第1話 入学準備 

借りた部屋は家賃4万円のバスルーム付きの7畳ほどのもので一人暮らしをするのにちょうどいいものだった。両親と購入した家具を搬入し、設置をしながら

「一人で生活できるんかね。」と疲れているせいか嫌味たらしく母は言った。

「そんなもんやってみんと分からんやろ。」適当に返す。

一人で生活か…、少し不安を覚える。男三兄弟の末っ子に生まれ、身の回りのことは兄二人でことが済むため、世の中どころか家事のこともまともに分からない箱入り娘ならぬ箱入り息子状態だった。昔、中学二年生の頃だっただろうか親が不在で兄二人が熟睡中の中、昨夜の残りの牛丼を食べようとご飯を炊こうとしたことがあった。炊飯のすの字もしたことがなかったため既定の水の量より多めに入れてしまい、柔い白飯が炊けてしまった。そのことを兄たちに説明すると呆れた顔でご飯を炊きなおした。そのぐらい家事ができなかった。しかし現在となっては最低限度の家事はできるようになっているはずだ。

空になり、畳められた段ボールが山積みになってきた。父に段ボールを縛るよう言われビニールテープを手に縛り始めた。しかし不器用さと経験不足が相まって思うように縛ることができない。それを見た父は舌打ちをして乱暴にビニールテープを奪い、さっと縛り終えた。

「こんなんもできんのか。」

一気に気分が落ち込んだ。母の放ったあの一言が命中した。

諸々の仕事を終え、あとは細かい作業だけが残った。両親に今すぐやるよう言われたが、正直指図されながら作業をするのはもううんざりだったので何かと言いわけを垂れ、何とか両親を帰した。

ここには自分だけしかいない。もう色々と頼ってはいられない。もうすぐ社会の歯車の一部としての役割を果たさないといけない。 

翌日慣れないベッドで寝たせいで朝の5時前に起きてしまった。ああ、まず何しよう。そうこうしているうちに30分経ってしまった。幸い入学式は三日後にあるため、時間はたっぷりある。とりあえず朝食を買いに着替えてマンションを出た。近くのコンビニはほぼ真下にある。そこで色々と物色したがどうにも食欲沸かない。実家にいたときはそもそも朝食を食べていなかった。食べる時間あるならぎりぎりまで寝ていたかったからだ。借りた部屋のマンションは大学まで歩いて5分ほどなので、朝食を食べる時間はつくる努力をすることにした。悩んだ挙句結局カロリーメイトを買った。一番これがコスパがいい。部屋に戻りカロリーメイトを平らげ、歯を磨きその後ずっとスマホを眺めていた。そういえば、と思いバイト探しのアプリをインストールし、まかないあり飲食店のバイトを探した。料理がまともにできないし、食費を浮かすにはこれが一番良かった。何個か目星をつけ、気づいたら昼食の時間になっていた。

「試しに焼きそば作ってみるか。」材料を買いに自転車を出してスーパーまで漕いだ。焼きそばに必要な材料は何となくわかっているつもりだったが、不安なので一応ネットで調べた。多分ほかの人だったらこんなこと目をつぶってもできるだろうに、と勝手に自己嫌悪に陥った。何とか材料を買いそろえ、キッチンまで戻った。エコバックからもやし、キャベツ、ハム、中華麺を取り出した。まず手順道理にフライパンを下の棚から取り出し、IH の上に置いた。母親は料理のできない息子を危惧してオール電化の物件にしたためガスは使うことはなくなった。これはいい判断だと思った。だがキッチンが狭いことが大きな痛手になった。フライパンを置くとほとんどのスペースが占領され、まな板置くことができない。

ああ、またこれか。要領が悪いとかそういうレベルではないなこれは。

何とか焼きそばを作り終え、食べてみた。野菜が固い、味が薄いし、そもそもソースがまともに絡んでない。不味い。 

何とか食べ終え、食器と調理器具を洗った。それ以降まともに料理することはなかった。三日後入学式を迎える。

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