第88話 ドラゴン討伐
ドラゴンの攻撃を受けない位置にジャンプして、覗き穴から声を掛ける。
「ただいま~。なんでドラゴンがいるの?」
「ユーゴ!」
「待ってたよ! 早くドラゴンを倒してよ」
「何を呑気な事を言ってるの! 帰って来るのが遅い!」
「そんな事を言ったって・・・俺だってドラゴンを探していたんだよ。中に入るから壁から離れてよ」
壁抜けの要領で中に入ると、皆疲れた顔で俺を迎えてくれた。
〈ドッカーン〉中に入ると一段と凄い音だ。
「ふむ、ドームの強度は大丈夫の様だね。ハティーの造ったやつなの?」
「そうよ、三度魔力を追加したわよ。彼奴を何とかしてよ!」
「こんな安全地帯にいるんだから、ハティー達だけで大丈夫だよ」
「俺達だけって事は、三人でドラゴンを倒せるって事か?」
「落ち着いてやればね。さっき外で見ていたけれど攻撃がバラバラだよ」
「ユーゴ、指揮を頼む! 魔法使いならドラゴンを倒すのは夢だからな」
「お願いね」
「ユーゴさん、お願いします!」
「じゃーグレンはドラゴンが近寄って来たら雷撃を頭にね。両目の中心から奥の一番大きな角を狙って。ボルヘンは口を開けたら特大のアイスバレットを口の中に放り込んでやりな。ハティーは横を向いたら目を狙って攻撃だね、其処以外は射つだけ無駄だよ」
「また来るぞ!」
ハリスンの声の後〈ドッカーン〉と轟音が響く。
突撃して後方に下がる為に横を向くドラゴンをグレンが狙う。
「グレン、何時もの三倍量でやっちゃって」
「えっ・・・とっとと、忘れてた! 何時ものギリギリの魔力だけで攻撃していたな」
「何時もの三倍なら威力も上がるって事ね。もっと早く教えなさい!」
「そんな事が出来るんですか?」
「教えた時に、少ない魔力で魔法が射てる様に教えただろう。少ない魔力で射てるって事は、魔力量を増やせば威力も上がって当然さ」
「勝てる気がしてきたぞ。一発で決めてやる!」
「グレン、頭を下げているから今だよ」
「任せろ!」・・・〈バリバリバリドーン〉
一番大きな角の奥に当たり、十分効き目が有った様で突撃体制のまま巨体が揺れている。
頭に雷撃を食らって呆けたのか口が半開きのドラゴン。
〈行けっ〉の掛け声と共にアイスバレットが飛ぶが、精々50~60cmの大きさだ。
「当たった・・・て、飲み込んでいるよ」
「えぇ~、何だそれっ」
「任せなさい! 暑い夏の贈り物、特大の氷なら得意・・・よっ!」
おぉ~、Ⅰm近い氷塊がドラゴンの口に吸い込まれた。
今度は飲み込めないのか、ちょっとジタバタしている。
「グレン、追加の雷撃は未だなの。じゃんじゃん頭を揺らしてやって」
〈バリバリバリドーン〉〈バリバリバリドーン〉
落雷を二発連続して受け、さしもののドラゴンもふらりと揺れて倒れ込んだ。
「やったー!」
「倒したぞー!」
「凄え・・・」
「やったな親父」
「未だだよ。喜ぶのは止めを刺してからだよ。グレン・ハティー・ボルヘン行くよ。ハリスン達はドームの側で周囲を見張っていて」
グレンはドラゴンの頭側に、俺はハティーとボルヘンを連れて倒れているドラゴンの顎下方向に回る。
ホウルが羨ましそうに見ているので、ホウルも呼び寄せる。
「良いかホウル、顎の下頭の辺りを狙ってストーンランスを射ち込め。ボルヘンとハティーは後に続いて射って」
横倒しになっても藻掻いているドラゴンに、再び雷撃を撃つグレン。
その音を合図の様にホウルがストーンランスを射つと、間髪を入れずアイスランスが顎の下に吸い込まれるとストーンランスが続けて撃ち込まれた。
皆が見守る中で、痙攣していたドラゴンの動きが止まった。
(鑑定!・状態)〔死亡〕
ホウルのストーンランスが2/3程見えていて、アイスランスは1/3程が見えている。
ハティーのストーンランスは、射ち込まれた穴が小さく見えるだけだ。
「おーし、死んだよ。ドラゴンスレイヤーの誕生だな」
グレンを呼びに行くと、マジマジとドラゴンの一点を見つめている。
見ればストーンランスが頭から半分突き出ていて、ハティーも相当練習した様だ。
この威力なら、側頭部に射ち込んでも倒せるだろうと思う。
ドームの側で見ていた皆が恐々と近寄って来て、彼此と言っているがお目々キラキラだぞ。
思いもしなかったドラゴン討伐を、安全地帯から見ていたのだからな。
俺が帰ってきた時の彼等の顔色を思い出したが、同じ冒険者の情けだ黙っていてやろう。
「おい、大きさを測ってみようぜ」
「おお、記録物の大きさだからな」
「ロープを出せ!」
「あぁ~・・・残念だが精々10m少々だな」
グレンが残念そうな声で伝えると、ロープを手に長さを測ろうとしたルッカスの足が止まる。
「判るの?」
「ああ、以前の奴は此れの1.5倍はあったな」
「お城に飾って在る奴から見ると、随分小さいな」
「そんなぁ~、折角ドラゴンを仕留めたと思ったのに」
「凄く大きく見えていたのにねぇ、それでもドラゴンには間違いないわ」
「俺って、ホーンボアやオークしか仕留めてこなかったから、ドラゴンに一発射ち込んだだけで感激です」
ホウルが涙目で言いだした。
お前は高校野球の、お情けで出場した控え選手かと思わず突っ込みそうになった。
一人突っ込みを何とか踏みとどまっているのに、グレンが好い加減な事を言う。
「国王陛下の依頼を受けたユーゴが、もっと大きい奴を狩ってくるさ。此れは俺達の獲物として、内緒でギルドに売ろうぜ。俺達の老後は安泰だな」
「えっ、グレンはもう引退の事を考えているの?」
「よせやい、漸く魔法が上手く使える様になって来たのに、此処で辞められるかよ。此奴を売れば、お前と同じ様な服が買えるだろうと思ってな」
「ああ、正直その服は羨ましいからな」
「ユーゴの服ってそんなに良い物なの?」
「この寒い季節に平気な顔をしているし、夏場だって汗一つ流してないから不思議だったんだ」
「それって幾らくらいするの?」
「生地代は別として、魔法付与は金貨60枚だな」
「魔法付与って?」
「耐衝撃・防刃・魔法防御・体温調節機能の事だよ。専門の魔法付与をしてくれるところが在るのさ。耐衝撃はぶん殴られても蚊に刺された程度だな。防刃は文字通り斬り付けられても切れない、魔法防御は魔法攻撃無効だ。まっ吹っ飛ばされたりはするけど、貴族の服なんて殆ど此れだぞ」
「体温なんちゃらは?」
「暑さ寒さを調整してくれて年中快適なんだ。薬草代金とこのドラゴンを売れば、金貨の袋が二つ三つは手に入ると思うな」
「それならユーゴは大きいのを狩ってきてね」
「取り敢えず、ドラゴンはユーゴのマジックバッグに入れておいてくれよ」
その夜は魔法付与と、俺の着ている服の事に質問が集中して大変だった。
俺の服の生地代だけで金貨の袋が一つちょい必要と聞くと、皆黙っておれの服を眺めているのには参った。
フード付きのローブや上等な生地の街着を含めて金貨140枚ほどで、別途仕立代が金貨10枚と聞き自棄酒を呷っている。
ドラゴン討伐祝いに、エレバリン公爵邸の地下から掻っ払った上等な物を提供したのだから、味わって飲めよ。
高ランク冒険者が着ている丈夫で撥水性のある生地なら、金貨10~20枚程度で購える筈だと教えておく。
何処の世界も、快適な生活は高く付くって事だな。
* * * * * * *
二日酔い気味の皆を置いて、一人で昨日の場所へ跳んだ。
石柱の上で考えていたが、ドラゴンと言えどもでかい蜥蜴だ。
ヨロイトカゲやアルマジロトカゲの生態なんて知らないが、昨日見たのは岩の隙間や倒木の下に居た。
小さな奴は小さい隙間に居るってのは当然だな、なら大きな奴は大きな隙間に入り込むに違いない。
大きな岩が積み重なった場所の、割れ目や隙間を重点的に見て回る。
天は我に味方せり!
午後になり岩の上で日向ぼっこをするドラゴン達、ペットショップで見た可愛い奴とは似ても似つかぬふてぶてしさ。
上空から見ても大きさが判りづらいので、隠形に魔力を乗せて姿を隠したうえに防御障壁を纏ってお散歩。
岩から岩へ跳び、蜥蜴の横で大きさを確認して回る。
グレンやコークス達は、俺がドラゴンの横をのんびりと散歩をしながら、品定めをしているとは夢にも思うまい。
十数頭目に良い個体を見つけた。
黒ずんだ鱗が鈍色に光り虹色が浮いて見える。
王城に飾られていた奴より黒みが強く光沢も素晴らしいが、問題はマジックバッグに収まらない大きさだ。
我に秘策あり、とはいえ余り使いたい方法ではないが仕方がない。
蜥蜴さんに御免なさいをしてから上空へジャンプして、降下速度を調整しながら蜥蜴の真上を目指す。
俺の知る最大速度、戦車砲弾のイメージでストーンランスを撃ち出す。
頭部の角と角の間を突き抜け〈ガキーン〉と音がするが蜥蜴はピクンとしただけで暫くの間痙攣をすると動かなくなった。
蜥蜴の側に降りて(鑑定!・状態)〔死亡〕土魔法を削除して空間収納を貼付する。
さぁ~て、お試しで空間収納を使って以来だが、要領は判っている。
前足に手を当てると全部収まれと念じながら(収納!)
目の前からドラゴンの巨体が消えたが、満腹感は無い。
別にドラゴンを一匹食った訳ではないので当然か。
収納の中の事を考えるとドラゴンが思い浮かぶので間違いなく収まっている様だ。
後は残りの薬草採取と、銀色飛び鼠を捕まえて帰るだけだ。
皆の待つドームに向かって跳ぶが、口笛を吹きたい気分だ。
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