第3話
分からない事をちゃんと素直に聞く。大人になると中々難しい事ではあるが、子供である……いや、どうだろう、まぁ主観14歳は子供なので許されるだろうというもので、実際よくわかってないけどもこれで良いのかと木札を掲げる。
陽の高いうちから酒を煽る女性の方が冒険者ギルドの職員で、男性の方は軒先を貸している酒場のマスター。という事が分かったのは、明らかに『俺の仕事じゃないな』という顔をしながらそっぽ向かれたからだけではない。
「あぁ、なるほどわっかりました! つまり村の冒険者が溢れるって事でヘーンキョに来たんですね! いやー先週来たばかりでだーれも冒険者なんて居ないからやっと仕事が出来ます! ……ぷはぁ!」
快活に、想像でこちらの背景を決めながらジョッキを空にする女性。そのまま席を立ちてくてくと隅の方……よく見ると色々と置いてあるこじんまりとしたスペースに向かうと、こちらをちょいちょいと手招きする。
招かれるままに寄ってみれば、上機嫌そうな顔で手渡される金属の札。『冒険者 ヘーンキョ証明』と刻まれているそれを受け取ると、そのまま拍手までされる。
「おめでとーございます! あなたがヘーンキョ初めての冒険者ですね! とはいえ何か特別な依頼も入ってませんし、薬草や肉なんかの買い取りしかありませんけどね!」
どことなくヤケクソ気味にニコニコしながらそう言う女性だが、私としても身分を保証してくれるものが増えてニコニコである。いくらでも偽造出来そうな辺り存外身分の保証などどうでも良いのかもしれないが、まぁそれはそれ。
「あ、そうだ! お名前を聞いても? 名簿の1番上にしっかり書きますので!」
明るかった気分が一気に冷え込む。名前、名前ね。あぁうんそりゃぁ必要だよね、わかる。空白になってて存在しない事を除けば何も問題はないですとも、えぇ。
とはいえ絶望するほどではない。1番最悪のケースでは私が確認できたステータスを、他者も自由に閲覧出来るパターンだ。この場合はもうどうしようもない。無いものは無いのだから。
というわけでしれっと偽名を名乗る必要があるのだが、ここで問題点は2つ。
1つ目は名前自体の雰囲気とでも言うべきか。例えば田中太郎とか山田花子が普及している地域でナントカカントカ・フォン・ウンチャラカンチャラみたいな名前を言ってみた場合を考えていただきたい。即偽名だと思われるだろう。
2つ目はその名前を自分だとイメージ出来るかだ。呼びかけられた時に『誰だろう呼ばれてるの……あぁ私か!』となるのは、酷く違和感になるだろう。結果偽名がバレるかもしれない。
まぁ後者は慣れれば良いだけだし、とりあえずジョンとでも名乗っておこう。未来人でも無ければ身元不明の死体でも無いが、とりあえずで付ける分には問題ないだろう!
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