第2話

『なんだ怪しいやつだな! 名前がない? もしやモンスターだな! 死ね!』

『グワー!』

私は死んだ。スイーツ(笑)


 とは幸いにもならず、藁にも縋る思いで、しかし『ちゃんとわかってますけど?』という雰囲気を出しながら木札を門衛に見せた所、道を教えてもらえた施設。名を冒険者ギルドという。


 非常にテンプレな名前であるものの、どうやら基本は酒場として存在していた店に追加でそう言った機能を持たせたらしい。なんせ看板に冒険者ギルド始めましたとあるのだ。冷やし中華じゃあるまいに。


 そう。冒険者。自分の名前すら定かでない身の上として、出稼ぎといって何があるのか。いや、街並みといえばテンプレートな中世風とでも言うべき古さであり、となれば丁稚奉公などがありそうな時代。


 そういうものは身内のコネであったり、あるいは才覚や知名度といった付加価値があってこそ。親戚知人の存在も定かでない身としてはコネなどあるはずもなく、『自分ってなんだろう』な以上売り物も無い。


 いや、自分の首に縄でも付けながら値札を下げる、という手段もあるかもしれないが、中世風という社会の身分制度についてとんと知らない以上はあまりにも軽率だろう。少なくとも最終手段程度な訳で。


 となれば、ある種の自由業とも言えそうなテンプレ職業冒険者というのは、私に選べる選択肢としては上々であろう、と判断して意気揚々と店内に入ってみれば、想像していた光景とは少々違うものが広がっていた。


 『自分の記憶』において冒険者ギルドといえば、美人の受付嬢辺りが存在し、カウンターに行く前に絡んでくるチンピラなりカウンターで登録する際に絡んでくるチンピラが居たり、後は報酬について絡んでくるチンピラが居る場所だ。チンピラしかいねぇな。


 一方で目の前の空間といえば、丸テーブルがいくつか存在し、キッチン直結のカウンターにいるマスターと思しき男性がのんびり座って、ついでに店員と思しき少女がその対面でジョッキを煽っているガラリとした空間であった。


「おう、どうした坊主。お使い、にしては格好が……ふむ、出稼ぎ辺りか? となれば「ようこそ冒険者ギルドへ! まずは一杯どうです!」……はぁ」


 それで良いのか従業員? いや、酒場としては正解なのか? わからない……私には何もわからない……

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