第91話 手加減

 コークスの所へ跳ぶと、血塗れでボロボロの男達が転がっている。


 「何か喋った?」


 「ああ、薬草狙いだ。巫山戯た事に領主の命令だとよ」


 詳しく聞く為に転がっている奴等に連続して(ヒール!)一人怪我が治らない奴が居る。


 (鑑定!・状態)〔死亡〕流石に死んでいては無理か。

 (鑑定!・状態)〔健康〕

 (鑑定!・状態)〔軽傷〕

 (鑑定!・状態)〔健康〕

 (鑑定!・状態)〔健康〕

 (鑑定!・状態)〔健康〕


 残りの5人は怪我が治って驚いて居るが、直ぐに怪我をする事になるぞ。


 「領主って誰?」


 「おらっ、聞かれたらさっさと喋れ!」


 コークスの一喝に、一斉に喋り出したので煩くて聞き取れない。


 「はい、静かに! あんたから喋って貰う、領主って?」


 「ファーガネス領フェルカナの領主、ストライ・ザワルト伯爵様だ」


 あの赤ら顔の糞野郎か。


 「で、どんな命令を受けたんだ」


 「森の奥へ向かった奴らがいるので、待ち伏せして薬草を取り上げろと言われた」


 「それっておかしいだろう。魔法攻撃や弓の一斉射をすればマジックポーチ持ちが死んだら薬草なんて手に入らないぞ」


 「それは・・・隊長があんたが無類の魔法使いだから、包囲したらまず攻撃をして止めを刺してからと」

 「俺達はあんた達に恨みはない。命じられて薬草だけを取り上げる予定だったんだ」

 「死んでいるのが俺達の隊長だ。彼の命令には逆らえない、本当に殺す気なんて無かったんだ!」

 「彼は伯爵様の身内でも在るので、我々は逆らえないんだ」


 「お前達の所属は伯爵の配下なのか、それとも奴の配下なのか?」


 「伯爵様の魔法部隊付きの護衛だ」


 此奴等と魔法部隊の奴等が居れば、証人として十分だろう。


 「取り上げた薬草はどうするんだ?」


 「判らない」

 「聞いていない」

 「俺達は言われたことをしていただけだ」

 「余計な事を聞いた奴は、暫くすると居なくなるので誰も聞かないんだ」


 死んだ奴が此の一団の指揮官で、伯爵の妾腹の息子でカイザル。

 過去に何度か薬草採取から戻ってきた冒険者パーティーを襲い、薬草を取り上げている事。

 待ち伏せは俺達が奥地に向かったコースから、帰り道も推定出来るそうだ。


 「どう思う」


 「遣り過ぎたかな。其奴が生きて居れば伯爵との関係も判ったのだが」


 「それは良いんだ。ザワルト伯爵の指示と判れば、直接聞けば良いだけさ」


 皆の所に戻ると、多数の男達が血塗れで転がっていた。

 その中から土魔法使い四名と火魔法使い五名を引き摺り出す。


 皆に事の次第を話し、ザワルト伯爵とじっくり話し合う必要が有ると伝える。

 理由は簡単、冒険者達が採取してきた貴重な薬草を、伯爵が何度も横取りしている様だと教える。

 今回は俺の抹殺のおまけ付きなので、大人数で襲って来たそうだと伝える。


 「そいつは不味いな。領主軍を敵にするかもしれないぞ」


 「その事に付いては俺に考えがあるんだが、取り敢えずファルカナに行かなきゃならない。預けた馬車を受け取る前に、ザワルト伯爵に挨拶と襲ってくれた礼をしなきゃ」


 * * * * * * *


 死んだザワルト伯爵の息子カイザルをマジックポーチに放り込み、魔法使い達九人と護衛と称する五人を引き連れてサモン村に到着した。

 14人の男を後ろ手に拘束して、数珠繋ぎで村に到着した時から大注目だ。

 幾人かが俺達の姿を見ると慌てて駆け出していき、馬で村を飛び出して行った。


 「こりゃ~、また大歓迎を受けそうだな」


 「グレン、楽しそうだね」


 「やっと、此奴等を引き渡せると思うとな」

 「すんなり受け取って貰えるのか?」

 「そうよねぇ~、伯爵様の配下でしょう」


 「受け取り拒否なら目の前で埋めちゃえば良いのさ。伯爵もね」


 「犠牲者が増えるけど、貴族様を攻撃したら大事にならないか?」


 「えっ、俺も貴族だよ。男爵になる時に、上位貴族には従わなければならないのかと尋ねたよ。そしたら、『普通は上位者には従うものだね。ただそれぞれの器量によるとしか言えない』って陛下の言質を貰っているんだ。それに、攻撃を受けたら反撃するのは冒険者の性だよ」


 「そんな性なんて初めて聞くぞ」


 「そこはフェルナン・・・ド男爵だものねっ。頑張ってね♪」

 「お前はえらく気楽だな」

 「だってグレンの話を聞く限り、ユーゴが伯爵に負ける筈が無いでしょう。伯爵様を手玉に取るユーゴって面白そうじゃない。前例もあるしね♪」

 「危うく死にかけたんだし、相手が無傷って言うのが気に入らないよな」

 「俺達の分も頼んだよ」


 馬鹿話をしながらフェルカナに向かっていたが、馬蹄の響きが聞こえて来る。


 「あら、来たわよ。後はユーゴにお任せね」


 「はいはい。お前達も死にたくなかったら、一塊になれ」


 ハティーの周辺に集まったハリスンやグレンをドームが包み込み、連れてきた魔法使いと護衛達を一ヶ所に集めて琥珀色の結界で包む。

 ハティーの避難所と言うか、ドームに覗き穴が無数に開いているのを見て脱力する。

 高みの見物をする気満々だよ。


 土煙と馬蹄の響きが迫り、眼前で止まる。

 結界に包まれた魔法使い達と俺を見て一人の男が声を掛けて来た。


 「お前達は何者だ?」


 「此奴等なら、ザワルト伯爵配下の魔法部隊の者達と彼等の護衛達だが、知らない仲じゃないだろう」


 俺の言葉に虚を突かれたのか、騎馬の一団が静かになる。


 「俺達は森で彼等に襲われて、危うく死ぬところだったのだ。だから彼等を捕らえて、ザワルト伯爵に何故攻撃したのか問わねばならない。お前達はザワルト伯爵の配下なんだろう。お前達の主人に、フェルナンド男爵が訪ねて行くと伝えろ」


 「フェルナンド"男爵"と言ったな?」


 ん、此奴は以前、シエナラのギルドへ俺を呼びに来た奴等の一人だ。


 「以前会った時はそんな事を言わなかったが、嘘ではあるまいな!」


 「お前達や馬鹿な貴族達のせいで、男爵位を賜ることになったんだよ」


 「では身分証を見せろ。貴族を詐称すればどうなるのか知っているな」


 黙ってマジックポーチから身分証を取り出して手渡す。


 身分証を手にしたがチラリと見ると、結界に閉じ込めた奴等を見て苦い顔を隠そうともしない。


 「確かに男爵の身分証だな。捕らえている奴等を引き渡して貰おう」


 「お前、俺の話を聞いていなかったのか?」


 「ふん、男爵風情が何を偉そうに。伯爵様の配下の者が、戯れ言一つでそのような辱めを受ける謂れは無い。大人しく引き渡さないのなら、力尽くでも返して貰うぞ」


 そう言って俺の身分証を投げ返してきた。


 落ちた身分証を拾い上げると、頭上から抜き打ちの剣が襲ってくる。

 剣が鞘走る音を聞いた時から、戦闘態勢に入っている俺に取って児戯に等しい抜き打ちだ。

 ひょいと首を竦めてやり過ごすと、男の腹にストーンアローを射ち込む。


 男の呻き声を聞きながら、周囲に居る騎士達の馬にストーンバレットを浴びせていく。

 お馬さんに恨みは無いが、高速で射ち込まれたストーンバレットを腹や尻に受け、馬がパニックになり暴れ出した。


 この間に土魔法を削除し、火魔法を貼付する。

 ドラゴンを空間収納に入れているので、攻撃魔法が一つしか使えないのは不便だ。


 街道上で大騒ぎになった騎士達の頭上に、ファイヤーボールを一発射ち込み警告をする。


 「死にたくなければ道を開けろ! 俺達の前に立ち塞がるのなら皆殺しにするぞ!」


 気の早い者は路外に飛び出し草原で伏せているし、後ろの方では〈逃げろ!〉と馬首を巡らして必死で鞭を振るう者もいる。

 だが状況判断が出来ない馬鹿は何処にでも居る。

 パニックを起こした馬から何とか降りると、剣を抜き向かって来る。

 ちょっと手加減をして、1m程のファイヤーボールを先頭の男に向けて射ち出す。


 〈ドオォォォン〉と爆発音が響くと路上に人影は無し、振り向くと剣を捨てて逃げ出す騎士達。

 警告されたら素直に逃げろよ。


 「あんた、最初のファイヤーボールって何よ。あれがあんたの本気なの?」


 「ん~・・・あれの3倍くらいのを射てるけど、魔力が勿体ないからね。ハティーでもやろうと思えば射てるよ」


 「いやいや、あんな火魔法は戦争でも無けりゃ必要無いでしょう。私は土魔法と貰った氷結魔法で良いわ」


 「治癒魔法の練習は続けてる?」


 「最近忙しくて、協力者のゴブリンさんと遊ぶ暇が無いのよね」


 「暇になったら治癒魔法も色々判った事があるので教えるよ」


 「相変わらず、魔法の事を調べ続けているのね」


 のんびりハティーと話しながら結界に近づくと、魔法使い達が怯えた顔で俺を見ている。


 此奴等には見せなかったが、残してきた50人近い奴等は、見せ掛けのドームの中で埋めちゃったからな。

 ドームも3日もすれば崩れる様に魔力を調節してあるので、俺が大規模魔法を使えるとは思っていなかった様だ。


 ファルカナの手前で夜営をして、夜明けとともにファルカナに到着したが、歓迎準備が出来ている様だ。


 全員に防御障壁を張り、念の為にハティーのドームに避難して貰う。

 魔法使い達を門に向かって歩かせると、半泣きで街の出入り口に向かっていたが魔法攻撃を受けてしゃがみ込んでしまった。


 教えていないけど、奴等の前に壁状の結界を張っているんだけどなぁ。

 出入り口の門は閉じられているし、防壁の上にはズラリと兵士や魔法使いが並んでいて、なかなか壮観だ。

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