第22話

 相手より多い人数で囲んで棒で叩けば勝てる。包囲殲滅だとか新選組の必勝戦法だとか色々呼び方実例その他はあるだろうが、結局冒険者の先輩方がやっていることといえばそういうことであった。


 ダンジョン、といえば入り組んだ迷路のような迷宮をイメージするが、実際地図を作ってそれを見ながらでなければ方向音痴であれば遭難もできそうな場所であり。一方で狭い洞窟を松明片手に1列でというわけではなく、謎の明るさのある人が余裕で3人横並びして戦える程度に広い通路と時たま広間のような空間付き。


 見通しの良い通路の向こうからやってくるやたらでかいわりにのろのろとしているコウモリやヘビ、クマなどを先手必勝で袋叩きにしては前進し、広間や通路の行き止まりにぽつんとおいてある宝箱からいろいろと回収して。特に大きなトラブルなどが物語のように起きるわけもなく淡々と初のダンジョンから生還することができたのはまぁ当然の事だろう。


 せいぜいがヘビの3匹、それもうっかり先制を取れなかったがゆえに突進かみつき尻尾叩きの3コンボを決められた3枚目が大したことなさそうにしつつ探索を終える程度だったのだから、何かあれば大問題というものだ。


 ポンッと10万円程度を報酬として渡されつつ、困ったらまた頼っていいぞと言わんばかりの集団の飲み会に巻き込まれた翌日。私は今度は一人でダンジョンへとやってきていた。


 いや、別に自殺希望者なのではないのである。まぁ街にいる他の冒険者が一人でダンジョンに入ったのであればそれはもう自殺しに行ったようなものであるが、少なくとも私は安全重視で効率をその次に考える程度の男である。その上で考えていただきたい。


 私自身の成長曲線であるが、基本的にやっていることが変わっているので一概には言えないものの少なくともスライムを相手に延々剣を振るっている時よりゴブリンを相手に延々剣を振るっているときの方が成長は早かったのは間違いないだろう。攻撃回数が増えるのにかかった期間と何相手に何回剣を振ったかを覚えていないのは仕方ない事として。


 少なくともゲームのセオリーで言ってもそうだし、20を過ぎて中々増加しなくなったステータスを考えてもそろそろゴブリン相手は成長面でいえば効率が悪いのではないかと思うのである。


 いや、ステータスの上限がいくつなのかとか、他人のステータスがどのくらいなのかも知らないので絶対にそうだとは言えないが。元の世界でも19超えれば人外というシステムもあれば99上限、果ては億以上の単位が出るものだってあったのだから、この世界がどうなのかを知らない以上は絶対確実なものはない。


 無いが、しかし難度2扱いのゴブリンと20以降激渋になった上昇という符合から目を背けて鈍感系や勘違い系を目指すには少々厳しいものがあるというか、ちょっと考えればわかることじゃない? などと指さされて笑われるのには耐えられないものがあり。


 かつ難度4相当などと言っていた割にヘビは3連撃だった事を踏まえてみれば、ダンジョンに突っ込むという選択肢は決して間違いなどではないと声を大にして言いたいのである。


 かくして側から見れば先輩の冒険に付き合って自分にも出来ると勘違いした哀れな自殺志願者の少年が生まれたわけであるが、実態は違うからセーフである。

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