第5話:ターニャ視点・友情の絆と陰謀の闇

「御親切に教えて下さってありがとうございます、ジョセフィン様。

 私は私的な社交にも参加していなくて、恥ずかしながら何も存じ上げないのです。

 せめて御名前と家名だけでも覚えたいと思っております。

 これからも色々と御教えください」


「あら、そうなの、分からない事は何でも聞いて下さっていいのよ」


 マチルダ様は、私がジョセフィンに虐められているのを悟られたのでしょう。

 子爵家令嬢の身で、一階級上の伯爵令嬢ジョセフィンから私を庇うように、私とジョセフィンの間に入って下さいました。


 余りの事に、私は言葉をなくしてしまいました。

 口先だけはレディーファーストと言う貴族家の令息も、同じく口先だけは剣を貴婦人に捧げるという騎士も、私を庇って下さったことは一度もありませんでした。


 私を初めて庇って下さったのは、マチルダ様でした。

 そしてあの時から今日まで、私を庇って下さったのはマチルダ様だけです。


 あの時のジョセフィンが見せた蛇のような眼を、今でも覚えています。

 私を庇って下さったマチルダ様を睨んだ陰湿で執念深い眼を、今鮮明に思いだしました。


 今回の一件が、あの時の事を根に持ったジョセフィンが仕組んだことなら、少しでも影響があったのなら、私は、いえ、フォーウッド男爵家は、恩を仇で返した事になります。


 マチルダ様は、クリフォード子爵家の経済状況から、ほとんど社交をなされませんでした。


 本当は、私がお金を融通してでも、一緒に社交に参加して欲しかったです。

 ですが、誇り高いマチルダ様に、そのような事を申し上げる事はできません。


 できるだけ名誉を傷つけないように、フォーウッド男爵家の利益になるという建前を作りだして、助けてもらうという条件を整えなければ、一緒に舞踏会にも食事会にも参加する事ができませんでした。


 私の家に遊びに来てもらうだけでも、色々と難しかったです。

 マチルダ様には、手土産一つ購入するのも難しかったのです。


 マチルダ様や当代のクリフォード子爵が悪いのではなく、二代前のクリフォード子爵が友人に騙されて、莫大な借金の保証人にされたのです。


 クリフォード子爵家が持っていた鉱山を奪おうと画策した、二代前のプランプター伯爵が悪徳商人と手を組んで、二代前のクリフォード子爵を騙したのだそうです。


 全ての元凶はプランプター伯爵家だといっていいくらいです。

 それを、またクリフォード子爵家を、いえ、マチルダ様を陥れるなんて、絶対に許せません!


 神々が見逃しても、私が許しません!

 マチルダ様のためなら、家も命も捨ててみせます!

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