと話が進まないこともあるだろうが、これがあれば話が早いというわけだ」


 一見もくそもまだ子供なんだが? とは流石に口に出さないものの、本当に私が子供のような外見で成人済み男性だったら煽りでしかないのではないだろうか。いやまぁ成人男性のメンタルはしているのだが、ボディとしてはぴっちぴちの15歳の人間である。


 というようなことをやんわりと言ってみれば今度はおじさんの方もぽかんとした表情をしていた。一体何だと思われていたんだ。

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