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この話をするためには、そもそもどうしてこうなったのかを語らなければならないと思う。俺たち五人は、大学二年で、みんな同じ学部のクラスメートだ。夏休みを活かして、伊豆の海岸に海水浴としゃれこんだのだ。
だけど、伊豆まではやたらと長い渋滞が続いているし、運転手の一人を担っていたはずの並木はグーグー寝てるし。イライラし始めた俺たちは、高速を降りて、目的地までのショートカットを探し始めたのだ。
「ねえ、あれなんだろう?」
それに気がついたのは、藤本だった。女子の一人の、可愛い方だ。
運転手の俺は車のブレーキをかける。藤本が指を指す先にあったのは、看板だ。
『……海水浴場
どなたもご自由に』
やたらと古びたどでかい看板で、海水浴場の名称のところは色褪せていて読めない。看板には赤、青または緑、黒が使われているようだったが、赤は特に褪色が激しいようだった。背景は青い海をバックに、割れたスイカの絵が描かれている。よく見たら下の方に小さく、スイカの頭をした男性のキャラクターも書かれているようだ。
また看板下の矢印は、道路の脇に逸れて下の方へと向かう道を指し示していた。今車を停めたこのエリアはちょうど、海水浴客のための駐車場であるようだ。
「ねえ、ここでいいんじゃない?」
そう言い出したのは山田、もう一人の女子だ。
「俺たち、海パンと水ぐらいしかねえぞ? 売店あるかな」
応じるのは荒垣、ここまで荒垣と俺が、交代でここまで運転してきていた。
「どうせ目的地の方は、芋洗いでごった返してるよ、きっと。ここまでの渋滞見たらわかるでしょ」
いかにも暢気そうに口を挟むのは、並木。ここまでグースカ寝てきた男だ。
「瀬島くん、どうする? 降りてみる?」
と、運転手の俺に尋ねるのは藤本だ。
「……そうだなあ。どんな海水浴場か確認してみて、イケそうだったら行ってみるか」
俺はそう答えた。
「わー、すっごーい!」
「綺麗だね!」
などと、口々に完成を上げるのは女子たち。
青い海に白い砂浜、人気のない海岸。海水浴をするには理想的な場所だった。
「ここでいいんじゃない?」
そう俺に声をかけるのは並木だ。
「売店あるか、ここ?」
逆に尤もな疑問を呈するのは荒垣。人がいないのだから、客もいないということであり、商売が成り立つかどうかわからない。
俺たちは周囲を見渡してみる。
「おい、あれ見ろよ!」
並木の指差す先には、古びた平屋の、粗末な建物があった。
「海の家か。行ってみるかな」
そんなことを、俺は呟いたと思う。
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