第5話

 スライム、といえば多種多様な生き物である、というのが『私の知識』にはあるわけで、例えばどんな魔物よりも弱く食物連鎖の最下層の場合もあれば進化が豊富で極まったら神も超える場合だってある。


 古の創作ならトラップ扱いでエンカウントしたら全滅だとか、そうでなくとも頭を手で追い払えない液体が包むなんて恐ろしい攻撃をされれば種族人間などどうしようもなく詰みである。


 まぁこの世界のスライム君はそのようなことをしてこないだろう、そう楽観視してから見る痛い目は後悔のしようがないパターンであると思うので警戒は怠らない。が、見ているだけでは何もならないのは事実であるわけで。


 ひのきの棒よりはマシであろうが、石の剣や銅の剣よりは確実に劣るであろう木の剣……杖代わりに突いて歩けるものであるが、棍棒というよりは剣に近いそれを振りかぶり、思いきり叩きつける。


 特に武芸などを習っていたわけでもなく、当然ながら喧嘩や暴力とは無縁な一般人であっても、とりあえずスイカ割りの要領で棒を振る程度は出来る訳で、狙い通りにスライムへと当たった攻撃の感触は不思議な物であった。


 ヒットストップ、というシステムがある。例えばハンティングアクションなどで獲物に攻撃が命中した際、『手応え』を感じるようにするシステムであり、無双ゲーなどでは爽快感の為にオミットされがちなシステムだ。


 感じた手応えと起こった現象は正しくそれで、縦に振り下ろした剣は一瞬スライムの表面で止まったかと思えば、そのまますり抜けるようにして地面に叩きつけられる。


 これでスライムが一刀両断真っ二つになっていれば実は恐るべき剣の才能があったのかもしれない、そううぬぼれるところであったが現実はそう甘くなく。一切の傷の無い……まぁ液体なのだから傷などあっても分からないが、ノーダメージに見えるスライムがそこに居た訳で。


 次の瞬間、それまでのんびりとぽよんべちゃりと跳ねていたスライムが、それまで見た事の無いような速度でこちらに跳ね……突撃してきた。


 仮にバスケットボールサイズの水袋が、それなりの硬さと速度でもって突撃してきたとしよう。中が空気のボールですら十分に骨折するだけの威力があるというのに、更に水や泥などで満たされたものをぶつけられればどうなるか。


 というわけで骨をばきぼきに折られ痛みに悶絶する……と思われた矢先。軽い衝撃こそ感じたものの、行動に支障のあるレベルの痛み無く跳ね返っていくスライム君。驚きとは別に再度振り上げて振り下ろした剣は、過たずスライム君へと吸い込まれていき。


 2発目を食らったスライムは、真っ二つになるでもなく、かといって原型そのまま動かなくなるわけでもなく、正しく弾け飛ぶといった表現が適切なレベルで地面の染みとなった。


 こうして初めての戦闘を終えた訳であるが……えぇ、なんというか、ひょっとしなくともゲームっぽい世界ですね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る