第89話 待ち伏せ
野営地のドームに帰り着くと、皆がワクテカ顔で待ち受けていた。
「どうだった? 大きいのは獲れた?」
「どれ位の大きさなんだ?」
「王城に飾られている奴よりは大きいんだよな」
「ユーゴ、見せて見せて!」
「出し惜しみするなよ」
「何で俺がドラゴンを持っている事が前提なんだ」
「お前ほどの魔法使いが、ドラゴンを討伐が出来ないなんて事は無い!」
「そうそう、昨日のドラゴン相手だって、呑気に人に指示して自分は見物していたでしょう。私達が危なくなったら助ける為に側に居てくれたし」
「冒険者登録間もない時に、オーク三頭をあっさり倒したしね」
大きめの結界を張り、皆を俺の後ろに立たせてから蜥蜴を取り出す。
〈エッ!〉
〈ウオーォォォ〉
〈ばっ化け物!〉
〈嘘だよな〉
〈・・・マジかよ〉
「ユーゴが時々蜥蜴って言うが、此に比べれば昨日の奴は蜥蜴に見えるよな」
「昨日のドラゴンより、遥かに大きいぞ」
「ユーゴ、昨日の奴と比べてみようぜ」
「やれやれ、あんなに必死で倒したのに、桁違いの大きさだぞ」
「ねぇユーゴ、昨日のドラゴンを出して並べてよ」
皆にせっつかれてマジックバッグからドラゴンを取り出して並べた。
「あれっ・・・さっき、此のドラゴンを何処から出したの?」
「お前、ひょっとして空間収納も使えるのか?」
「そうだけど、マジックポーチやマジックバッグの方が使い勝手が良いんだよ。今回はマジックバッグじゃ収まらないので仕方なくね」
「確かに此の大きさじゃ無理だな。俺達の時も尻尾を切り離してマジックバッグに入れたが、切るのが大変だったんだぞ」
「それそれ、トゲトゲの鱗を見ただけで切り離すのを諦めたよ」
グレンとしみじみ話している間に、ハリスン達がロープを取り出して長さを測っていた。
小さい方が11メートルちょい、大きい方がギリギリ19メートルじゃないかと言われる。
お城の剥製より大きいと思ったので討伐したが、こんなに大きな奴はいらなかったんじゃないかと言ったら、皆から口々に責められた。
依頼を受けたのは俺で、大きさの指定は無かったのに解せぬ。
* * * * * * *
壁の所まで戻る間に、薬草も銀色飛び鼠も予定数の倍確保できて満足。
壁の上で一泊してサモン村に向かうのだが、出会った野獣は大きい奴珍しい奴を二頭まで狩る事にしていたので、マジックバッグが大活躍している。
俺の空間収納に入れろと言われたが断固拒否、ドラゴンを取り出したら土魔法と氷結魔法に戻すんだからな。
ドラゴン討伐依頼を受けたのが10月の半ば、シエナラに寄りコークス達とハリスン達を誘ってファーガネス領サモン村に到着したのが11月の下旬だった。
壁まで17日掛かったので、帰りもその程度は見越しておく必要がある。
壁の向こう側で結構日数を要したので、予定が大幅に狂った。
サモン村に到着する頃には3月か、馬車を引き取って王都に戻るのは3月の半ば以降になりそうだ。
まったく不便な世界に放り込まれた物だ。
帰る道すがら、グレン達が狩ったドラゴンを何処の街で処分するかの話になり問題が発覚。
シエナラやフェルカナで売るのは論外、身元を隠しても此の世界のプライバシーがダダ漏れなのは経験済みだ。
王都の冒険者ギルドで俺の名で売る事にして、代金を受け取った後で皆の口座に等分に振り込む事になった。
ハリスン達は商業ギルドに口座が有るので其処へ振り込む、コークス達やボルヘンには王都の商業ギルドで口座を作って貰う事にした。
一人平均金貨200枚以上は確実だと思われるが、冒険者ギルドの口座にそれだけの金が9人分振り込まれれば、絶対に噂になり身元がばれる。
そうなれば、必ずコークス達やハリスン達を付け狙う奴等が現れるのは間違いない。
グレンは前回の時に男爵になったものの、上位貴族からの依頼や冒険者達から相当な圧力受けたと教えてくれた。
特に酷かったのが仲間に引き入れようとする奴等で、他人を利用して甘い汁を吸おうってのが多かったそうだ。
グレンは一応貴族になっていたので、表だって力ずくでの対応は無かったそうだ。
ただ、高位貴族や豪商達から無茶な依頼は結構あったぞと笑っていた。
それをどうやって断ったのかと聞けば、ドラゴン討伐メンバーと同等な腕の持ち主を集めてくれるのならと、答えていたそうだ。
グレン一人に払う金で済まそうとする奴等には、高額の依頼料を払う気が無いので引き下がるんだと。
* * * * * * *
壁からサモン村に向かって歩き始めて10日目、索敵に複数の人を感知した。
人だと気付いた時には、俺の索敵範囲の半分以下になっていた。
おかしいと思いコークスに人の気配がするので調べると伝えて、列を戦闘態勢へと変えると、魔力を乗せた隠形を纏い列から離れる。
索敵に人の気配は感じられるが姿が見えない、と言うより気配が小さい。
たとえるならヘッジホッグかカラーバード程度に感じられる。
隠形を纏い気配の位置をじっくり観察して判ったのは、半地下の場所に土や草などを乗せて偽装していたからだった。
人数は7人、敵意を感じるが攻撃を受けた訳では無い。
暫く様子見かなと思い、皆の後を追おうとしたとき前方で騒ぎが起きた。
俺が騒ぎに気付いたと同時に、火魔法の破裂音が連続して聞こえてきた。
糞ッ、待ち伏せの包囲網の中に入った様だ。
皆の気配を追ってジャンプして、上空から状況を確認する。
コークス達の気配を中心に前後左右から押し寄せているが、避難所が三つ出来ている。
避難所の横にジャンプして覗き穴から声を掛ける。
「中に誰が居るんだ?」
「ユーゴか、待ち伏せを受けたが俺達は無事だ。後続のハリスン達に火魔法が、コークス達の所に矢が飛んできていたぞ! 俺とオールズは無事だ」
先頭のコークス達にはハティーが居るので怪我人を任せておける。
火魔法の攻撃を受けたハリスン達の様子を見に行く。
「ハリスン! 大丈夫か?」
「痛いけど未だ生きてるよ。ユーゴお願い!」
「壁から離れろ!」
避難所の中に入ると、ホウルが大火傷を負っていたが意識はあり呻いていた。
ルッカスが一番酷い火傷で上半身の右側が焼け爛れているので、魔力二つ分で(ヒール!)
次いでホウルも同じ魔力量で(ヒール!)
ハリスン・グロスタ・ボルヘンも大火傷だが2人ほどでは無いので軽く(ヒール!)と呟いて終わり。
「有り難う、ユーゴ。全然気付かなかったよ」
「話は後だ、コークス達の所を見てくる」
隠形を掛け直して避難所から出ると、完全に包囲されていたが見慣れぬ避難所を警戒してか近寄ってこない。
「コークス、無事か?」
「ハティーが矢を受けて重傷だ、キルザは意識が無い! 急いでくれ!」
避難所の中に入ると、キルザは三本の矢を受けていて虫の息だった。
矢が突き立ったまま(ヒール!)
(鑑定!・状態)〔重傷〕
ハティも胸と腹に矢を受けていて、此方は意識がはっきりしているが動けない様だ(ヒール!)
(鑑定!・状態)〔重傷〕
「コークス、ハティーの矢を抜いても大丈夫だ。俺はキルザの矢を抜く」
キルザの矢を抜くと即座に(ヒール!)
重傷なら魔力二つ分で十分だ、続けて矢を抜いたハティーに(ヒール!)
「有り難う、助かったわ。避難所はどうにか作れたけど身体の力が抜けて」
「ハティー、治癒魔法は自分にも有効だぞ」
「えっ・・・そうなの。でも、自分の身体の矢を抜くなんて出来ないわ」
「そこは亭主にやって貰いなよ」
「俺達が気付いた時には攻撃を受ける寸前だったが、どうなっていやがる!」
「あの~、俺の矢も抜いて治療を頼めないか」
ボルトに催促されて肩の矢を抜き(ヒール!)鑑定の必要無し。
「ユーゴ、俺も痛いんだけどよう」
「コークスも矢を受けたの?」
「ああ、足と左腕にな。浅手だったので自分で抜いたよ」
コークスにも治療を施し、周囲を完全に囲まれている事を伝える。
俺が確認に向かった場所には7人が潜んでいたが、穴を掘り草木を被せて判らなくしていたと話す。
「ユーゴの索敵も穴に潜られたら判りづらいか」
「人が気配を消して穴の中に潜んでいるなんてのは初めての経験だよ。八方向から来たとしてざっと60人前後は居るな」
氷結魔法を削除し土魔法と入れ替えると、足下に穴を掘り地下トンネルを作る。
コークス達をトンネルに押し込んでからグレン達を迎えに行く。
「どうなっているんだ」
「詳しい事は後で、コークス達と合流するよ」
オールズには避難所の覗き穴を塞がせてから、二人の手を取りハティーの避難所に跳ぶ。
次いでハリスン達もハティーの所へ連れて行く。
全員が揃ったところで状況説明をする。
「60人もか!」
「上空からざっと見で、四方八方から避難所に迫って居たからね。一ヶ所7人として56人だけど、もっと居ると思って間違いないね」
「此れほど大がかりな待ち伏せをするって事は、俺達がドラゴン討伐に向かった事を知っている奴だと思うな」
「心当たりは?」
「よせやい、一月金貨五枚の貧乏男爵だぞ。お前の方は?」
「心当たりって言うか、貴族や豪商達の情報網は凄いからね。俺が治癒魔法を使った事は直ぐに知れ渡ったからな。ロスラント子爵様から治療依頼を受けた時に聞いたんだが、主人達が秘密にしていても使用人達から漏れるらしいんだ。それを防ぐには極々少数で内密に行うほかないそうだ」
「おいおい、それじゃぁドラゴンの討伐依頼を受けた事は、直ぐに知れ渡っていたのかよ」
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