5
夕方が近づき、俺たちは海の家で休んでいて、並木は相変わらず、グースカ寝ている。そのポロシャツには、スイカを割った時の飛沫が未だに飛び散っていた。
「並木くん、疲れてたのかな」
そう言うのは藤本。
「どうだろう」
俺は曖昧に応じる。並木はマイペースな奴で、今まで慌てたり努力したりしている様子を見たことがない。
「おらっ並木、帰るぞ」
そう言って俺は、並木の顔から、上にかけていた手拭いを剥ぎ取った。
「……え?」
俺たちの間に、奇妙な沈黙が流れる。
そこに、並木の顔はなかった。
代わりにそこにあったのは、黒光りする大きなスイカ。海の家に入った時に見た、確かにあのスイカだ。
並木の首から下と、スイカの頭。
それは、あたかも自然な生命体のように、ぴったりと隙間なく接続されていた。
俺は必死で思い返す。
スイカ割りの後、手拭いを顔から外した後の並木。俺は、その顔を見ただろうか。
海の家で休むと言った並木の言葉、その声を俺は聞いただろうか
その時の俺の頭には、奇妙な想像、妄想が浮かんでいた。
この海水浴場は。
人間に無残に割られたスイカたちがそれを恨んで、復讐のために作り上げた、罠ではないのか?
「あ……え……」
声を上げたのは山田だ。今にも死にそうな喘ぎ声と、そう言って良かった。
「どうした??」と、これは荒垣。
「……私たちが、食べたのって」
俺たちが、この海の家で見たスイカは一個だけだった。それは今、並木の頭になっている。
その赤い果肉、滴り落ちる汁。
並木のポロシャツに、飛び散った飛沫。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます