第29話

 単眼の巨人ことサイクロプス先輩であるが、青や緑ではなく黄色ベースの3メートルではきかない大男である。私の3倍以上ありそうなので5メートルから7メートルの間くらいではないだろうか。雑ではあるが。


 そんなサイクロプス君であるが、その高い耐久性から難度は測定不能クラス。レベル7冒険者が集まり犠牲を出しながらなんとか勝てるほどであると太鼓判を押される正真正銘の怪物である。


 つまり冒険者になってたった1年の駆け出しが、それも単身で突っ込むなどどう考えても自殺以外の何物でもなく、そもそも遭遇することなどないだろうやべぇ化け物だという話。


 つまり私の周囲からの評価はそういうわけであり、ダンジョン最奥にそんなのがいたのでどんなやつですかねと聞いても嘘つき呼ばわりされることなくすごい顔になりながらも色々と教えてくれる程度の評価である。


 『なんで死んでないのかわかんねぇ』『ああいうのが英雄ってやつなんだろうな』『絶対についていけない』『仕事では関わらんとこ』などと言いたい放題ではあるものの、別に不都合は無いので問題はない。


 と、いうわけで。やってきたのはダンジョン最奥とおぼしき場所、サイクロプス先輩の住居である。さっさと扉を開けててくてくと距離を詰めていく。


 驚くどころかにちゃりと笑い私を待ち構えるサイクロプス先輩の先制攻撃で始まった戦い、その最初の一手で私は少なくとも負けることはないことを確信していた。


 いつもの受け流しとは違う、体感としてまるで複数回をまとめて殴られているかのような衝撃。それを自然とノーダメージで受け流し終えて心で身構えるものの、2発目はやってこない。


 まるで1連撃のようなそれを受けて、返しの7連撃を叩き込む。この時点でいつもの勝ち確延々と棒振りタイムの開始である。高々1発しか攻撃できない雑魚、というには違和感を感じながらも少なくとも私には無意味な攻撃。


「ゴァアアアアア!!!」


 まるで雷が落ちたかのような轟音。目の前の羽虫が叩いても潰せず、あまつさえ刺し返してきた事にお怒りなのだろう。横薙ぎの大振りはしかし奇妙な手ごたえを残しながらも上へと逸らされ、チクチクというには大振りの反撃を食らわせる。


 間違いなく単なる一撃ではない。ではどうなっているのか。延々と受け流しと反撃を積み重ねながら考えるに、いくつかの仮説に辿り着く。


 まず一つは、こん棒のとげの個数で当たり判定が複数回になっている説である。まぁこの説はほかの冒険者が釘バット的な装備や七支刀的な剣を使っていないのでなさそうではある。


 次は上位の魔物においては一撃が複数回分の判定を持っている、という考えである。確かにドラゴンが超高速10連撃とかしている光景は想像しがたいというかしたくないので、その可能性はあるだろう。


 最後に、実はわざわざ連撃などしなくとも一撃に攻撃回数を込めれる、というものである。脳裏に過るのはロン毛の銀髪がやたら長い刀を一振りしただけで複数の斬撃が発生している光景。


 ぱっと思いつく範囲ではこの辺りであるが、実際はどうなのか。2番目であれば特にどうすることもできないが、もし3番目なのであれば多少話は変わってくる。具体的には私の攻撃にかかる時間が短縮されるのでより短時間で多く攻撃ができるわけで。


 試す分にはタダ。いままで半ば勝手に動いていた身体の動きを、どことなくイメージを込めて。最初は変わらず7連撃。受け流して反撃の7連撃。手探りでイメージを変えながら延々と試す。


 時間を忘れ、どれほど剣を振ったかも忘れ。ただひたすらにできるかできないかを試す中で、その瞬間は訪れる。


 手加減して攻撃回数を減らしたわけでもない、最後の一発がなんだかいつもと違う手ごたえの6連撃。掴んだ手ごたえを離さぬよう、より強く、より巧く、より効率的に。


 5。

 4。

 3。

 2。


 そして遂に、ただの一撃を全力で放つ事に成功する。と、同時にべちゃりと地面の染みと化すサイクロプス。あまりにも集中していたので気にしていなかったがよっぽど攻撃したのだろう。


 今までで一番大きい、といってもビー玉サイズの魔石を回収しながら奥に目をやればちょっと豪華そうな宝箱。別に他の冒険者の稼ぎの邪魔にもならないだろうという事で気兼ねなく開けてみる。


 出てきたのは一本の剣。ミスリルソードという点では今の炎の剣とかぶっているが、どことなくこちらの方が攻撃力が高そうである。というか道中宝箱とボス宝箱で前者の方が強い武器が出るのはまぁないだろう。


 あと抱えるとほんのり暖かく簡単な湯たんぽ程度には使えそうなこちらに比べて、どことなくぴりぴりした感じから考えるに毒とか電気の属性ではないだろうか。被っているわけでもないし、私の一番強い武器枠の更新で良いだろう。


 というわけで、ダンジョン踏破成し遂げたぜ!!!

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