第34話

 それから10年の月日が流れた……などと大層なことを言えればよかったのだが、いくつかの理由により半年もせず私は王都へと足を運んでいた。


 まず1つ目。単純に移動が面倒である事。移動間も適正レベルの魔物が出てくるゲームデザインと日が沈んだり昇ったりの表現で距離感を増すゲームでの移動すらファストトラベル機能がなければ文句が出るような時代出身なのである。


 徒歩などは言うに及ばず、馬車をもってしても数日かかる距離の移動を何度も何度もしているうちに手元で遊べる時間を潰すことのできる何かの重要性を再認識すると共に、さして快適ではない馬車にも辟易とし始める。


 車酔いや尻がずたぼろ、というよく聞くような症状こそ出なかったものの、がたがたとひどい揺れを起こしながら本気で何もない馬車に揺られるのは苦行認定されるべきという認識は持ったほどである。


 更にこれは2つ目にも関係してくるのだが、他に乗り合わせた客、というか冒険者が居た時もあったのだが、最初こそ話ができたものの私のことを噂でも聞いていたのか、名前を聞きMPの回復とともに使った魔法を見た時点で目も合わせなくなった。


 そう、2つ目。どうにも知名度が上がったというか、有名冒険者のカテゴリーに入っているらしい。その結果一度王都のデカい冒険者ギルドに行きなんやかんやがあるという呼び出しが発生した。


 古いRPGではあるが、勇者が王様に16歳の誕生日に呼ばれるというイメージもある私としては、しかしまぁ16歳にもなっていないステータスと王様に呼ばれているわけではないという事で別に勇者云々は関係ないなと考え直す。


 いや、噂話の中には私のことを若く勇気ある少年的な語り口でもてはやす物もあったのだ。いくつかの街を飛び回り、世間一般では偉業ともいえるような高難度の魔物を倒し地域や人々の助けになる的な。


 それを上塗りするほど「狂気に浸ったような戦い方」「日頃から行う自傷行為」「誰ともパーティーを組まない人間嫌い」といったような一部事実と異なるものの側から見た真実とやらが独り歩きし、混ざった結果どうもヤベーやつ扱いされているのである。


 まぁ何匹かの魔物とは昼夜も無いほど延々と殴りあったし、初めて受けた特殊攻撃というか、ライオンの頭に山羊だか羊だかの胴体、コウモリみたいな質感の羽とヘビやトカゲっぽい尻尾を持ち火を噴く魔物ことキマイラのブレスを正面から無傷だったのは自分でもおかしいなとは思った。


 シールドを張っているとか剣で切り裂いたとか、そういったことも無く別に目の前で炎が分かれたという訳でもなし。純粋に影響を無効化している辺り脇から見ればなおの事異様な光景だったに違いない。


 まぁしかし私側は普通に熟練度上げ兼ねて木の剣をひたすらに振っていたかったわけで。それもまぁ3つ目の理由にもなるが、木の剣ではなくミスリルソードでさっさと戦いを切り上げた時もあった、というか多かったのである。


 3つ目の理由。それは魔物の強さのばらつきが大きいし適正な魔物と戦えないという事だ。


 半年経たずに地面の染みに変えた彷徨う魔物ワンダリングモンスターは数としては2桁になるが、その中で成長の役に立ったなと思える魔物はたったの1~2匹しかいなかった。


 いや、まぁ一回成長を挟めばその後が元は適正レベルでしたというような魔物が型落ちというか格落ちするのは仕方ないのだし、それこそダンジョンに潜っていたところで大差なかった可能性もあるとはいえ。


 もっと魔境のような所に籠るか、効率は悪くとも数を熟していくか。少なくとも彷徨う魔物ワンダリングモンスターを潰して回るというのは少々効率が悪いという結論に至ったのである。


 そんなわけで、新しい修行先の情報集めもかねて、おとなしく呼び出しに応じてほいほいと王都に足を運んだのであった。

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