第27話

 マイペースながらも楽しい成長の日々を送っている中でも、変化というものはやってくる。無論それは遂に7連撃出来るようになったという事もあれば、新しく拡張されるように建築の終わった冒険者ギルドについてもそうである。


 牛乳飲んで体操してダンジョンに潜る、などというほどのルーティーン化した日常は送っておらず、最低限他者とのコミュニケーションを取るようにしていた昨今。まぁ正直食事場所と換金場所が離れる程度の事しか考えていなかったワケであるが。


 真新しいホールにデカデカと貼り付けられた掲示板、そこに並ぶいくつかの依頼書といった様を見るとそうか、飲んだくれのお姉さんに石を渡して金をもらう組織では無いのだったなと考え直させられる。


 異世界ファンタジー的な光景に感動を覚えつつも、とりあえず依頼文を見てみることにする。特に習った覚えのない文字をスラスラと読める事については気にしない方向である。良い事だからね。


 あいにくと聞いた覚えのない素材の納品依頼だとか、近くに沸いた彷徨う魔物ワンダリングモンスターの討伐だとか、そう言ったものがちょこちょこあるだけであり、どこそこの街への宅配だとか護衛、ましてどぶさらいのような依頼は無いらしい。


 報酬の額についてもかなり幅があるものの、基本的には高額な、最低100万円単位のものが多いように見受けられる。少なくともうさぎ肉の納品依頼10個1万円みたいな、初心者用あるあるのような依頼は無いらしい。


 いや、そこについては私が勝手に記憶からあるあるだと思っているだけでこの世界的にはないないなのだろう。わざわざ依頼など出さなくても業者やら冒険者ギルドから買えばいい的な意味で。


 そう考えると冒険者ギルドや冒険者というのは何処となく初心者には優しくない組織なのだと思うが、よくよく考えてみればまずは村だとかそういった地元で経験を積んで、その上で街とかに来る流れであれば当然なのかと納得する。


 納得した上での話だが、転移というよりは転生、もしくは憑依のあたりではないかと思える現状、唯一自身の出生の手がかりになりそうな物といえば最初に村に入るときに使った木札、なんとか村の村長の紹介状であるが、そう考えるとなんだか怪しい物に思えてくる。


 経験者しか食べていけないような環境に特に何の能力もない若者を送り出すというのと、実はそんな村は存在せず私含めて虚空からポップしたというのと、果たしてどちらの方が可能性が高いのだろうか。


 故郷とやらが存在して、「やぁトム久しぶりだね、やっと帰ってきたのかい? アンナはお前のことをずっと待ってたんだぜ?」とか言われても非常に困るだけであるが、虚空から産まれたにしては元々の自分の身体と全然違うのも不思議だという話。


 いや、もう村に冒険者が居てこれ以上要らないし、食い扶持の無い大した労働力にもならない若造を口減らしに放逐したというのであればおかしくはないか。奴隷として売られるとかそういった話よりはよっぽど温情……いや、どうなんだろう。


 少なくとも金も持たせて紹介状も持たせてとなれば厚遇だったに違いない。まぁ会った記憶も無ければ今後会うことも無い人々の事は忘れて、これからもダンジョンに潜りますか!

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