第12話

 記憶に残っている某有名RPG、特に竜退治の方で言えば初期装備すら整っていない程度、そういう意見こそあるものの無い袖はふれないので全身鎧など夢の話。


 十数回攻撃を喰らっては鉄の剣に持ち替えて日銭を稼ぐ生活を続ける事しばらく、ある日ふと唐突にそれは起きた。


 いつも通りにスライム君の体当たりを木の盾で受け止めようとした矢先、実に自然に身体が動き、受け止めるのではなくぬるりと流すようにして攻撃を躱したのである。


 驚きつつも2発目の木剣を叩き込んで地面の染みを増やしながら、確認してみればまさかのノーダメージ。つまるところ防御なり回避なりの熟練度が溜まって1ランク上がったと言った所だろう。


 やはり当時の全財産を叩いてでも木の盾を買ったのは大正解だったと言わざるを得ない。慧眼とでもいうべきだろう快挙である。決して無駄な買い物などではなかったし、スライム君の体当たりを受け続けるのも無駄ではなかったのだ。


 ひょっとして攻撃だけしか熟練度溜まらないのでは無いかという不安を払拭された開放感と、これでもう少し危険な魔物を相手にしても稼げるだろうという希望はとても素晴らしい物である。


 というわけで、そのままの足でいつもより更に街から離れたあたり(といっても走れば直ぐ程度の距離であるが)まで出てきたわけである。スライム君を卒業する時期というわけで、歩くこと少し。


 スライムより大きく、はっきりと動物である事がわかるぴょんぴょん跳ねる生き物、ツノウサギさんのエントリーである。急に人型まで飛ばなくて良かったという気持ちだ。


 生憎と可愛い生き物と言うにはデフォルメが足りていないというか、目つき顔つきがちょっと凶悪な感じなので特に躊躇いなく鉄の剣を叩き込んだ所、2連撃すれば無事に地面の染みに転職してくれる。


 相も変わらず豆粒のような魔石を拾いつつ、ひょっとして鉄の剣で2連撃できるようになった時点で遠出していた方が良かったのでは、木の盾とか無駄だったのでは……という考えが頭を過ぎる。


 い、いや、安全マージンって大事だしね? 行けるところまで行ってみようの精神で金は使っているけど、同じように命を使いたくは無いからね?


 だから決して、無駄なんかじゃ無かったんだ!!!

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