第4話:ターニャ視点・二人の出会いと陰謀の渦

 恥ずかしい……死んでしまいたいくらい恥ずかしい!

 父は、金のために私の友人を罠に嵌めたのです。

 金のために私まで騙し利用したのです、私の恩人を踏み躙ったのです!


 父は元々商人で、金の力で母の婿に納まりました。

 元々の商売は表向き弟に任せた形ですが、実際には今も父が差配しています。

 王国でも指折りの悪徳商会です、表向き禁止されている奴隷売買も行っています。


 男爵家の当主に納まった事で、多くの貴族と繋がりを結び、奴隷が欲しい貴族に密かに売り渡し、莫大な利益を得ています。


 多くの貴族が父から奴隷を手に入れているのに、父を蔑みます。

 下賤な商人を婿に迎えたフォーウッド男爵家を忌み嫌います。

 私を同じ貴族とは扱ってくれません。


 父に借金している貴族達は、表だった敵対したり悪口を言ったりしませんが、その態度と視線は私を忌み嫌い蔑んでいます。


 ですから社交は大嫌いで、家に閉じこもっていたかったです。

 ですが父はそんな事を許しません。

 少しでも金儲けの機会を増やそうと、母上や私を使って情報を集めさせるのです。


 あらゆる機会を設けて、奴隷を売ろうとします。

 死にたいほどつらい日々でしたが、唯一の救いがマチルダ様との出会いでした。


 男爵家より一階級上の爵位、子爵位令嬢のマチルダ様は、私の人生で初めて憎しみの眼も蔑みの眼も向けなかった方です。


 私が初めてマチルダ様と出会ったのは、デピュタントでした。

 母娘で流行後れの衣装を着てデピュタントに来られたマチルダ様は、堂々とした態度と毅然とした表情でした。


 貧しくても気高さを失われない、稀有な方だったのです!


 私は一目で惹かれました。

 父の命令で、金にあかせた趣味の悪い衣装を着せられていた私は、恥ずかしくて逃げ出したい思いでいましたが、そんな気持ちはどこかに消えてしまいました。


 マチルダ様の一挙手一投足に目が釘付けになっていました。

 ですが、わが身が恥ずかしくて話しかける事ができず、ただ見つめるだけでした。


「初めまして、私はクリフォード子爵家もマチルダと申します。

 宜しければ御名前を教えていただけませんか?」


 同じ日にデピュタントに参加した令嬢として、爵位が上のマチルダ様から話しかけて下さいました。


 天にも昇る想いでしたが、ずっと忌み嫌われてきた私は、直ぐに家名も名前も口にする事ができませんでした。


 ですがマチルダ様は急かす事も気を悪くすることもなく、私が自分から話すまで待ってくださいました。


「あら、恥ずかしくて自分から名乗れないのかしら。

 まあ当然ですわよね。

 下賤な商売で身を立てた人が父親なのですものね」


 私が一番知られたくない事を、私が惹かれた人に暴露したのは、そう、今マチルダ様を陥れているジョセフィンです。

 この性悪女は、昔からどうしようもない腐れ外道なのです!

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