第31話

 彷徨う魔物ワンダリングモンスター。言ってみればフィールドボス的なものであり、最大の特徴としては本来その辺りにポップしないやたら強い魔物であるという事である。


 一例を挙げれば、本来スライムと角ウサギしか湧かない草原にある日どこかからサイクロプス君がやってきて居着きました、といった感じ。うっかり遭遇すればミンチどころか地面の染みであるわけだ。


 挙句魔物によっては平然と村や街を襲撃するので、討伐してほしい人々がギルドに金を持ってくる。ある程度膨れ上がった依頼金と自分達の実力を天秤にかけて、割に合うと思えばいくつかのパーティー合同だったりで討伐、というのがセオリー。


 というわけで、私は今一人馬車の荷台に揺られて移動中である。目的地はイナカーノ街という所であり、ネメアなる種類のライオンの魔物が目標となる。


 がったがたの道をかなりの速度で延々と揺られながら、1日がかりでようやく着いた街はヘーンキョに比べて街を囲む防壁が薄いというか低いというか、出入り口がやたら通りやすいイメージを抱かせた。


 ……いや、これ一部壊れた所をとりあえずで補修したりしてるだけか? まぁ事前情報とつなげれば大体の想像はつくわけだが。


 近隣にあるダンジョンも入口付近で難度3、最奥の魔物もちょっとでかいゴブリンだという事で潜る意味も無く、おそらく依頼の彷徨う魔物ワンダリングモンスターが居なければ来る事は無かったのではないだろうか。


 そんなわけで宿を探して一泊し、翌朝冒険者ギルドでネメア君ぶっ殺しに行くので今どこにいるかを聞いたところで。真面目そうというか、どことなく頼りなさげな職員の男性に


「ぼっちゃん、えぇとね……その、流石に自分の発言で子供が死ぬというのも目覚めが悪くなりそうというか……普通に教えれるわけないというかね……分かるだろう? 冗談は良くないよ?」


 当然のように情報提供を拒否されるのであった。いや、別に危険だから近寄らないようになどと言って聞いても良かったのだが、それよりも便利なものを今回は持っているのでそれ、受付嬢の書いた手紙を渡す。


「いやぁ、手紙なんて読んでも流石に……流石に……え、いやいや、いやいやいや、しかしいたずらという訳でも……いやいやいやいや……」


 首振りマシーンと化した職員を眺めながらそろそろ教えてくれないだろうかと思ったあたりで、ドゴンッと大きな音。続いて何か大きなものが崩れるような音までしたので、職員を放置して外に出る。


 音のした方に向かえば予想通り、逃げ惑う集団となんとか抑えようとする衛兵に冒険者、そして音の元凶であるやたらでかいライオンの魔物。


 ねこぱんちと言うには豪快に過ぎる腕の一振りで、数人が地面の染みになる光景。人が死ぬところは初めて見るが、まぁ予想通り魔物と同じで地面の染みになるらしい。


 面倒な物語の主人公とかであればここで動揺だとか葛藤のフェイズに入るのだろうが、生憎と私は安全志向の小市民である。そんな無駄な事に時間や労力を割く暇があれば、一発でも多く攻撃を受けて一振りでも多く剣を叩き込む方が大事だ。


 というわけで颯爽と正面からエントリーし、周囲に離れるよう言いながら鉄の剣を振るう。


 がきり、という今までにない手ごたえ。強いて言えばダンジョンの魔物も連撃の内1~2発は偶に弾かれるような感覚はしていたが、これはもう7発……いや8発分くらい弾かれている。


 元々低い攻撃力という事もあり、かろうじてダメージになっている程度の攻撃は、しかし武器を交換する理由にはならない。こっちは熟練度稼ぎのためにわざわざこんなところまで来てるんだ! 延々と付き合ってもらうぞ!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る