第21話

 やってしまったなぁ、と思いながらほとんど空になった財布を眺める。腰にぶら下がる3本目の剣はなんと炎の属性を宿したミスリルの剣、お値段概算で4桁万円にもなった代物だ。


 ミスリル。ファンタジーあるあるの名前であるそれはこの世界においてはダンジョン産出の謎合金の内、低位のものにつけられる名前であるらしい。貴金属よりは安価であり、良い鋼鉄よりは弱く、割と幅広い価格帯になる。といっても単なる鉄などよりは圧倒的に高いが。


 かつ私が今まで一度も触れていない魔法的なサムシングに適性があり、この剣であれば熱に弱い生き物により大きなダメージが与えられるというわけだ。なおかつ基礎的な攻撃力の部分においても鉄の剣よりは高い感じがする。


 具体的に数値化できるわけでもないが、木剣が1、鉄の剣が5くらいだとすればカナリアおじさんの持っていた剣が20とか30、グレートアックスさんが40~50とかだとしてミスリルの剣が10、追加で炎属性5みたいな。5区切りでいえばそんな感じで実際は8とかに近いかもしれないが。無論良いミスリルならグレートアックスさん並みの攻撃力に属性も30とか、ただしお値段数億円相当みたいな感じらしい。上位のファンタジー金属? お金で買えない類の伝説の武器とか国宝だよ。


 とかくまたしても全財産を叩いて武器を買ってしまったわけであるが、これには海よりも浅く山よりも低い理由があるのである。具体的には酒場で安くしてやるからと言われてほいほい買った。実際武器屋で買えば5倍はする感じなのであれだが、ギルドでの買取価格よりはちょっと安い程度なのでぼったくりがどこで行われているのかという話である。


 なんにせよ貯金がないのは不安、しかしまぁ金を稼ぐ分にはあのころと違って困っていないしなぁとのんびり構えていた翌日。さて本格的に無一文だぞと冗談交じりに言っていたら、何故かダンジョンの中に居た。森超えて土の中である。せめて草の生える場所にしてくれ冗談じゃないぞ。


「まぁなんだジョン君、流石に全財産を巻き上げられていたのを見て放置するのも忍びなかったのでな。気にしなくていいとも」

「そうそう! 荷物持ちだけしてればいいし、稼ぎは人数割りとはいかないけど生活できるくらいはあげるから安心して!」

「とか言って、いい所見せてやるって張り切ってる……っつおい! 殴るな殴るな!」

「けけっ、今のはお前が悪いってもんだろ。いくら本当の事だからって……おいいったん落ち着いてその握り拳を下ろせ」

「ほーら、遊んでないでそろそろ真面目になりなー? ジョン君も呆れちゃうって」

「そうですよー。まぁジョン君はお姉さんが守ってあげますから安心してくださいねー?」


 私を危険地帯に拉致った集団こと、現状この街で2番目に稼いでいるパーティー。発言順に優男、活発系、二枚目、三枚目、サバサバ系、おっとり系の男女比1:1のバランス良い6人衆だが、確か二枚目がおっとりのことを好きで二枚目のことを活発系が好きで、三枚目が活発の事好きなんだっけな。で、さばさばとおっとりが優男を好きとかいう内情ドロドロ集団である。


 『関わりたくねぇ集団の偽善に巻き込まれた!』といえば聞こえが悪いが、まぁその辺りを除けば実力も装備も人数もちゃんとしている集団がどうやって戦っているのかを見るまたとない機会であるのも確かなわけなので、デメリットばかりということも無い。


 ぶっちゃけ金稼ぎだけなら森で全力で駆け回ったほうが良さそうとか思ってはいるけどね! 顔にも言葉にも出さないだけで! などと内心思いながら、適当に会話しつつダンジョンを潜っていくのであった。

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