第13話

 鉄の剣でも1発では沈まないツノウサギさんの反撃を木の盾でぬるりと躱し、追加で2連撃を叩き込んで。時偶混じるスライム君は木剣で地面の染みへと変えることしばらく。


 ほんのり買い取り価格の高いウサギさんの魔石と、1種類近場に限定しない狩のおかげで日本円換算では日当4万円近く、月収100万円を超える程度に稼げるようになり、実に安定した生活なのでは無いだろうか?


 さらに言えば時偶地面の染みの上にそっと残るウサギさんのお肉のおかげで、追加収入や食の豊かさが上がっているのである。ひょっとしたら勝ち組なのではないだろうか? ぶっちゃけ嵩張るので偶に放置しているが。


 ……まぁ休日なし毎日日が昇ってすぐに出て日が落ちるくらいまで労働していると言う前提ではあるが。しかも休日など設けようにも遊興費などは無いわけで。これが限界生活というやつであろうか。


 とはいえ休みなど無しでも今の所は問題無く働けているし、そもそも娯楽の発達した世界を知ってしまっている以上はぶっちゃけて言えば遊びなんて無くないか……? 状態でもある。


 正直疲れ知らずに近い上に一晩寝れば大概すっきり快調な身体のおかげという節もあるが、加えれば労働自体が娯楽に近いという説も浮上する訳で。


 ストレス社会と叫ばれて久しい世界出身としては、言葉にすれば毎日散歩しながら物を叩いてストレス発散してるだけで金が貰えるという状況を労働というのも少々抵抗があるくらいである。


 といったような内情を抱えているわけであるが、それを知らない第三者が側から私を見た場合どういうふうに思うか、という話でもあるわけで。


「じょんくんももっと息抜きとかしなきゃらめでふよぉ〜……っぷはぁ!」

「……まあコイツは少々アレだが、俺から見ても坊主はちょっとなぁ……」


 いつも通りに換金を終えて、最低価格のクズ野菜スープにパンを注文しようとした矢先、いつも通りに酔っ払っている受付嬢さんに絡まれたのは、そういったことが原因なのだろう。


 とはいえ最近は食も豊かになったとウサギ肉を掲げて主張してみた所で、返ってくるのは哀れみの目線と首振りくらいのものである。いや、追加で大きな溜息を吐きながら肉を持っていくマスター。


 『材料持ち込みのお陰で10円程度の値上げでスープに肉が入りパンに肉が挟まるのだから実質贅沢な息抜きである』などと声を大にして言いたい所ではあるが、それをした所で納得はされないと言うことはよく理解した。


「ふつ〜冒険者なんて週に1回ダンジョンに行ったら、他の日なんて遊んだり呑んだりれすのに〜」


 ぐでぐでとしながらもひとの肩に回した腕を離さず、しれっとジョッキに酒を入れる受付嬢。というかカウンター席からダイレクトに樽へアクセス出来るのはどうなのだろうか……


 しかしまぁダンジョン。聞きはしても近くにないのだから仕方ないし、一獲千金など夢でしかないのでその普通の冒険者というのは不可能なのである。


 強いて言えばこの街に来た時よりも今の方が金はあるので、ダンジョンのある街へと旅立って一旗揚げるというのも一考の余地は……


「らめれす〜! っぷはぁ、じょんくんがいにゃくなったらまーた誰も冒険者がいにゃくなっちゃうんれふよ!」


 どうやらダメらしい。まぁ一考した上で言えばどんな魔物が出てくるか分からず軽々に命が失われそうな所に現状の能力で行きたくないので、まだしばらくはこの生活を続ける予定なのだが。


「ほれ。……まぁ何だ、偶には冒険者業も休んで遊べって話だ。まだ若いんだからよ……」


 出てきたスープとパンに加えて、一杯のジョッキ。先払いした金額は丁度の筈で、酒は頼んでいないのだが……? マスター?


「サービスってやつだ。まぁそいつに付き合って一杯くらい飲んでみろって」


 えぇ……まぁ一杯くらいなら……

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