第92話 赤ら顔の伯爵

 大歓迎だが友好的とは言い難く、御領主様に用が有るのだがすんなり通してくれそうもない。

 門を開けてくれないのなら勝手に開けるまでだ。

 必殺技、ファイヤーボールに魔力を一つ使い、じっくりと見せつけてから門に向けて射ち出す。


 火球を見た魔法使いや兵士達が、門の上から必死になって逃げ出しているが知った事か。

 直径4mを超える火球と、射ち出す為に魔力を一つずつ使った特性ファイヤーボールを食らえ!


 〈ドオォォォン〉轟音とともに出入り口の門と防壁が消えた。


 魔力を一つ使った火球がまた大きくなっているので、暇になったら魔力調整をしなくちゃならない。


 そんな事を考えながら門を通過するが、誰も居ない。


 「ユーゴ、今のが最大魔力か? 雷撃ではどうだ」


 「グレン、雷撃は暫くお預けだ。依頼が片付いたら見せてやるよ」


 空間収納魔法・治癒魔法・転移魔法・結界魔法と四つを固定しているので、攻撃魔法は今のところ火魔法しか使えない。

 一々入れ替えて使うのは面倒なんだよとは言えない。


 魔法使い達に命じて伯爵邸に向かったが、街に人影は無し。

 家々の窓は閉め切られていて、室内からの視線が突き刺さる。

 警備兵達が街角から恐々と顔を覗かせるが、グレンの雷撃を脅しに使い追い払う。


 途中で冒険者の一団に道を塞がれた。


 「止まれ! 冒険者の様だが、街中で魔法を使い多数の被害者が出たとの報告を受けた。私はファルカナ冒険者ギルドのギルドマスターだ。状況を説明しろ!」


 ギルマスの背後に20名以上の冒険者達が、興味津々で俺達を見ている。

 代表してギルマスの前に立ち、男爵としての身分証を見せる。


 「ユーゴ・フェルナンド男爵だ、もう一人、グレン・オンデウス男爵も居るが残りは俺が雇った冒険者達だ。拘束している奴等は、ストライ・ザワルト伯爵配下の者だ。此奴等は、森の中で俺達を待ち伏せして攻撃を仕掛けてきたので捕らえた。此れは貴族同士の争いなので、冒険者ギルドは手を出すな!」


 ギルマスが俺の言葉と身分証を見ながら考えている。


 「此れは本物か?」


 「冗談で持ち歩く様なものに見えるか」


 「街の出入り口を吹き飛ばしたと聞いたが」


 「攻撃を受ければ反撃する。当然の権利だ」


 「ひょっとして、六属性持ちの魔法使いとは貴殿のことか?」


 「まぁな。道を開けて貰おうか、嫌なら排除して通るぞ」


 ギルマスが横により、背後の冒険者達に合図する。

 魔法使い達を促して伯爵邸への道を歩むが、距離を開けて冒険者達がついてくる。

 奴等にとっては、模擬戦より面白そうな出来事を見逃す気は無いのだろう。


 伯爵邸の門は大きく開かれていたが、男が一人立っていた。

 シエナラの冒険者ギルドで、俺を連れに来た男の中で責任者らしきだった奴。


 「お待ちしていた。主人が話し合いたいと言っているのだが」


 「お前か、三度無警告で攻撃を受け、一度は貴族の身分証を見てあざ笑い抜き討ってくる馬鹿も居た。それで話し合いとはなぁ。話し合える価値観と合意に至る努力をする者同士に有効なんだよ。伯爵を連れて来い! 出来ないのなら俺が乗り込むまでだ」


 「騎士団と魔法部隊が全力でお相手する事になるがそれでも?」


 「受けて立とう・・・なんて事は言わないぞ、伯爵邸を破壊して奴の首を切り落とすだけだ。そこを退け!」


 黙って前を開けたので、魔法使い達の尻を蹴り館の正面に向かわせる。

 建物の横から大勢の者が走り出ると横一列に並び、跪くと背後にもう一列並ぶ。


 魔法使い達の背後にコークス達を集めて結界を張ると、俺一人正面玄関に向かう。


 〈パァーン〉〈パン〉〈パン〉

 〈ドーン〉〈ドカッ〉

 〈バキーン〉〈ドン〉


 色々と擬音の嵐だが振り向きもせずに進むと、正面玄関が開け放たれる。

 此方にも魔法使い達が既に待機していて、詠唱と共に攻撃が始まったが目の前で弾け砕け散るだけだ。


 横からの攻撃に対して俺用の障壁を張っていたのだが、正面にも作っただけで驚いている。

 見えない結界はやはり珍しい様だが、立ち塞がる者は排除すると決めている。


 4mを超える火球を見て逃げ出す者多数だが、遠慮無く正面玄関に射ち込む。


 〈ドオォォォン〉轟音と飛び散る散る破片と舞い上がる土埃。


 序でに、横から攻撃してくる魔法部隊に向けてもう一発。

 玄関ホールは吹き抜け・・・向こうが見えているのでもっと開放的な空間になっている。

 カーテンや家具の破片が燃えているが誰も消しに来ない。


 二階の通路にジャンプして執務室をと見渡すと、腰を抜かした男が目に留まる。

 彼の側にジャンプすると、ビクッとして後退る。

 扉の奥は濃厚な人の気配がするので、室内戦用に火魔法から土魔法に戻してザワルト伯爵の執務室かと尋ねる。

 必死で首を横に振るので、礼を言って中に跳び込む。


 〈エッ〉

 〈何だ!〉

 〈怪しい奴め!〉

 〈構わん! 斬れ!〉


 お~お、殺る気十分だね。

 こんな部屋の中では大規模魔法を使えないと承知のご様子だが、ストーンアローの乱れ打ち。

 壁際から広い室内の中央部まで駆け寄る前に、全て腹にストーンアローを受けて戦力外となる。


 上等な身形の男が三人居るが、赤ら顔の男が居ない。

 落ちている剣を拾い上げると、三人の内最年長らしき奴に突きつける。


 「伯爵の身内の様だが、伯爵は何処へ行った?」


 「薄汚い冒険者上がりの屑猫が、誇り高きザワルト家に牙を剥いて無事で済むと思っているのか」


 「思っているから此処まで来たんだよ。誇り高きザワルト家か、冒険者の薬草を横取りしようとする、誇り高き伯爵家ねぇ~。国王陛下が聞けば、コランドール王国の誇りと褒めてくれるかな。お前に聞いても無駄そうだな」


 その男の首を刎ね、隣で震える男に笑いかける。


 「名前は? その身形から屑野郎の身内なんだろう」


 「たっ、助けて・・・」


 「聞かれた事に素直に答える事が生き延びる最善の道だぞ。屑野郎は何処へ行った?」


 泣きそうな顔で首を横に振るが、目は一点を凝視している。

 目は口ほどに物を言い・・・か。


 静かに近づき、思いっきり執務机を蹴り上げる。


 〈ドガッ〉と音がすると〈ヒィィィ〉と答えが返ってくる。


 判りやすい馬鹿!

 人の気配を外して剣を突き入れると〈たったたた、助けてえぇ~〉と声が聞こえる。


 「出て来ないと串刺しにするぞ!」


 そう言って、突き入れた剣をグリグリとひねる。


 「で、出ます。出ますから、こっ殺さ、殺さないで・・・」


 赤ら顔の筈が、蒼白な顔色ではいはいして机の下から出てきた。

 ソファーの方へ行かせると、頭の無い死体とご対面。


 「ガルムス! なんて事を・・・貴様が殺したのか! 許さんぞ!」


 死体を見て逆上した、男の脇腹を蹴り上げて静かにさせる。


 「お前が俺達を襲ったり、机の下に隠れなければ死なずに済んだんだよ。俺達から薬草を奪って、どうするつもりだったんだ」


 座り込んでブツブツ呟く男の顔を蹴り飛ばして、正気にさせる。


 「質問に答えろ! 然もなくば、殺してくれと懇願するまで痛めつける事になるぞ。此奴の様にな」


 伯爵の妾腹の息子と聞いたカイザルの死体を、奴の目の前に放り出す。


 「此奴を痛めつけた仲間が、お前を甚振るのを楽しみにしているんだ。喋りたくないのなら仕方がないな」


 そう言って伯爵の襟首を掴んで庭に向かってジャンプする。

 〈ヘッ〉なんて間抜けな声が聞こえるが、玄関前のドームへ向けて再ジャンプ。


 「コークス、此奴が領主のザワルト伯爵だ。何の為に薬草を強奪しようとしたのか喋らせてよ」


 「殺さない程度にか?」


 「だね。聞きたい事と、納得できる謝罪を受けないとね」


 「納得できる謝罪って、あれか?」


 「グレンも物わかりが良くなってきたね」


 掌を上に向けて首を振っているが、皆は殺されかけたし俺が治療したんだぞ。


 にたりと笑ったコークスがゆっくりと伯爵に近づいていくと、危険を察知した伯爵が後退るが結界に逃げ道を塞がれる。


 「待て! 待て、話せば判る!」


 「話せば判るだぁ~。いきなり矢が飛んできたり、火魔法の攻撃を受けたんだぞ。何処に話し合う余地があるんだ、ん。それより聞かれた事を喋れよ」


 そう言った瞬間〈バシーン〉と音がして伯爵が横倒しになる。

 ほっぺが真っ赤になり見る見るうちに腫れ上がるが、襟元を掴んで引き起こすと再び〈バシーン〉と音がして反対側に倒れ込む。


 痛そうって言うより、奥歯がガタガタになったら喋れなくなるかな。

 連続した往復ビンタを受けて、おたふくの様に頬を膨らませた伯爵は目の焦点が合ってない。

 気付けの為に鼻先にフレイムを浮かべてやる。


 「うわつちちち。止めてくれ、止めて下さいお願いします」


 「なら、聞かれた事に答えろ! 喋らないのなら火炙りにするぞ」


 伯爵が喋った内容が阿呆らしくて、コークスやグレンが呆れ気味だしハリスン達もドン引き。


 森の奥、壁の向こうにドラゴンが居るのは承知しているが討伐は無理。

 そこで思いついたのが、貴重な薬草を王家に献上すること。

 国王陛下の覚え目出度きを目論見、薬草採取に向かった冒険者がいると判れば、帰りを待ち伏せていたそうだ。


 壁を越えなくても、奥地で採れる様々な薬草は最上級ポーションに必要だし、それに近いポーションの材料なので国王陛下より感謝の言葉を貰えるって。

 余りの馬鹿らしさに皆脱力してしまい、誰も何も言わない。


 ご主人様に頭を撫でて貰う為に、人殺しや野盗の真似事をするかねぇ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る