第6話:友情の力と犠牲の絆

 私が気付いた時には、もう手遅れでした。

 そんな無理をする必要などなかったのです。


 ターニャが悪くないのは分かっていました。

 あのような驚いた顔、申し訳なそうな顔を見れば、ターニャが騙されていた事は明々白々でしたから。


 ターニャは責任を感じてくれていたのでしょう。

 友情を大切にしてくれたのでしょう。

 ですが、ターニャが罪を犯す必要などなかったのに。


 でも、正直な気持ちは、うれしかったです。

 私のために、罪を犯してくれた事は、心から嬉しかったです。


 ターニャがジョセフィンの顔をナイフで切り裂いた時には、喝采を叫びたい気持ちでした。


「ギャァァアァ、いや、イヤ、嫌!

 ギャァァアァ、いたい、イタイ、痛い!

 ギャァァアァ、ゆるして、ユルシテ、もう許して!

 ギャァァアァ、悪かった、私が悪かったから、もう許して!」


「言いなさい、正直に言いなさい、全部貴女が仕組んだのね!

 貴男がマチルダ様を罠に嵌めたのね、正直に言いなさい!」


 血が、吹き出しています。

 肉片まで飛び散っています。

 あまりに想定外の出来事に、周りが凍り付いています。


 誰一人動くこともできず、時間が停止したようです。

 剣の練習など一切していないターニャが、ただ力任せに何度もジョセフィンの顔を斬り付けているので、傷口が広く汚いです。


「や、やめろ、ターニャ、気がふれた、あ、ぎゃぁふ!」


 ターニャを止めようとしたフォーウッド男爵を、父が白手袋をした右手で力いっぱい張り倒しました。


 全く手加減なしの全力平手を喰らって、フォーウッド男爵は三メートルほど吹っ飛びました。


「お前もだ、腐れ外道!」


「ふぎゃぁふ!」


 父がルーカスにも全力の平手を喰らわせて叩き飛ばしました。

 続けざまに想定外の事が起こるので、会場の時間は止まったままです。


 しわぶき一つなく、水をうったような静寂の中、父の声と、殴られた二人の呻き声と、吹き飛んでテーブルや机をひっくり返す音だけが、激しく鳴り響いています。


「我がクリフォード子爵家は、家と娘マチルダの名誉を守るため、卑怯下劣な罠を仕掛けたフォーウッド男爵とルーカスにまとめて決闘を申し込む!」


「私が証言します!

 フォーウッド男爵家の名誉を守るため、父エミールとルーカスが卑怯な罠を仕掛けた事を証言します。

 貴女も認めるわね、ジョセフィン!」


「認める、認めます、だからもう止めて!

 ギャァァアァ、いや、イヤ、嫌!

 ギャァァアァ、いたい、イタイ、痛い!

 ギャァァアァ、ゆるして、ユルシテ、もう許して!

 ギャァァアァ、認めたじゃない、認めたんだからもう許して!」


「死になさい、貴女のような害悪は死んでしまいなさい!」 

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